第63話 決行すっぞ!

『はい! 本日は昨日の夜緊急であげさせて頂いた通り生放送となっております! 正社員、更には無料ご飯サービスを希望の方はこの機会をに是非是非ご参加くださーいっ!』


「優夏さん元気いっぱいだなぁ」

「昨日自分から店側の生配信にメインで出たいって言ってましたからね。きっと探索者として今回の作戦に参加出来ない分そっちで頑張りたいんですよ」

「いい子だよな、本当に」

「撮影は一ノ瀬さんが担当でお店は景さんが主軸、店長はランチタイムが始まるちょっと前から外に立って客を捌きながら『橘フーズ』の人間を丸め込む役に徹するらしいです」

「遠藤は店内で『橘フーズ』の人間が入ってしまった時ように、こっちに『ヒーリエ』を運んだ後でスタンバるらしい。ま、こっちの状況があまりに悪いようなら加勢するみたいな事も言っていたけど……」

「いくらオーク数匹が手伝ってくれるとはいえ、入り口の動画撮影兼チェックが俺だけだとしんどいかもなんで、すぐに呼ばないといけなくなりそうっすね」

「そうだね――」

「2人とも! もう上の階層で探索者がごった返して来た! 細江は直ぐに撮影の準備を! モンスター達と神様はもう先に進んでください! 俺はしんがりを担当します!」


 細江君と30階層への階段前で焼肉森本のライブ配信を見ていると、慌てた様子で小鳥遊君がやって来た。


 ――あれから数日。

 作戦決行まで実にあっという間だった。


 人員の割り振り。

 水面下での漏洩を装った故意による情報操作。

 モンスターの育成。テイム。

 細江君と小鳥遊君のレベル上げ。

 オークへの『ヒーリエ』の使用方法伝達。

 正直なところドラゴン相手にモンスター達がどこまで戦えるのかは分からないし、探索者がどれくらい集まるのかも分からないという状況の中、今日まで不安で仕方がなかった。


 だが今の小鳥遊君の報告と、店側の同時視聴者が5万人以上集まっている事、更には意気揚々と言った様子のコボ、マグちゃん、それに他のモンスター達が俺の不安を拭っていってくれる。


「神様! 早く下に! 店側と連動してライブ配信も始めないといけないので!」

「分かった! 頼んだよ細江君!」


 俺は細江君にお礼を言うと、モンスター達を連れて階段を下る。

 この下は未知の領域。

 ドラゴンがどれだけいるのか、そしてダンジョンを独占しているのだから、侵入してくる人間を追い返す役を担った『橘フーズ』の探索者が何人かいるはず……その人達がどれだけの実力を持っているのか。

 そんな疑問が頭の中で駆け回――


「ぎぃぎゅああああああああああああああああああああっ!!!」


 階段を半分ほど降りた頃、その先からドラゴンの鳴き声が。

 肌がひりつくのと同時に鼓動が早くなる。


 鳴き声だけでこの圧迫感、小鳥遊君じゃないけどワクワクきちまったなあ!!


「軍団森本、死ぬ気でドラゴンを殺せええええええええっ!!!」

「「お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!」」


 俺の声に呼応してテイムしたモンスター達も殺気の籠ったけたたましい鳴き声を発してくれる。


 さぁ。景さんとの約束通りこれが全力で危険に挑む最後の探索だ!



「神様と先輩、大丈夫かなぁ」

「ぶがっ!」

「え、えーっもう大丈夫なのかな? はい! こちら30階層への階段前です! イベントに参加する探索者さんは流石にまだ来ていませんが、1つ上の階層には既に探索者さん達でごったがえしているようです! えーっここを通過した探索者さんにはこの券を配布していまして、これプラスこの先で採取或いは狩ったモンスターを再びお持ちいただくと券にこのスタンプを押させて頂きます。それをお店に持っていく事で無料券として利用出来ます。無料になる量には制限はありません! ただ、お店が混んでしまった場合には時間制限を設けさせて頂きますのでご了承をお願いします。また正社員採用枠は早い者勝ちとなってます!」


 俺は先に進む2人とモンスター達を見送るとカメラをオークに持たせて、早速撮影を始めた。

 いつもは単純に探索している様子を撮影するだけだったからそこまで緊張しなかったけど、こうしてちゃんと説明とかするとちょっと緊張するな。


「こちらの映像は基本的に垂れ流ししているだけになりますので、店側と2窓視聴を――」

「お前ら! はぁはぁはぁ、か、勝手な事をしやがってっ! 何がイベント――」

「どけっ!! 低レベルのソロ探索者がほぼ無条件で正社員になれるチャンス! 枠は数が決まってんだ! 自分以外の奴は敵! 俺は蹴落としてでものし上がるんだよおおおっ!!」

「俺も!! この日の為にくそブラックな会社を退社してきたんだ!」

「券寄こせえええええっ!!」


 ようやく1人降りてきたと思ったら他の探索者達がそれを蹴飛ばして、踏んづけて券を受け取りに来た。

 順番を整理する人、準備、そんなものはない。


 油断したもの、行動の遅いものは今みたいに踏んづけられるだけ。


 多分さっきの探索者は『橘フーズ』の人間だとは思うけど……お気の毒様。


「ま、こっちは作戦通りかな。あっ! 券どうぞ! 採取と定時忘れないでくださいね!」

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