第18話 サプライズ

「エギール・レーンさん!今日も短時間のクリアでしたね!今回の攻略について一言コメントをお願いします!」


「ダンレポです!是非今回の攻略について我が社で独占取材を!」


ダンジョンを攻略し、外に出ると記者達が群がって来た。

入る時もそうだったが、こいつら超うぜぇ。

本来ダンジョン周辺は立ち入り禁止区画なのだが、暫くは名前を売るために応対するって事で、郷間が中に入れてしまっているのだ。


「普段はどんな感じでお過ごしになってるんですか?」


「お住まいはどの辺りでしょうか?」


矢継ぎ早に質問が投げかけられる。

それに適当に答えていると、だんだん話が能力やダンジョンの事から、俺個人への詮索へと変わっていく。


「ぜひ仮面の下をお見せいただけませんか!」


「ファンはエギールさんの素顔に興味津々なんです!」


挙句の果てには顔を見せろと求めて来る始末。

見せて問題ないなら、そもそもフルフェイスの兜なんて被ってねーっての。

アホか。


だいたい、何が興味津々だ。

アイドルじゃあるまいし、顏なんてどうでもいいだろうに。


「悪いけど、プライバシーへの詮索はNGで。それと、取材はここまでにしてくれ」


郷間が記者と俺との間に体を挟み込んで、進む道を作る。

俺はその後に続いて凛音の車に乗り込んだ。


「だる……」


「まあ暫くは我慢してくれ。会社の名前を売らにゃならんからな」


こんな事をしばらく続けなければならないのかと思うと、正直ゲンナリだ。

ぶっちゃけ、ダンジョン攻略の100倍は疲れる。


だがまあしょうがない。

郷間の会社を軌道に乗せるには、能力者を獲得する必要があるからな。

そのためには、現状エースである俺が有名になって、会社の宣伝をする必要があった。


誰だって、名前も知らない様な、よく分からない会社に好んで入ろうとは思わない。

知名度は重要である。


「あ、そうだ郷間」


「ん?どうした?」


「今日からお前の事死ぬ程鍛えるから」


「は?え?」


俺の言葉に、郷間が間抜け面になる。


「えーっと、冗談……だよな?」


「俺は至って本気だぞ。お前自身でダンジョンをクリア出来る様になってた方がいいだろ?」


郷間の会社は引き抜きで戦闘系の能力者がいなくなり、残されたダンジョンをクリアできず窮地に陥っている。

また同じ様な事が起きないとは限らない以上、万一の際、自分の力で対処出来る様になっていた方がいいだろう。


金を稼ぐとは決めたが、俺は一生ダンジョン攻略に関わるつもりは更々ないからな。

まあ本当にどうしようもなくなったら友達なので手伝ってはやるが、自分で出来る事は自分でさせんと。


「いや、いやいやいや!鍛えたからって、ダンジョンなんかクリア出来る訳ねぇだろ!俺の能力は鑑定なんだぞ!?」


「魔法で限界を上げて鍛えるから、Cランクダンジョンぐらいなら自力で攻略できる様になるさ」


「え……まじで?」


「信じろって。まあ魔法で限界を引き上げる時に痛みがあるけど、たかが知れてる。俺だってそうやって強くなった訳だからな」


魔法による限界の引き上げは、実際にはちょっときつい所ではない。

悶絶級の痛みが伴う。

だがまあ、嘘も方便と言うし、強くなれるんだから些細な事だ。


「むぅ……痛みか。けどまあ、確かにCランクが攻略できる位強くなるのは魅力的だな。よし!任せたぞ親友!」


「おう!任せろ!」


ふふふ、地獄の入口へようこそ。

英語で言うと、ウェルカムトゥヘルだ。


「あ、蓮人さん。でしたら私も一緒に鍛えてくれませんか?出来たら強くなりたいんで」


「え……いや、それはちょっと……」


異世界では、女性でも当たり前の様に限界の引き上げを行っていた。

だがそれは生きるか死ぬかの世界だったからだ。

平和な日本で、必要のない力の為にあの魔法を凛音に施すのは流石に躊躇する。

一応妹キャラだし。


「どうかしたんですか?」


「ああ、いや。なんというかその……死ぬ程きついんだ。限界突破の魔法」


「え?そうなんですか?」


「おいこら!ちょっとって言ってたじゃねぇか!?」


凛音に説明したせいで、郷間にばれてしまった。

まあ仕方がない。


「細かい事は気にするな。郷間は男なんだから、根性で耐えればいい」


「滅茶苦茶言いやがる」


「まあお前は、ダンジョン関連に人の事無理やり巻き込んでんだ。自分は嫌な事したくないとか、そんな寝言は言うなよ」


「……ちっ、わーったよ。その代わりお手柔らかに頼むぜ」


郷間は諦めた様に首を竦める。

そうそう人間諦めが肝心だ。

だがまあ、限界突破の魔法を2回かける事は黙っておこう。


サプライズって奴だ。

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