第21話 コボルト肉で焼きおにぎりクッパ
「ただいま帰りましたぁ。あれ? 優夏さんだけですか?」
「はい。店長達はもう養殖場ですよ。それより宮下さん! あれ見ましたよっ! あんな勇敢な事……凄いですっ!」
「あれ?」
「えーっと……ほらこれ!格好良く写ってますよ!」
午後からは養殖場のカスタムとゴブリンの発生装置を取り付けて試運転でもしようと考えながら店に戻ると、休憩室でくつろぐ優夏さんにあるユーザーのSNS投稿を見させられた。
シンプルな服装に所々炭みたいなもので汚れた顔。
歳は30くらいでイケメンとは言えない、クラスに3、4人はいそうな顔と雰囲気……これ、俺だねぇ。
雅さんの投稿が探索者を中心に凄まじい早さで拡散されてる。
いいねとリツイートの数がガンガン増えてるんだけど……。
「俺はあんまり目立つの好きじゃないんだけど――。ユーザー名、『裸の王様を見る女王』?」
「変わった名前ですよね。でも写真を撮られてるって事は知り合いですよね?」
「……まぁ一応」
優夏さんもそのうち会う事になるかもだけど……説明は止めとくか。
「あ、小鳥遊さんがリプライしてますよ! 『この方は焼肉森本で働く神』ですって! 結構いいねももらってますね!」
「そ、そうですね」
小鳥遊君が俺に対して献身的な態度なのは知ってたけど、神ってなんだよ?
確か細江君もそんな事言ってたような……。
これはちょっと問い詰める必要があるかもしれんな。
「この投稿を見て景さんが、『夜はもっと込むだろうこら早く準備しないと』って。店長も小鳥遊さんも景さんについてくように下に行っちゃったんです」
「なるほど……準備はいいけどご飯とかちゃんと食べてるんですかね?」
「んー、急いで降りていっちゃったので食べてないと思います。私はダイエット中だからいいとして、店長達は心配ですね」
「……仕方ない。今日は俺がちょちょっと作ってやるか。俺も昼はまだだし」
「じゃあ私もお昼分のスープだけ作ります!あ、そっかスープなら別腹だよね……」
優夏さん自分の分も作るつもりかぁ。
スープって結構肉がゴロゴロ入ってるあれだよね……。
……ダイエット成功しなさそう。
◇
「んうまぁいっ!」
「優夏ちゃん、あんまり頬張りすぎると詰まらせちゃう。ほらお茶飲んで」
後付けした海苔がパリッと音を立てて米と一緒に口の中に。
ランチタイムで炊きすぎた米は炊きたてのように芳しく、おにぎりにしてもホカホカでふんわり。
大きめに握った分ごろっと詰まった肉はその食感で飛びきりの存在感。
コボルト【RR】の肉を焼肉用のタレとニンニク、鷹の爪で炒めたから辛みでパンチのある味になっている。
ただ、ご飯とコボルトから湧き出る甘い脂がそれを包み込み、噛む毎にマイルドな味わいに。
うーん。
これはちょっと旨すぎるな……って優夏さんおにぎりまで食べちゃってるじゃん!
「いやぁ神の作る飯は旨いなっ!」
「そうっすね」
「いや、だから俺は神じゃな――」
「もうそれでいいだろ。そっちの方が小鳥遊もコボも納得するさ」
飯を食べながら俺は小鳥遊君がどういう経緯でこの店に来て、俺を慕ってくれているのかを聞いてみた。
どうやら【NO2】で派手にコボルトを殺してしまった事とこの養殖場の存在が元凶だったみたい……。
一応神ではないと説明も試みたけど、『そんなそんな謙遜しないで下さいよ』の一言が強すぎて、まるで聞いてもらえない。
その上コボまで俺の事を神って言い出すからたまったもんじゃない。
まぁそれきっかけでコボと小鳥遊君が打ち解けてるようだけど……。
もういっその事教祖にでもなろうかな?
神の水とか適当に言って、金儲けでも――
「普通のおにぎりとは別に焼おにぎりとカルビスープもありますから食べてくださいね!」
「「おおぉぉーっ!」」
いつの間にか優夏さんが用意してくれた鍋から、みんなの分を取り分けて、景さんが焼おにぎりと合わせて配っていた。
何となく興が乗って作っただけだったけど、男性陣のテンションは上がったっぽい。
「ありがとうこんなものまで用意してくれて」
「いえいえ、そんな大したものじゃないですし、それに優夏さんも手伝ってくれたので……」
「優夏ちゃん……2人はいつの間にか仲良しになったんですね……」
「仲良しっていうか、同じ店の仲間ですからこれくらいは……あ、景さんも食べてください、多分スープと合わせると旨いですよ」
少しどよんと濁った空気が流れた気がしたのは気のせいかな?
まぁいいや、俺も食べよ。
「いただきます。……これは、美味しい」
「はは、大袈裟ですよ景さん。――うまぁっ」
鼻腔を抜ける香ばしさにカリッと焼かれた表面、そしてそれがねっとりとしたタレと一緒に現れたコボルト【RR】の肉と合う!
スープを一緒に含めば、優しい味が口の中に満ちたしょっぱさを適度に弱め、それでいて香ばしい焼おにぎりの風味を残している。
するすると米とスープが喉を通り、いくらでも食べれるかもしれないと錯覚させるのはダイエット中の優夏さんにとっては反則なはず。
あぁ旨いっ!
「我ながら旨かっ――」
「焼おにぎりクッパ……これに少し辛みも足して……」
「どうしました景さん」
「これはお店に出せる。今日から試したい。宮下君悪いんだけど……」
「……大丈夫、okです」
こりゃあ養殖場のカスタムは明日かな。
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