第58話

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 058_冬でもラビリンス

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 賢者ダグルドールの紹介でやって来たピニカは、ロドニーを驚かせた。

 ピニカはなんと車の変速機や、サスペンションなどを自力で作り上げてしまったのだ。

 基本的な構造や発想はロドニーが与えたが、完全なものとは程遠いものから形にしてしまった。『創造錬成』とはなんと素晴らしい根源力なのかと、感嘆する。


「ろ、ロドニー様。こ、こんな感じでどうでしょうか?」

「お、いい感じだ。ピニカは凄いな。俺ではまったく作れなかった部分がどんどんできていく」


 自動車を造るのに、必要な部品は全部ピニカが創った。その部品を組み立てて、自動車が完成すると本気で『ピニカは神』かと思うほどだった。


「雪融けを待って試験走行をしようか!」

「は、はい」


 ピニカは発電機の発電効率まで向上させた。古代兵器のビーム砲の発電機なのに、それをさらに改良することができたのだ。

 そういうところは根源力の力ではなく、彼女が持って生まれた才能だ。ロドニーは根源力もそうだが、彼女の稀有な才能のほうこそ有用だと感じていた。


 発電機を改良したおかげで、ビーム砲の出力も上がる。これも雪が融けてから試し撃ちをすることになった。


「ピニカ。ご苦労様。これは今月の給金だ」

「あ、ありがとうございます」


 ロドニーから手渡された革の小袋を開けて、初めての給金を眺めたピニカが固まった。


「どうした? 足りなかったか? すまんが、他の者の給金も考えると、あまり多くは与えられないんだ。堪えてくれないか」

「いいいいいいいいいいいえっ! ぎゃ、逆です。多すぎます」


 大金貨1枚。王都で5カ月は暮らせる金額になる。

 15年以上勤めた領兵の基本給が、月に小金貨2枚。その5倍をたった1カ月、しかも試作品を創っただけでもらえてしまった。

 孤児で施設育ちのピニカが見たこともない大金だ。ピニカが驚愕するのも当然だろう。

 だが、年間大金貨12枚を払っても、惜しくはないと感じる程ピニカの才能は素晴らしいとロドニーは感じていた。


「いや、ピニカのおかげで俺が行き詰まっていたことが全部できてしまったんだ。もっとあげてもいいくらいだ。だけど、さすがにこれ以上はちょっと無理なんで、本当に悪いな」

「いえいえいえいえいえいえ。ありがとうございます。ありがとうございます。ありがとうございます。ありがとうございます。私、こんな大金見たことないです。本当にありがとうございます!」


 ピニカは感激して何度も頭を下げた。


「明日は休んでいいぞ。その後は、船の部品を創ってもらうけど、大丈夫か?」

「わ、私、な、なんでもします。が、がんばります」


 雪が融けるまでまだ時間がある。そう思って研究施設を後にしようとしたロドニーだったが、そこで思い出した。


「農作業に役立つものを作りたいんだけど、今度イメージ図を描いて渡すな」


 雪が融ければ、開墾を進める。あまり平地がないので広げられる耕作地は限られているが、できる限り広げたい。

 住宅地が足りなければ、山の斜面に建てればいい。この領主屋敷も小高い丘の上に建っている。平地はできるだけ食料生産に使いたい。


 ピニカが休んでいる間に、農具のイメージ図を描く。

 ロドニーの『造形加工』でも作ることができるものだ。1発で完成品ができるのなら『造形加工』を使って作るのもいい。だが、ほとんどの場合が何度も試行錯誤する。その時間が今のロドニーには惜しい。だから、ピニカに任せる。


 時間が惜しいと思っているのは、孤島の迷宮の探索をしているからだ。

 陸から石の橋を設置して、孤島の迷宮に繋げた。その橋もピニカに手伝ってもらい設置した。ピニカはとても役立っているのだ。


 孤島の迷宮の中央部は相変わらず資源はなかった。だが、奥へ進むと、まるでマチュピチュのような遺跡がある。

 そこにはトカゲが二足歩行したような人型のセルバヌイが居た。そのセルバヌイは、なんと翼を持っているのだ。つまり、空を飛べるのである。


 ロドニーはトカゲのセルバヌイをドラゴニュートと名づけ、その生命光石を経口摂取した。

 取得した根源力は『轟雷』、ロドニー以外だと『雷撃』を得ることができる。『雷撃』も『轟雷』も対象に雷を落とす根源力だが、その威力は真鋼巨人でさえダメージを受ける。仮に生き残っても、感電して動けなくなる効果があった。


 ただし、問題もある。ドラゴニュートは数が少なく、さらに非常に強いのだ。真鋼の巨人並みの硬い鱗に覆われていて、動きが速く、力もあって、武器に槍を持っていて、飛べて、ブレスまで吐く。とにかく厄介な相手なのだ。

 ブレスは炎や水など多種多様な属性を吐いてくる。これがまた厄介極まりない。


 戦闘民族である青狼族は放出系の根源力を持たないので、ドラゴニュートに空から一方的に攻撃されて非常に相性が悪い。だが、真鋼巨人には相性が良かった。

 真鋼巨人は硬く力が強いのだが、動きはそこまで速くない。動きの速い青狼族は、攻撃を受けることなく一方的に攻撃ができる。しかも、一部の精鋭は真鋼巨人の体に傷をつけることができた。


 現在、廃屋の迷宮と孤島の迷宮に、領兵と青狼族を入れて狩りを進めている。

 ・廃屋の迷宮6層まで ⇒ 従士たちが交代で領兵を率いる

 ・廃屋の迷宮7層 スノーマン、白熊 ⇒ 騎士ホルトス率いる領兵10+青狼族50

 ・孤島の迷宮西側 グリーンスネーク、ブラックバイバー ⇒ 騎士ロクスウェル率いる領兵10+青狼族50

 ・孤島の迷宮東側 鉄巨人、各種真鋼巨人 ⇒ 騎士ロドメル率いる領兵10+青狼族の精鋭戦士50

 ・孤島の迷宮中央遺跡 ビックタランチュラ、ビックアリゲーター、ドラゴニュート ⇒ ロドニー、ユーリン、エミリア、元族長フェルド、従士ホバート

 これだけ大がかりな人員をラビリンスに入れることは、冬ではないことだ。


 農具のイメージ図とどういうことに使うかを書いてピニカに渡すと、ロドニーは孤島の迷宮に向かった。

 青狼族による雪かきが行き届いていて、領主屋敷から港、そして橋を通って孤島の迷宮に向かう。石の橋は荒波にも負けない太い橋脚になっている。幅も広く2メル程あり、馬車でも通行できる。


 橋を渡って砂浜に上陸する。そこから中央を進むと、冬とは真逆の暑さがロドニーたちを迎えてくれる。

 出てくるセルバヌイは、エミリアとフェルドが競うように戦う。この2人は相性が良くお互いに切磋琢磨する感じで競っている。


 『氷水操作』でビックアリゲーターの動きを止める。そこにエミリアとフェルドが飛び出していく。


「やったーっ! 私の勝ちー」


 たった1閃しただけで、ビックアリゲーターは塵になって消えた。


「むむむ。お嬢、今のは俺の獲物だったんだぞ」

「早い者勝ちだよ、フェルド」

「ぐぬぬぬ。今度は勝つ!」


 相性はいい……はずだ。

 そんな2人を引きつった顔で見ているのは、従士ホバート。バニュウサス伯爵の末弟だが、今はフォルバス家の従士になっている。

 ホバートはボラサス騎士剣術を学んでいるが、腕は人並みだ。ボラサス騎士剣術はバニュウサス伯爵家の御家流になっている戦闘術で、剣と盾、弓、そして騎馬を使うオーソドックスな流派になる。


 剣の腕は人並みでも、良い根源力があれば化け物にもなれるのが、この世界だ。ホバートはバニュウサス伯爵から餞別として、4つの根源力を取得させてもらえた。『剛腕』『強脚』『堅牢』『幸運』である。いずれも中級根源力だが、この中で目を見張るのは『幸運』だ。


 バニュウサス伯爵家が治めるザバルジェーン領のラビリンスのセルバヌイの生命光石から、この『幸運』が得られる。王国内ではそのラビリンス以外に、この生命光石は産出されないので貴重なものだ。

 バニュウサス伯爵家はこの生命光石を門外不出に指定しており、王家にさえ献上していない。

 決して戦闘力が上るものではないが、攻撃が敵の急所に当たりやすくなったり、滅多に出ないアイテムが少しだけ出やすくなるなど、運がよくなる効果がある根源力である。


 ロドニーは運が良くなることに着目した。探索にホバートを連れて来れば、アイテムが出やすいと考えたのだ。ただし、今のところ彼の運を発揮することはなかった。ホバートが手を出すより先に、エミリアとフェルドがセルバヌイを倒してしまうからだ。


「あいつらにつき合っていたら、こっちが疲れる。気にするな」

「は、はぁ……」


 ロドニーがホバートの肩に手を置いた。


「ドラゴニュート戦はフェルドは役に立たない。その時がチャンスだ」


 フェルドと数体の青狼族に放出系根源力を覚えさせたのだが、誰も放出系の根源力を上手く使えない。肉体強化系根源力であれば、人間よりも上手く使うのに、放出系の根源力は発動さえしないのだ。

 おそらく種族的な相性があるのだとロドニーたちは考え、青狼族に放出系根源力を与えるのは止めた。個人的に覚えたいというのであれば覚えさせるが、そうでない時はあえて勧めなくなった。


「遺跡に到着したぞ」


 森の木々が開け、小高い丘の上に遺跡のような石造りの廃墟がある。ここでも廃墟かと、ロドニーたちデデル領に暮らす者たちが思ったのは記憶に新しい。


「ドラゴニュートへの攻撃は、ホバートが最初だぞ。分かっているな、エミリア、フェルド」

「はーい」

「承知している」


 他のセルバヌイもそうだが、『幸運』持ちが戦闘に参加するとアイテムの発生率が上がる。これはバニュウサス伯爵家内で普通に知られていることだった。


 ドラゴニュートを発見した。ロドメルと同じくらい逞しい体のセルバヌイだ。鱗の色は茶と緑の2種類が確認されていて茶のほうが防御力に優れているが、緑のほうはスピードが優れている。


 ロドニーよって授けられた根源力『高速回転四散弾』を、ホバートが放つ。放出系根源力の中で最高の速度を誇る攻撃は、緑ドラゴニュートでさえも避けることはできない。

『高速回転四散弾』が着弾して激しく切り刻まれたドラゴニュートだが、まだ生きている。さすがの防御力だ。

 ボロボロの翼を広げ空へと飛びあがったドラゴニュートは、ヘイトの高いホバートへ向けて口を開ける。


「お兄ちゃん、ブレスが来るよ」

「応!」


 尖った歯が無数に並ぶ口内から、炎のブレスが吐かれた。ブレスが地上へと降り注ぐが、『霧散』を発動して搔き消す。


「「『高速回転四散弾』」」


 エミリアとユーリンが同時に『高速回転四散弾』を発動し、ドラゴニュートに命中。ダブル『高速回転四散弾』がドラゴニュートを蹂躙し、地面に墜落。そこにフェルドが一気に駆け寄り、その喉元に鋭い爪を立てた。


「っしゃーーーっ!」


 とどめを刺したフェルドが雄叫びをあげた。

 生命光石を持ってロドニーたちに合流する。


 

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