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蘭子が戻って来たのは、きっかり15分後のことだった。出て行った時よりもやつれたように見えるのは、気のせいじゃないだろう。教室で待っていた全員が、何があったのか知りたがっていたが、質問できる者はいなかった。

しばしの沈黙の後に、蘭子が口を開いた。


植田うえたさざなさんは、保健室で休んでいます。落ち着いたら戻ってくると思うので、温かく迎え入れてあげて下さい」


数人がこくこくとうなずくのを見て、蘭子は満足そうに微笑む。


「他に、気分の悪い人はいない? 話の途中でも構わないから、遠慮なく教えてね。関わってはいけない女にまつわる話は、どれも聞いていて気持ちのいいものじゃないから」


念を押して、彼女は教室内をぐるりと見渡した。桔花も同じように、他の生徒の様子を観察する。目立って顔色の悪い子はいないが、みんな不安そうだ。ただの七不思議に死が加わったことで、動揺し怯えているんだろう。関わってはいけない女は、その存在感を一気に強めた。


「みんなの準備ができたなら、話を始めようかな。いい?」


あちこちで返事が聞こえる。


「では、聞いて下さい」


抑揚のない声で語られる、関わってはいけない女の話。恐ろしく思いながらも、耳を傾ける。




「関わってはいけない女。


それは今から20年ほど前に囁かれ出した、小さな噂話が元になっているそうです。それがいつしか、七不思議の1つとして、この学園で語り継がれるようになったのです。


学校の七不思議というと、どんなものが思い浮かびますか。先生の母校である園白そのしろ高校には、良く聞く、ありがちなものばかりでした。例えば、音楽室のピアノが1人でに鳴る。その演奏を最後まで聞くと呪われる。

ね、聞いたことあるでしょう? メジャーな七不思議です。面白みのカケラもない、と言ったら失礼ですが、当時の私たちはつまらないと文句を言っていました。

その点、架秋女学園は違います。面白いと言うにはあまりにも重い、死に関する七不思議が存在していました。珍しいと思いませんか。

私が知っているのは、『関わってはいけない女』ともう2つ。『屋上の乙女』と『購買部の銅像』です。内容は控えます。気になる人は自己責任で。

ちなみに、どちらも死が関係します。


さて、話を戻しましょう。

関わってはいけない女は、この学園内を彷徨う女子生徒の霊と言われています。あなたたちの着ている制服とは違う、一昔前の学園の制服を着用しているので、会ったらすぐに分かるそうです。職員室にサンプルが置いてあるので、確認したい子は先生に言って下さい。


関わってはいけない女は、その言葉通り、関わりさえしなければ、害はありません。

廊下ですれ違っても、声をかけない。

彼女が何か落としても、拾わない。

手を伸ばしてきても、反応しない。

話しかけられても、返事しない。

存在そのものを無視する。それができれば、死んだりしません。そういう七不思議です。


だから、極度に怖がることはありません。

とにかく関わらない。それだけです。

簡単でしょう?」

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