第48話 【NO9】、人だかり注意
「【NO9】、大人気ダンジョン過ぎなんだよなあ」
時刻は15時。
朝の時間に事務仕事なんかを終わらせてきたのかストレス発散の捌け口に勢いよくモンスターを倒す探索者達、グループを組んで研修みたいな事をしている探索者達、モンスターと戦う探索者が多い中それを逆手に取り戦いを全て他に任せて安全にダンジョン内の植物や鉱石を収集する探索者達、様々な思惑を持った探索者達でダンジョン【NO9】の1階層は賑わっている。
今までこのダンジョンに足を踏み入れたことはなかったけど、入口で列が伸びている事もあって、中の様子が気になっていたけど……こりゃあまともに狩りをするには混みすぎてるな。
そんなに大量にモンスターを狩ろうと思ってなければ、新しくモンスターが沸くまで待てば良いけど、基本的に沸いたモンスターを直ぐ様1人の探索者或いはグループが確保して、余りのモンスターがいない。
連続でバシバシ殺してって事は到底不可能だ。
しかもモンスターはどれも強敵なのか、中々1回の戦闘が長い。
リザードマン? 、何か黒くて太くてでかい蛇、ドラゴンみたいな形のスライム、その他諸々のモンスターも見た目からして強そう。
細江君にコカトリス以外のダンジョンの内容を一切聞いてこなかったから、新鮮味が凄い。
「というかコカトリスって鳥系だからその手のダンジョンだと思ってたけど……これが噂のドラゴンがいるダンジョンか」
爬虫類系のモンスターが多いし、間違いない。
ドラゴンとか無縁のものだと思ってたからそもそもどこで出るのかも調べた事なかったんだよな。
「えーっとコカトリスは10階層だったっけ……」
階段を探して戦っている探索者達や収集中の探索者達をかき分けて進む。
何かもういつもの緊張感のあるダンジョンっていうより、オンラインゲームでストーリー進行の為に景観を無視して人が集まっているあの感じに近いな。
オンラインゲームなんてもう何年も遊んでないけど。
「あっ! そっちにモンスターが!」
「すみません! 避けてください!」
どこかのグループがモンスターを囲うのに失敗したのか、大声で注意を呼び掛ける。
もしかしてこんな事がここだと日常茶飯事――
「――がぁあっ!」
「いっ! ……ってなんで俺なのさ!」
後頭部に何かが当たる感触、そしてそれのせいで髪絡んでぶちぶちと抜かれて激痛が走る。
最近ちょっと旋毛の辺りが気になり始めてるってのに……。
俺の髪をむしってくれたのは2メートル以上はありそうなリザードマン?で慌てて駆けつけた元々その相手をしていた探索者達を尻尾でなぎ払い、敵は俺だけと言わんばかりだ。
この様子ならもう俺が殺してもいいよねこいつ。
俺の大事な髪の毛を亡きものにしてくれたんだ、その顔面に思い切りげんこつ喰らわしてやる。
「てめぇ、いっぺん死ねぇええええええっ!!」
「あっ! 直接は鱗が危な――」
――べきっ! ぐちゃ、ぱんっ!
探索者の注意なんか無視して俺はレオ●オばりのいっぺん死ねを叫ぶと右手を完全に振り切った。
まず骨が折れる音、次に肉が潰れる音、そして全てが爆ぜる音が順番に鳴る。
あ゛ぁ、ぎんもぢいぃいいっ!
「……1発ってマジかよ」
注意を呼び掛けてくれた探索者がポツリと呟く。
気付けば辺りは探索者は勿論モンスターまで静まり返っていた。
あれ? もしかして目立ちすぎちゃったか?
「すいません、横取りみたいな事しちゃって。素材はそちらで貰ってください、はは――」
「もしかして焼肉森本の神ですか?」
「え? まぁそう言われてますけど神なんておこがまし――」
「俺、店行って拝見し事もあったんですけど強いなんて到底思えなくて……。でも、あの動画はフィクションじゃなくてマジだったって今痛感しました。疑ってすみません!アンチっぽいコメントしちゃったけど消しておきます!握手、握手お願いします!」
「は、はい。……これで大丈夫ですか?」
「ありがとうございますっ!」
まさか動画視聴者だったとは……。
そういえば探索者にこんな事頼まれたのって初めて――
「あ、の俺も握手いいですか?」
「私はサインを……」
「写真ってokですか? SNSに投稿したいんですけど」
「ステータス見せてもらう事ってできますか?」
「その歳でしたことないって噂マジですか?」
一斉に探索者が俺の周りに集まり出した。
有名人になったっていう高揚感も多少はあるけど、それ以上にこんなに人が鬱陶しく思えたのは初めてかもしれない。
早くこの場から移動しないと。
でもどさくさに紛れて最後の質問をした奴だけはしばきたい。
噂って……そんなくだらない噂始めたの一体どこの誰だよ!
「待って落ち着いて! モンスターの相手してた人は急いで戻、っくぁあああああ! 誰だ! 今カンチョーした馬鹿は!」
俺を中心にぎゅうぎゅうに密集すると、小学生みたいな事をする奴まで……。
ええいっ! お前ら離れろっ!
「【ファイアボール】!!」
俺は右手を突き上げると、全力のファイアボールを放った。
モンスターも探索者も宙に広がる爆炎を眺め、轟音に驚く。
「今だっ! そんでお前が犯人だろ!」
俺は明らかにカンチョーの形で手を止めていた奴に潰れない程度の金的を喰らわせると2階層への階段まで全速力で駆け出したのだった。
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