3.サバイバル実習 その②:優等生
翌日、朝食を終えた私たちは『クラス拠点』の中央へ集められた。
座る私たちの前には、担任教師ではなくクラウディア教官が立っている。まさかまさか、予想外の人選である。半ば隠遁気味の教官までもが引っ張り出されているとは、今回の
「クラウディア・ローゼンクランツだ。普段は初等部に基本的な体術を教える傍ら、剣術クラブで剣術を指導している。担任教師は皆の評価で忙しいため、代わりに私が
皆は他人行儀な拍手でクラウディア教官を歓迎する。ほどほどのところで、教官は拍手を収めさせ早速説明に入った。
「では、『サバイバル実習』の説明に入る。今回の
説明に合わせて杖が振られる。すると、私たちの頭上に文字の群れが投影された。
『一日三回戦 一回3セクション 1セクション一時間(移動10分 戦闘50分)
8時~11時 一回戦 11時~12時 インターバル
12時~15時 二回戦 15時~16時 インターバル
16時~19時 三回戦』
一日がかりで合計9セクション。1セクションに戦闘時間が50分あるということはつまり、単純計算で一日に最大で450分(七時間半)も戦うことになるのか? これは相当にキツイ。
続いて、その文字の隣に戦場の簡略図だろう正三角形が現れる。正三角形は三等分され、右下部が赤色に、左下部が青色に、上部が黄色に光る。
〔図1.初期領地 https://bit.ly/3tcDBnZ〕
これは旗の色に対応しているのだろう。右下の赤が
「まず、それぞれのクラスには49個の『拠点』と1個の『クラス拠点』が与えられる。これを奪い合い、最終的には他クラスの『クラス拠点』を制圧を目指す」
再び杖が振られ、『クラス拠点』から他領地へ向けて放射状の線が引かれ、その上に大量の丸が現れた。
〔図2.初期配置 https://bit.ly/360JaNx〕
この丸いのが『拠点』だろう。49個の『拠点』に頂点の1個の『クラス拠点』、合わせて50個、三クラス合計して150個。これらを奪い合えと。
一つだけ説明と異なっているのは、三角形の中心点にひときわ大きな『灰色の拠点』があることだろうか。疑問を抱くと同時、まるで私たちがそれに気付くのを予測していたかのように、ちょうどクラウディア教官が説明をしてくれる。
「これは『
何とも意味深長な言葉だ。すぐにでもその意味を詳しく聞きたかったが、機先を制するように「質問は後にまとめてするように」とクラウディア教官が釘を刺してくる。受け付けてはくれるようだから、聞くのは後で良いだろう。
「第1セクションが始まると、お前たちは攻撃側1クラスと防衛側2クラスに分かれる。攻撃側は1セクションごとに交代し、3セクションの間に
この時、二つの制約があるとクラウディア教官は言う。
一、ある『拠点』に派遣できる人数は必ず二人以上。
これは生徒同士の連携を見たいからであり、上限は特に設けていないそうだ。
二、攻めることのできる『拠点』は、既に所有している『拠点』から縦横斜めに隣り合っている『拠点』のみ。
〔図3.拠点間連絡網 https://bit.ly/3ic4zpm〕
二の説明に合わせて、蜘蛛の巣のような破線が『拠点』間に細かく張り巡らされた。攻撃可能な『拠点』はこの線が繋がる先のみで、いきなり間をとばして『クラス拠点』は攻められないということか。まあ、当たり前といえば当たり前だ。
「10分の移動時間が終わると即座に簡易的な結界が展開し、50分の戦闘時間に入る。戦力が均等でない戦いの中では、きっとあらゆる不都合が君たちを襲うことだろう。だがしかし、その上でベストを尽くしてみせてくれ」
戦闘の混乱で
「この戦闘で攻撃側が勝利した場合、或いは誰も守っていない『拠点』を攻めた場合は、『拠点』の奪取に成功しクラスの版図を広げられる。だが、決着付かず時間切れになったり、敗北を喫してしまった場合はそのままだ。そして、どちらの場合でも間を置かず次のセクションの移動時間へ入る」
ルールは直感的なので理解はそこまで難しくない。要は勝てばいいのだ。勝てば奪えるし、守れる。逆に負ければ奪えず、奪われる……それだけだ。
「期間は本日8月15日~21日までの七日間だ。――と、まあ、私に用意された説明は以上になる。何か質問はあるか?」
その問いかけに対し、いの一番に「ハイ」と品良く挙手してみせたのは、
今回も、生来のリーダーシップを発揮する気満々のようで、綺羅びやかな長髪を靡かせながらすっくと立ち上がる。
「期間中に『クラス拠点』を奪った場合、奪われた場合、また奪えなかった場合と想定できますが、どのように勝敗や優劣を付けるのですか?」
「ほう、良い質問だな。それは確か加点対象だったぞ。喜べ」
教官の言う通り良い質問だ。想定は容易だが、キチンと明確にしておくに越したことはない。しかし、やはり説明をクラス別に分けたのは、そういうところも見るためか、油断できないな。
「どこかの『クラス拠点』が奪われた場合、まずそこの所持する『拠点』が全て奪ったクラスへ譲渡される。奪われたクラスはそこで『サバイバル実習』を終了し、残った二クラスは続行だ。この時点では奪ったクラスが一位、奪われたクラスが三位、そのどちらでもないクラスが二位となる。この後、二位が一位の『クラス拠点』を一つでも奪えば順位は逆転だ。この時、もともとの一位の『クラス拠点』を奪った場合は総取りで『サバイバル実習』も終了だ」
要するに『拠点』をいくら取っても足がかり以上の意味はなく、順位を決するのは『クラス拠点』。狙うべきはそちらということか。
「――そして、どこも『クラス拠点』を奪えなかった場合は、ポイント制にて優劣を決する」
ポイント制? ここで思わぬルールが飛び出してきた。
「『拠点』の制圧状況に応じて、一日ごとにポイントを付けていく。このポイントは毎日公開される」
「なるほど……」
ヘレナは少し考えるような素振りを見せた後、続けて質問した。
「進行上、伸び切った戦線を断たれ孤立した『拠点』が生まれうると思われますが、その場合はどうなるのですか?」
「孤立した『拠点』は、例外なく分断したクラスの『拠点』となる。先の『クラス拠点』を巡る『拠点』の総取りも、このルールに準拠するものだ」
孤立した『拠点』は、孤立させたクラスの総取り。『クラス拠点』が陥ちれば他の『拠点』全てが孤立したと見做される訳か。
このルールは今のうちに知れてよかった。一気に複数の『拠点』をやり取りするとなれば、攻防の焦点となること間違いなしだ。いざその状況になってから狼狽えずには済みそうだ。
「では最後に、『
「どのクラスの初期領地でもない。ゆえにどのクラスも攻められるし、またどのクラスも守れる。つまり、一度どこかのクラスが占領するまで、ここは三つ巴の形になる訳だ。一度どこかのクラスが占領してからは通常の『拠点』と同じ扱いをする。三クラスの領地へ繋がる結節点として、激戦区の役割を果たすことを我々は期待している」
「先程、女史は『クラスの戦略方針によっては大きな意味を持つ』と仰られていましたが、その意は?」
「『
「中央に近いほどポイントが高い……そうですか、私からは以上です」
ヘレナが質問を終えると、教官は他の生徒たちの顔を見回した。誰も質問はないようだ。疑問は全て、ヘレナが代弁してくれたから。
そんな生徒の様子を確認し、クラウディア教官は大きく頷いた。
「では、これから九時の開始時刻まで好きに作戦会議でもしていてくれ。武器はあちらのテントに纏めておいてある。戦闘の中で消耗するだろうから、山ほど用意しておいた。ああ、それと質問は常時受け付けているので、分からないことがあればいつでもなんでも聞いてくれ」
それだけ言うと、教官は武器があるというテントのもとへさっさと歩いて行った。
(……畜生、あんまり良いところ見せらんなかったわ)
これでは、ただでさえ高いヘレナの株がまたもや上がっただけだ。ここから挽回して行かなくては。
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