第59話
陛下と宰相閣下から姫様と商人の事を聞かれている。
いつかこんな日が来るだろうと思っていたから驚きはしない。
商人とも話し合っていた。その時が来たら下手な隠しだてはしないと…
下手に嘘をついて発覚したときの方が恐ろしいからだ。その点については商人も納得していた。
あらかじめ二人で相談していて良かった…陛下と宰相閣下から呼び出されたときそう思っていた。
姫様がよく言われる言葉だ『物事で1番大事なのは事前準備なのよ。仕事の七割は準備だって言うでしょう?』とその言葉の意味を今、痛感している。
「調味料といいましたね?新しい料理法を広めているのではないのですか?」
「そうではありません。調味料を販売するときに使い方を教えているので…それが新しい料理に見えるのだと思います。私にはよくわかりませんが、美味しいので広まるのも早いかと…」
「その話し方ではそなた、食べたことがあるのだな?」
陛下からのお言葉に息が詰まる。
私のようなものが陛下と言葉を交わす機会があるとは思ってもいないからだ。
「どうなのだ?」
2度も聞かれるとは思わなかった。三度目も聞かれるわけにはいかないので慌てて答える。
「ございます。離れで使われる調味料なので確認のために食しました。」
「離れと言うことは姫が作ったと言うことか?」
「はい。恐れながら姫様の御手作りでございます。」
「そうか…」
陛下からのお言葉は止まったが宰相閣下からは続く。
「その話を纏めると、姫様が作り、その使い方を商人が広めている、と言うことになりますね。」
「広めていると言うよりは、商品を売るために使い方をおしえていたら、広まった。と言う感じになると思います。」
「なるほど…」
陛下と宰相閣下は黙り込む。
痛いくらいの沈黙が続いている、私は今日は家に帰れるだろうか?
不安が胸を締め付ける。泣きたいぐらい恐ろしい。
「しかし、疑問が残る。なぜ姫に使い方を習ったのだ?商人と姫では会ったことなどないだろう?」
「それは、姫様より問い合わせがありました商品を扱っているのが商人だったからです。お探しの商品を確認していただくために、商人に持ってきてもらい説明を頼んだのです。そこからのご縁になります」
「なるほど、持ってきたら姫が望んでいたもので、当然使い方も知っていた。それを商人が習ったと言うことか」
「はい。問題になるでしょうか?」
私は恐怖のため自分から聞いてしまっていた。後悔したが遅い。一度口にしたことは消えはしない。失敗したと表情に出ていたのだろう
宰相閣下は笑って否定される。
「とくに問題ではありませんよ。犯罪を起こしたわけではないので… ただいろいろ驚いているだけです。」
「驚く?」
私は宰相閣下の反応に首を傾げる
閣下はそれを咎めることもなく『当然だろう』と口にされた。
「小国とはいえ、一国の姫君です。料理が出来ることも驚いていますが、人に教えるという事は難しいものです。それを大人を相手に教えている、と言うことに驚かないほうが不思議ですね。あなたは何も思わなかったのですか?」
「それは9歳の姫君と話していると思えないことが多くありました」
「それより、気になることがもう一つある。」
陛下からだ。身体が固くなる。
「商人は姫から教わっているのだな? これだけ広まっていると言う事は使い方は一つや二つではないのだろう?」
「はい。種類はいくつかございます」
聞き方は質問の形式だが陛下は既にご存知なのだろう。その上で確認しているようだ。
私も隠す事なく答えていく。
「では商人は教わっていて姫に報酬を出していないのだな? 何と言うことだ」
陛下の口調が一瞬で変わる。抑えているようだが怒りのようなものが感じられた。
勘違いをされているようなので慌てて訂正する
「いいえ、姫様に報酬を払っています。姫様はご自分で商人と交渉されました。報酬として、商人が扱う物を貰うことになっています。」
「それでは少ないのではないか?」
「普通は現金でしょう?」
陛下と宰相閣下か同時に『それはおかしい』と言われるので以前からの疑問を折り込んで話しをすることにする。
「ですが姫様が言われました。自分はお金を持っていないので、商品を買うことができない。だから商品で払ってほしいと、そう言われたので商品でとなったのです。」
「お金を持っていない?姫がそう言ったのか?」
「はい。ご自分で言われました。私は学校にも通えないし、外に出ることも難しい。お金もないし欲しいものを買うのも大変で後が面倒なことになっても困る。だから、報酬は私の欲しいものを持ってきてほしい。そう言われたので…」
陛下と宰相閣下が沈黙し同時に声を発する。
「学校に通えない?」
「お金を持っていない?」
何かがおかしい。私は以前から感じていた疑問が的中したことを確信した。
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