15

永遠にも感じた1日が終ろうとしていた。

教室にさざなが戻ってくると、ゆっくり話をすることもなく、蘭子が今後の予定を慌ただしく説明した。


「今日は金曜日ですので、明日明後日はお休み。寮室のメンバーと親睦を深めて下さいね」

「蘭ちゃん、しつもーん! 今日から家族と会えないって本当ですかー?」

「胡桃さん、残念ながら本当です。長期休みだけって、散々説明があったはずだけどなぁ」

「はい、胡桃バカー」

「ひっどーい! そんな言い方ってある?」

「ギャハハ、うるさいっての。みんなに迷惑だ」

「アンタの笑い声の方が迷惑でしょ! 明らかに!」


キャーキャー言い合う2人を、蘭子に代わって摩喜が制す。


「どっちもうるさい。早く帰りたいんだから、静かにして」

「はぁい」

「どうもすみませんでした」

「蘭ちゃん、続けて。他に確認事項ある?」


目上の人間に、教師にとっていい態度じゃないが、摩喜は気にするそぶりも見せない。蘭子も強くは怒れないタイプなのか、それとも、そういうことは気にならないタチなのか注意しない。そのうち、都合良く扱われたりしないだろうか。桔花は危惧していた。

仮に、知里が彼女たちに本格的にいじめられ出したらどうするのだろう。

嘘を、言い訳を見抜いて、守るべき者を守ってくれるのか。それとも……。

嫌な想像はやめよう。桔花は首を振った。


「桔花さん? どうかしたの?」


何の前触れもなく首を振り出した生徒に、蘭子が驚いて声をかけた。


「……え、あ、すみません。考え事を」

「まだ話の途中だからね。こっちに集中してもらえると嬉しいな」

「はい、すみませんでした」


頭を下げる桔花の耳に、くすくすと笑い声が聞こえてきた。なるほど、これは辛いものがある。心臓がヒヤリと冷たくなった。


「で、どこまで話したっけ……。

あ、そうそう、月曜日の予定ね。1、2時間目は新入生歓迎会があります。先輩方が色々準備してくれているみたい。楽しみだね」

「部活紹介もありますか?」

「あ、気になっちゃう? あるよ、あるよ。委員会紹介もね」

「委員会はどうでもいーよ。ダルいだけじゃん」

「まあまあ、そんなこと言わないで。成長できるチャンスなんだから」


蘭子のフォローも虚しく、委員会に興味を持っている生徒は少ない。


「もう! 部活ばっかりじゃなくて、委員会もチェックしてよ。全員、どこかしらには入ってもらうんだからね」

「はいはーい、考えまーす。他に連絡はアリな感じですか?」

「アリな感じでーす。3時間目は校内案内、4時間目はクラスのことを決めます。学級委員長を決めたり、1年間の目標を立ててもらったりするから」


蘭子が言った時、タイミング良く12時の時報が鳴った。新入生の下校予定時間だ。既に何人かの生徒は荷物をまとめ出した。立ち上がって、後ろのドア前を陣取っている者もいる。もちろん、例の3人だ。昔からの知り合いなんだろうか。何をするにも一緒にいる。

そんな姿を目に、話は続けられない。そう考えているんだろう。蘭子の顔を見れば、明らかだった。彼女は深い息を漏らしてから、改めて姿勢を正した。


「気をつけて、まっすぐ、寮に帰って下さい」


今日1番の返事と共に、少女たちは廊下に飛び出した。

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