第14話
F級、E級だったこれまでのダンジョンと違い、4層と増えてはいたがボス部屋の仕組みはいつもと同じ。ゾンビ、スケルトン、幽霊のこれまでに遭遇した3種と、ボス格であろうゾンビに似たモンスターが居た。
「アレは何だ?」
知らないモンスターを目の前にしてちょっとだけ冷静になった俺は、その正体について念のために聞いておく。
「グールだね。ゾンビに似ているけど身体能力がかなり高いらしい」
グールとゾンビって同じようなものだと思うが…… まあそういうことなのだろう。
俺たちはボス部屋の中に入り、戦闘を始める。
グールの強さが分からない為ブーメランを2つ投げたのだが、別に対して強いわけでもなくたった一発で頭が弾け飛んだ。
他のモンスターたちも耐久力が高いタイプでは無いので、それぞれ俺のブーメランで倒しきってしまった。
「えっと、終わったね」
ボス部屋での戦闘は過去最速のスピードで終了した。戦闘開始からブーメラン5発で30秒。RTA世界記録でも取れたのではなかろうか。
俺たちは攻略報酬を受け取った後、配信を終了しクリアの手続きを済ませた。
いつもであれば飯を食べて帰る流れだったが、今日はあまり考えたくないとのことでリンネはそのまま帰っていった。
「いやあ流石だね周人君は!」
返ってくるなり涼にそんな言葉をかけられた。
「さあさあご飯は出来ているから食べよう食べよう!」
手荷物を取られて部屋に持っていかれた後、俺はリビングに押されるように連れられて行った。
そこには既に豪勢な夕食が添えられていた。
「いやああの配信は傑作だったよ。まさかスキルも未使用で何の付与も無いただ丈夫なブーメランで幽霊を倒す日が来るなんて!」
涼は俺に期待してここまで来て良かったと満面の笑みだった。
ちなみに涼によると、幽霊討伐の後一気に視聴者が増えて配信が終わる頃には視聴者数が10万の大台を突破、そして返ってくるまでの数十分の間にアーカイブの再生回数が300万を超えていたとのこと。
流石に本当だとは思えなかったので自分のチャンネルを見てみたが、全て事実だった。コメント欄が様々な言語で彩られていたので、これからも馬鹿みたいに再生されるだろうことは容易に見て取れた。
「そういえばネットの人たちがあの話が本当なのか検証してたよ。再現性は無いのかって」
「そうなのか。それはありがたいな」
正直俺も何が起こっているのか分からなかったので、調べてもらえるのなら非常に助かる話だ。
「後DMに大量のメッセージが来てたね。幽霊を倒していたことについて実証したいので一緒にダンジョン攻略をしませんかとか、研究に協力してくれませんかとか」
「何故それを知っているんだ」
「だって周人君のSNSアカウントにログインできるし」
「いつの間に」
「周人君が外に出ている間にパソコンをちょちょいとね」
「おい」
何をやっているんだ。それはルームシェアをする上で一番の禁忌だろ。
「大丈夫。パソコンにある変なフォルダの中身とか同人販売サイトの購入履歴とかは絶対に見ていないから。ちょっと幼い女の子キャラが好きだってくらいしか知らないから」
「がっつり見てるだろ」
「配信で聞いただけだから」
「そんなことは話したことはない」
AIMというプロゲーマーのキャラ付けに関わるからそんな話は一切した覚えは無い。
俺は電子機器のパスワードは定期的に変更しようと心に決めた。
翌日、俺はいつも通りリンネとダンジョン攻略に行こうと思ったのだが、珍しいことに断られた。
リンネは昨日起こったことが若干悔しいらしく、僕もAIMみたいな偉業を成し遂げてやるんだ!少し待っていろ!と意気込んでいた。
プロゲーマーらしいというか、負けず嫌いというか。俺もそういう気持ちはよく分かるので文句を言うことも無く、リンネによる報告を楽しみに待つことにした。
とは言ってもその日まで何もしないわけにもいかないので俺はひとまずD級ダンジョンを攻略することにした。
次に選んだのは神田ダンジョン。前情報によると亜人系のモンスターのみで構成されたダンジョンだ。人型ということもありFPSと考えることは変わらないからソロでも楽だろうという判断だ。
配信の冒頭でそう話すと、様々な言語が混じったコメント欄の中に、日本語で「リンネは?」というコメントを発見した。
「しばらくはリンネとダンジョンに潜ることは無い。とは言っても不仲になったからではない。リンネが対抗心を燃やして何かやってやろうと画策しているだけだ」
リンネが配信で話しても良いと言っていたので正直に伝えた。すると視聴者の笑うコメントが流れたので信じてくれたはずだ。
「今日の配信は昨日のこともあって様々な国の奴らが集まっているようだが、こうして俺は日本語以外の言語を話すことが出来ない。それだけは理解してくれると助かる」
と恐らくこの配信の半数以上を占めるリスナーに告げた。確かにFPS全盛期の頃は海外からのリスナーも居るにはいるがここまでではなかった。
まさかこのレベルでしかないのにここまで注目されるようになるとは思っていなかった。Aランクダンジョンに潜れるようになったあたりから増えていく想定だったのだが、そこまで俺は珍しいものなのか。
けれどやることは変わらないのでそのまま攻略をスタートする。
第一層は森をベースにしたエリア。ただ、完全に道なき道というわけでは無く何者かによって整備された部分が存在する。
人間の力でダンジョンを加工することは不可能なため、あえてそういう風に作られているのだろう。
「あれは『ゴブリン』か」
まず第一層に居たのはゴブリンの群れ。前身が緑色で、小学校低学年程度の身長。尖った耳を持つ非常に狡猾なことで有名なモンスターだ。
実際、道を通る人間を倒すために身を隠している様子が伺える。こちらからは丸見えだが。
人と同じ言葉を話し、交流できるタイプのゴブリンも物語に存在はするのだが、こいつらは流石に違うだろう。
まだ俺には気付いていないが、一応道だけではなく周囲を警戒している様子が見て取れるので、このまま観察し続けた場合いずれ見つかるだろう。
というわけで早々に倒してしまうことに。
「同時に倒さなければ面倒そうだな」
一方的に攻撃されていることを悟られてしまったら確実に身を隠されて面倒なことになる。こちらを見つけるまでは安全を確保し、様子を伺うタイプだろうしな。
「じゃあ投げるか」
俺は群れの数ぴったりのブーメランを取り出し、同時に着弾するように投げた。
極力視界の外から当たるように調整したのでゴブリンは避けることすらなく脳天に直撃。
「一応探知をかけつつ採集に向かうか」
見られる限りのモンスターは倒したはずなのでお楽しみの採集タイムとなる。
「確か金になるのは血だったな」
調べたところによるとゴブリンは人間に近い構造らしく、食べると健康被害が起こるとの事。また、皮も大して使い道は無く、骨も強度が無いため使い道が薄いらしい。ただし、血に関しては魔力が通っていることもあり研究などで有用らしい。
その話を見て色々調べた結果、とりあえずモンスターの血は取り得らしい。ただ取るのが大変だから血が高価なモンスター以外は採集しないらしい。
血抜きの要領で体の一部分を切断しまとめて取り出すのが一番楽ではあるのだが、ちゃんとした採集道具でした方が高値で買い取ってくれるとのこと。
マジックバッグから血を採集する機械と血を貯める容器を用意し、組み合わせる。
「舞うは皮膚を引き延ばし、血管を固定させる。角度は10度から20度で、血管に合わせて刺す。よし、どうだ」
機械の方を見る。OKのサインが出ている。
「成功だな。じゃあスイッチを押して採集開始だな」
人間に対する採血と違い、全ての血を取れるだけ取るのが目的なため機械で雑に取ったとしても問題無いらしい。じゃなければ注射器で一回一回丁寧にやらないといけないらしく途方もない時間がかかるとのこと。
待つこと5分。ようやく血を取り終えたようだ。吸血鬼に吸われた時みたいにからっからになるのを予想していたけれど、そこまではならないらしい。
「やってみたはいいものの確かに面倒だな。機械が必要な上に時間もかかる」
明らかに配信のテンポを阻害していた。
「配信中はこいつの採集はやらないことにしよう」
現在数万人が配信を見ており、広告収入や投げ銭などで十分なくらい収入が確保できている。採集で時間をかけて配信をつまらなくするより、完全に諦めて視聴者を楽しませる方向にした方が確実に良い。
「あそこにあるのはゴブリンの集落か?」
第二層への扉を探しに歩き回っていると、家のようなものが大量に並んでいる場所を見つけた。
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