第33話 成り上がりの弊害
『本日より席増設! スライムマグちゃんプレート席今月、来月分の予約終了。以降は月末抽選。撮影を希望される方は予約の際に記載されている要項を確認して、他のお客様の迷惑にならないようお願い致します』
イイね数15万、リツイート数6万。
コメントは写真のマグちゃんに対する可愛いで一杯。
マグちゃんバブル来ちゃったきちゃったよおっ!
マグちゃんをテイムしてから約1ヶ月半。
一ノ瀬さんの営業とHPで企業に対する素材の販売は順調そのもので、マグちゃんとコボのモンスター養殖業は忙しなくなっていた。
それに伴って出た利益は人件費に充てられて、店のアルバイトが新しく5人。
一ノ瀬さんの作ってくれたHP運営用に正社員が1人、小鳥遊君と細江君からはその情熱を受けて、正社員として雇用する事になった。
個人経営の小さいお店がこの短い期間でかなりの規模になったなっていうのを実感せざるを得ない。
こうなってくるとコボルトの肉とか素材が足らない気もするな。
「宮下君、おはよう」
「おはようございます! 今日から地下の席解禁ですね。アルバイトの人達はどうですか?」
「みんな真面目で覚えも早いから問題ないと思う。マグちゃんもやる気満々みたいだし」
「まさか、席の分裂しても個別で意識があるなんて思いませんでしたよね。あれのお陰で養殖場の係りに穴も開きませんし」
「すごいよね。動画のコメントでもマグちゃんグッズ欲しいって言ってくれてるみたいで」
「グッズですか、それもまた店長と相談してもいいですね。いやあ順調順調、なんかここまでになるなんて思ってなかったから夢なのかなって、ちょっと思っちゃいますよね」
「うん。全部宮下君のお陰」
「いやいや、俺なんてまだまだ力及ばずですよ。じゃあ今日もダンジョン行ってきますね」
「最近、ちょっと過激なDMとか動画コメントとか……実際そういった人達がクレーマーになって話し掛けて来ることもあって……。宮下君も気を付けてね」
「俺の方は変わりないんですけど……分かりました」
「うん、行ってらっしゃい」
「はい、行ってきます」
俺は養殖場に移動すると、奥のパソコン室からダンジョン裏口への階段を上がる。
実は【NO1】を踏破してから、階段の位置を変更、増設していて、地下の客席と焼肉森本のメインフロアを繋ぐ階段と一ノ瀬さんの要望で作ったこのパソコン室とダンジョン裏口を繋ぐ階段を新たに設定したのだ。
かなり魔石値を使ったけど、これは必要な出費だったから仕方ない。
ただパソコン室の設備や、地下のキッチンの冷蔵庫、それにトイレの増設なんかもしたいからここ最近はダンジョンに潜ってひたすらに魔石狩りの日々。
今は二足歩行の豚のモンスター『オーク』がいる【NO5】の中層辺りが狩場で、オークの肉も安定して提供出来ないかなと考えている。
だから今日はオークの装置を手に入れられる事を祈って【NO5】の最下層を目指そうと思っているんだけど……。
「――あ、神。宮下さんですね。いやぁ、今日も精が出ますね」
「何度言ってもあなた方の企業に移る気はありませんよ」
「まだ私、何も言ってないじゃないですかぁ。それにうちの会社と提携を結んでくれれば、もっと幅広い層にコボルトの肉を売りだせますよ。コボルト【RR】のジャーキー、絶対売れますって……」
ここ最近俺の出待ちをしているかと疑いたくなるくらい俺の来るタイミングでダンジョンモールに姿を現す男、遠藤良平(えんどうりょうへい)。
あの時レベル10の俺を見下して笑ってきた3人組のリーダー。
焼肉森本に通っているところを何度か見かけたりもしているけど、それもこういった交渉目的……もしかして今日言ってたクレーマーの可能性も。
「肉を下ろす先は営業担当が決めていますから。それにそんな商品展開をするだけの肉は用意出来ませんよ」
「コボルトの肉を無限に生み出す装置を持っていたとしてもですか?」
「……その事をどこで」
「そちらのお店に私の元部下がいるので。いやぁダンジョンの一部を私物化出来るなんて他の探索者や企業が知ったら嫉妬の嵐、最悪素材の販売を取り辞める事なんて事もあるかもしれないですね。熾烈な業界では大手は競合他社をそうやって潰す事もありますから」
「こっちはあなたがこちらをコケにした動画も――」
「勿論勝手に撮ったものを流せば法的に処理させていただきますよ。どうですか? 提携したくなってきたでしょ?」
「……店長に相談します。少し保留させてください」
「分かりました。私も今日から動画の為にソロで【NO5】の最下層を目指そうと思っていたので日が空くのは有難いです。良い返事をお待ちしてますね」
性根が腐ってる。
批判コメントとか過激なDMもあいつ、あいつの仲間かもな。
それにしても小鳥遊君や細江君が情報をリークしているなんて……そんな事をするような人じゃないはずなんだけど。
……今日は最下層を目指すのは止めて、ほどほどに狩りをして店に戻るか。
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