第24話 双星

「……」


初めてのAランクダンジョンは、一言で言うと、洞窟ダンジョンではなかった。


道幅は10メートル程と広く、意匠の施された巨大な柱が白亜の壁面に沿う様に並んでいる。

どう見ても人工物。

異世界にあった、神殿に似た構造をしている。


「さて、それじゃあ――」


内観について、姫宮達は特に気にしていない様だった。

こういった建造物系のタイプを見慣れているという事だろう。


Aランク以上はこういった感じになるのか、もしくは俺が知らないだけで低ランクのダンジョンにもこういった物があるのか……


ま、どちらにせよやる事は同じだ。

特に気にする必要は無いだろう。


「魔物の反応は向こうね」


衛宮玲奈が、手首に付けた時計な様な物を見つめる。

それは魔物を感知するセンサーの様なアイテムだった。


凛音の探索能力に近い物と考えていいだろう。

まあ彼女の場合は地形も把握できるので、正確にはその劣化版ではあるが。


「私が先頭を……」


「うん、お願い」


姫宮の手が光り、剣が生み出される。

彼女の能力は武器精製ウェポンクリエイト

特殊な能力を持つ、魔剣の様な武器を自在に生み出す能力だ。


今作ったのは、恐らくダンジョン内のトラップに対応するための物だろう。

Aランク以上のダンジョンには、トラップがあるそうだからな。


俺達は玲奈の指さした方向にまっすぐ進む。

巨大な通路にトラップなどはなく、暫く進むと天井の高い広大な空間に飛び出した。

広すぎて奥は見えない。


「……」


俺のサーチは、内部にいる大量の魔物に反応している。

そして此方に向かって向けられる、凄まじい殺気。

まだ姿は見えないが、魔物達もどうやら此方を捕捉している様だ。


「聖奈!ハーモニーよ!」


「わかった!」


玲奈と聖奈が急に踊り出す。

事前説明を聞いていなかったら、きっと二人が狂ったと俺は思った事だろう。

だが、伊達や酔狂で彼女達は踊っている訳ではない。


――衛宮玲奈は2種能力者ダブルだ。


そのうちの一つ、ハーモニーは能力者同士の能力を共有するという効果を持っていた。

ハーモニー中は、お互いがお互いの特殊能力を扱う事が出来る様になる。

能力としては、かなり強力な物と言えるだろう。


但し、誰とでも能力の共有が出来る訳ではない。

対象は衛宮玲奈と相性のいい者に限られ、また、相性の度合い次第でその出力に変化がでてしまう。

当然相性が良ければ方が良い程扱える力は大きくなり、悪ければ大した力は出せなくなる。


つまり――2人のこの踊りは親和性を高め、より強い力を引き出すための儀式なのだ。


踊りが終わり、2人が目をつぶって互いの掌を合わせる。

その様は、まるで心すらも通い合わせているかの様に見えた。


まあ実際そうなのかもしれないが。


「デーモンと、それに――」


バサバサとやかましい羽音を鳴らし、複数の魔物が此方へと飛んでくる。

その皮膚は赤黒く、鋭い爪に牙、背中からは蝙蝠の様な羽が生えていた。

デーモンと呼ばれる、悪魔系の魔物だ。


それに少し遅れる様に、地を這う4足歩行の魔物も向かって来る。

一見獅子の様な姿をしてはいるが、その体高は3メートルを超え、まるで象の様な体躯をしていた。

更にその肩からはヤギの頭部の様な物が生えており、尻尾の先には蛇の頭が付いている。


キマイラと呼ばれる魔物だ。


「飛んでるのは私達がやるわ」


それまで瞑っていた二人の目が開き、その体が光に包まれる。

衛宮玲奈のもう一つの能力、バリアフィールドだ。

その全身を覆うフィールドは、攻防一体を担う武器であり盾だ。


「姫。下の魔物はお願いしますね」


二人の体が地面から離れ急上昇する。

これは衛宮聖奈の能力、飛行だ。


「エギール・レーン!アンタもちゃんと働きなさいよ!」


そう悪態をのこし、赤いフィールドを纏った衛宮玲奈が高速でデーモン達に突っ込んで行く。

それに続く様に、青いフィールドを纏った聖奈が続く。


「なるほど……確かに双星だな」


「……うん」


フィールドを纏った衛宮姉妹が、流れる様に次々とデーモン達に体当たりする。

その姿はまるで赤と青の美しい流星の様だ。

それを見て、彼女達の二つ名が双星の理由に俺は合点がいく。


まあ攻撃方法が体当たりってのは、どうかって気もしなくもないが……


およそアイドルに似つかわしくない戦闘スタイルである。

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