第162話 閑話 休みの日は

 今日は全員が休みの日である。管理番や隊長はある程度休みの日が決まっているが、商人はその限りではない。今日は姫様のお願いで休みを取って離宮に来ている。


 基本的に食事会の日が決まっているので、その日以外に来て欲しいと言うこと自体が珍しかった。全員、お願いを口にすることが少ない姫様のお願いは叶えたいと思うメンバーなので、この日に集合となった訳である。




 「みんな、来てくれてありがとう。急にごめんなさいね」


 「いいえ。来るぐらいなんて事はないので、いつでも声を掛けて頂けたら嬉しいです」


 管理番は穏やかな声で姫様に対応していた。実際、管理番は姫様のお願いを断ったことは一度もない。それは商人や隊長も同じだ。


 この中では隊長が姫様と過ごす時間は一番長い。その隊長ですら姫様のお願い、という言葉を聞くことは少なかった。商人は城下から来るため決まった日以外に姫様に会う事はない。もちろん、身分を考えれば会う事はまれなのは当たり前と言えば当たり前だろう。姫様には久しぶりに会う事になる。そのお願を断るという事は考えになかった。




 姫様自身も久しぶりに会えて嬉しそうにしている。


 「今日ね、みんなに来てもらったのには訳があるの」


 「どうなさいました?」


 姫様の計画を聞いていない隊長も不思議そうにしている。そう、今日の計画は隊長にも漏らしていなかった。正しくは3日前に思いついたのである。




 そうだ。みんなでピザパーティーをしよう。好きなトッピングを自由に載せて、その場で焼いてみんなで食べよう。


 と思いついた姫様はその気持ちの勢いで、隊長さんにイツメンに手紙を届けてもらい、今日の集合となった訳である。


 突然の事で管理番は急遽休みを取っている。この事は隊長も姫様も知らない。いつもはこんな事を言い出さない姫様なので、断るという選択肢は管理番の中にはなかった。手紙には休みだったら、と言う注釈が付いていたが、管理番はその手紙を見た瞬間に、休みを取ろう、有休を使わせてもらおう、と心に決めた。隊長が手紙を届けてくれたので休みが取りやすかった、という側面もある。忘れがちだが、隊長は陛下の親戚だ。その人が持ってきた手紙の後に休みが欲しいと言って断れる上司は少ないと思う。とは管理番の心の声だ。




 姫様はキッチンへ行くと台の上に乗り胸を張って言う。


 「みんなでピザパーティーをしよう」


 「「「ピザパーティー??」」」


 イツメンの声が綺麗に重なった。ピザパーティーという言葉に全員がピザを食べることを想像する。その想像のまま商人が口を開く。


 「姫様。ピザを食べるのですか?」


 「そうよ。正確には自分で作って食べっこするの」


 「自分で作るんですか?」


 作るに反応したのは隊長だ。料理教室から自分で作る事に楽しみを覚えている。逆に不安そうなのは管理番だ。料理はしたことがないのだ。自分が何をすればいいのか想像できないでいる。その管理番の不安が見て取れた姫様は、安心させるように笑いかける。


 「大丈夫よ。作ると言ってもトッピングを載せるだけよ。生地は作ってあるから」


 「乗せるだけでいいんですね?」


 管理番は安心したようにホッとする。その様子をクスクス笑いながら姫様が肯定していた。その後、みんなをキッチンへ誘導する。離宮のキッチンは全員初めてだ。


 「立派ですね」


 「当然だ。姫様が使うものだぞ」


 誰ともなく商人が呟く。それに管理番が頷いていた。二人とも品物を扱う仕事をしている。物の良し悪しは見ればわかるのだ。隊長から見れば当然の品物が並んでいる。料理道具などは知らないが粗悪な品を置いていない事は分かるし、それを不思議とは思っていなかった。


 そんなイツメンの感想を聞きつつ、私も立派だと思う。とは姫様の心の内である。全員を作業台の前に誘導するとトッピングの具材を見せた。具材は今ある物を並べている。野菜やチーズ、もちろん姫様手作りのベーコンも置いてある。


 「この具材をね、その生地の上に並べるのよ。どれをどの場所に好きなだけ載せてくれれば良いわ。全部自由なの」


 「組み合わせもですか?」


 「勿論よ。自由だわ」


 姫様の言葉に全員の目がキラリと光る。ピザが好きなメンツだ。好きな物を好きなように並べたいという気持ちがあるのは至極当然のことだと思われる。




 それからはお料理教室と言うほどのものではない。好きな物を好きなように並べていた。


 だがそれぞれに個性が出る。隊長さんは好きな物一択。ベーコンとチーズ。商人はとりあえずは全部の味を見たい様だ。全種類を載せていた。管理番はバランスよく、好きな物を載せている。


 「商人。性格が出るのだな。全種類とは。バランスというものを知らないのか?」


 「その言葉。そのままお返ししますよ。ベーコンとチーズしか載ってないじゃないですか。具材は他にもあるんですよ? 他の物は見えないんですか?」


 「どっちもどちじゃない?」




 幸いなことに私の小さな呟きは隣の管理番にしか聞こえていなかった。聞こえていないはずなのに隊長さん達は同時に私を見る。


 「「姫様。どっちが美味しそうに見えますか?」」




 なんで答えにくい事を私に聞くかな? どっちを、誰のものを答えても揉めるヤツじゃない?


 答えに窮した私は無難な答えに逃げる。


 「自分が美味しいと思えば大丈夫じゃない?」


 「「姫様」」


 二人が声をそろえて答えを出せと要求するがそんな事を私はするつもりはない。ピザパーティーは自由だと断言しておいた。それを見ていた管理番は顔面が崩壊しそうになっていた。


 管理番。笑いたかったら素直に笑った方が良いと思う。我慢は良くないよ。




 ピザパーティーは盛況のうちに終了した。


 私の感想としては、管理番の作ったピザは美味しかったと答えておこう。




 食べっことは食べ比べだと私は思っていた。しかし、その原理は通用しない人もいるという事を私は忘れていた。好きな物を好きなだけ食べたいメンツだ。自分の好きなように作ったものを人と共有する事できないと私は気が付くべきだったのである。




 私が何回も焼くのを申し訳ないと思ったのか管理番が三回ぐらい窯の前に立ってくれた。




 ありがとう。管理番。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る