第124話

「ごめんなさいね。私の事で考え込んでしまったけど。今日は別な話なの。陛下に頼まれごとをされてしまって」


「なにか作って欲しいと言われたのですか?」


商人が予想を立てていた。いや、考えなくてもわかるだろう。


先日、陛下をお招きした食事会は、問題なく開催できたことを話していた。その上での陛下の頼まれごとと言えば、料理の事と想像はつくはずだ。




「当たりよ。食材だけの指定で作って欲しいと言われてね。メニューはまかされているの。だから作ってみて皆に相談しようと思ったの」


私の話に皆は頷いてくれていた。前回の事もあるので自分たちが先で良いのか、ということはなかった。説得の手間が省けて助かる。




「試作はされているのですか?」


商人の確認に私は頷く。


「もう作ってあるのよ、食べてみてくれる?今回も大皿で作ってあるから感想をお願いね」


「「お任せください」」


隊長さんと商人が気合いを入れて返事をしてくれていた。


この二人、試食となると気合いが入るな。


私はその二人を眺めながら試食のメニューの概要を説明する。




「お肉とお魚と卵を使った料理なの。全部を入れた料理にするか別々に一品づつ作るか、迷ったんだけど別々に作ることにしたわ。それを食べてみて欲しいの」


「喜んで」


管理番も楽しみなのか嬉しそうだ。




私は卵はチーズオムレツ。肉料理は豚骨スペアリブの味噌煮込み。魚料理は簡単な煮付け、もしくは煮魚にすることにした。こうなるとチーズオムレツだけがメニューとして浮く感じがしたが、こちらの人には洋食と和食の違いはわからないだろうし、そこまでは考えない事にした。気にしていてはキリがないと諦めたのだ。




私はそれぞれ料理を運ぶ予定だったが、一人一皿づつ運ぶのを手伝ってくれたので、手間は少なくて助かる。いつもお手伝いありがとうございます。


テーブルには大皿料理が並ぶ。種類的には三種類だがそれだけではつまらないので、他の料理も作っておいた。他の料理は副菜系なので管理番達も食べたことのある料理ばかりだ。青物のお浸しや、酢のものなんかも用意した。食事でも飽きない工夫は大事だと思っている。


隊長さんや商人は新しい料理に嬉しそうだ。




「姫様。この魚は醤油を豚肉のスペアリブは味噌を使っているんですか?」


「そうよ。味噌も醤油も使い勝手は良いからね」


私は自分の手柄ではないけど、胸をはって自慢していた。隊長さんは豚骨の煮込みを嬉しそうに眺めている。肉料理が好きなので楽しみなのかもしれない。




豚骨の煮込みは豆味噌を使っている。味噌は種類が多く白、黒、豆味噌とあり自分で合わせ味噌にしたりと工夫次第で使い方は広がっている。とても便利だった。


私は前の生活で、旅行に行ったときに食べた、豚骨の味噌煮込みが好きになって、自分で食べられるように練習したのだ。おかげで自分で作れるようになった。焼酎を入れて煮込む料理なのだが、焼酎がないのが残念だった(蒸留酒はあるが焼酎かわからないので使わなかったのだ)煮込めないのが残念だったが、そこは妥協した。満足できる仕上がりではなかったが、妥協のできる範囲ではあったので、皆に試食してもらう事にした。




魚料理は、普通に白身魚の煮付け、もしくは煮魚になる。これは特別な事はしていない。生姜を少し強めにしたくらいだろうか?魚の処理がどうなっているのかわからなかったので、匂い消しに強めにしておいたのだ。できれば魚は丸々一匹でほしいと思っている。そうすればあら煮も作れるのに、と思うのと魚の種類が確認できる。前と同じ魚とは思わないが、何となくわかれば調理の幅も広がると考えているからだ。こちらにもサバのような魚とかあるのだろうか?サバの味噌煮が食べたい(切実に)。その辺りも確認したいので、いつか魚も一匹でお願いしようと思っている。




チーズオムレツは簡単だが難しい。私がフライパンに慣れていないので、きれいな三日月にするのがなかなか大変だったのだ。他の理由としては、フライパンを回すのが難しかったのと、もう一つはマヨネーズがないことだ。オムレツを作るときはマヨネーズを入れてフワフワにしていたのだが、マヨネーズがないのと代用が思いつかなかったので諦めて、手早く作る基本の方法で頑張る事にした。もう一つのフライパン問題は、私の身体の大きさに対して一番小さいフライパンでも大きく使いづらかった。そのためかなりの練習が必要だったのだ。私のお昼はしばらくチーズオムレツになったのは自然な流れだろう。今日は頑張った練習の成果が出たと思っている。




説明を聞きながらトリオはお皿の前でソワソワしている。偉いのは私の説明が終わるまで待っている所だろうか?


皆に耳としっぽが付いて見えるのは気のせいではないはず。


これ以上待たせたりすると暴動が起きそうなので、そうそうに皆が待っている一言を発した。




「どうぞ、召し上がれ」


「「「では、いただきます」」」


綺麗に揃った三人の声が響いていた。

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