第55話
「まあ良いわ。過ぎたことを話しても仕方がないし。大事なのは今後のことよね」
私の言葉に商人が神妙な顔になる。
商人も今後のことが気にかかるのだろう。お味噌の売れ行きが良かったのだからなおの事だ。
「私もどうしたら良いのかと気にかかっておりました。売上もともかく姫様にお渡しするのも商品では追いつかない気がいたします。不足の分は現金でお支払いする方が良いのではないかと思っておりますが、如何でしょうか?」
「あ、気にしてくれてるのはそっちなんだ…」
私は心配してくれているのが違う方だったので一瞬呆気に取られてしまった。
商人も『ん??』となる。
「姫様は違うのですか?」
「私は次の販売戦略を考えないといけないかな?と思ってたの」
「次の分も考えてくださるのですか?」
「え?要らないの?商人は支払方法だけ考えてくれてた?」
私と商人は2人で顔を見合せる。
どうやら違う方向でお互いに考えていたのは確定らしい、やっぱり商人は意外に真面目なようだ。
「支払いについては始めの約束で良いわ」
「しかし、どうしても商品だけでは余ってしまいます。現金でお渡しするとちょうど良いかと」
「私が現金をもらってもね…使い道がないし。貯金していてもね…買うのは食材か本ぐらいよね…」
『ネットもゲームもないし旅行に行ければ話しは変わるけど、今のところ行きたいところもないしな』
物思いにふけると管理番が気がついたように口を開く。
「しかし姫様。来年には社交界のデビューもありますし、一応持っておく分には問題はないのではないでしょうか?」
「え?私、デビューとかあるの?」
「留学生なので…こちらにいらっしゃる以上は多分あるのではないかと…陛下も姫様の誕生日の事を気にかけていらっしゃいますから…」
「品格維持費も出さないのにデビューとかさせるか?」
私も思っていたことを商人が口にする。
「そうだが…そこが不思議なんだよな…陛下が直接用意されるのかな…」
口元に手を当てて呟いていた。周りのことは忘れているようだ。
管理番、口調が素に戻っているけどそこは指摘しないでおくわ
そして職業病なのか予算の事が気になるらしい…
「来年のことは別に考えましょう。わからないことを考えても仕方がないし、陛下から話があったら考えるし、その時は正直にドレスが無いから出れません、と言うわ」
「「えっ???」」
私の当然の発言に二人は驚いたように私を見て同時に話しだす。
「そんなことを陛下に言うつもりですか?」
「いけませんよ。姫様。陛下からの話を断るとか…不敬罪に問われてもおかしくありません。危険です」
「そうだけど…ドレスも無い。お金も無い、後押しをしてくれる知り合いもいない。私が社交界に出るとか無理な事は陛下もわかっているはずよ。断られる前提で話を持ってくると思うわ」
「姫様。普通の偉い人は自分の提案を断られるとは思っていないと思いますよ」
流石商人。王宮と取り引きをしている商人の話しは真実味がある。
だが仮定の話をしていてもどうしようもない。建設的な事を考えよう。
「わかったわ。二人の話は気にかけておくわ。今は建設的な事を考えましょう?」
「姫様。失礼を承知で申し上げます」
管理番が口火を切る。私が打ちきった話を蒸し返すなんて真面目な管理番らしくない。よほど言いたいことなのだろう。視線で許可を出す。
「姫様。商人の話に許可を出していただきたいです。商品で不足の分は現金としましょう。その分は私か商人が預かります。そして現金が必要なときや、それこそドレスを買う必要が出たときなどそこから賄うようにしませんか?」
「それはありがたいけど。あなたたちが手間じゃない?それに何かあったときあなたたちに不利なことになるかもしれないわ」
『とくに私の国と揉めたときとか…』
言えない事を胸に浮かべていると管理番が言いきった
「大丈夫ですよ。その時は貰う予定だ、とでも言っておきます」
「そうです。私は店の予算だ、とでも言っておきます」
商人もその言葉に重ねて来る。良いのだろうか…
私が迷っているのを察したのか管理番が言い募って来る
「姫様、お忘れかもしれませんが、姫様はまだ9歳です。成人までまだ半分です。大人に頼ってもおかしくないのですよ。商人や私では頼りないのはわかっていますが…少しお手伝いさせてください」
思ってもいない言葉がかかって驚きとともに言葉が詰まる
考えてみたら前の生活の記憶を取り戻してから、優しい言葉を掛けてもらったのは初めてな気がする。
記憶が戻ってすぐにこの国に来たし、その後は学校にも行かずに離れに実質軟禁だし。侍女達とも話すことはないから声を出すことも忘れそうだったし。
スローライフを求めていたから問題なかったけど、人と関わることが無かったから…
誰かに頼ることを忘れていた。
「っ…ありがとう管理番。じゃあ、お願いしても良い?商人も」
「「おまかせください」」
二人の力強い言葉が聞こえてきた。
私は瞳が濡れそうなのを誤魔化すように瞬きを増やす。
私は大きく深呼吸をする。
「ありがとう。二人とも。私もあなたたちと良い関係を作れる様に協力するし努力をするわ。これからよろしくね。」
「「ありがとうございます。どうぞよろしくお願いします」」
私たちの協力関係が出来たようだ。
良い関係を継続できるようにしていこう。
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