第13話

 秘密基地内の物陰に隠れて、その足音の主が来るのを待つ。

 徐々に足音が近づき、入り口に見えたのは、雨にぬれた七海の姿だった。

「久人、いる?」

 基地の中に向かって、呼びかけてくる。

 嬉しさを隠しながら、僕は答えた。

「おう、いるよ」

「よかった。ねえ、濡れてるけど、そこに行ってもいい?」

「いいよ、俺も濡れてる」

 そう言うと、彼女は体を床下に滑り込ませた。

 髪の毛からは水滴がポタポタと落ちており、着ている黒いワンピースは、濡れて張り付き、体のラインが露になっていた。

 その姿に、ドキリとする。

 性欲や性癖とは無縁の小学生だったが、何も知らないなりに、その濡れた服が浮き立たせる体のラインの艶を感じ取った。

 七海は机代わりにしていた木の板の上にランドセルを置き、椅子の上で膝を抱えて座った。

 ワンピースの端から零れる白い両の手足が、灯りの点いていない薄暗い秘密基地の中で、少しだけ光っているように思えた。

 彼女は膝と胸の隙間に視線を落としたまま、何も話さない。木々を叩く雨の音だけが、この中で響いている。

 僕は足に視線を投げて、そのまま膝へと滑らせて、太ももへ、彼女が気付かないように視線を動かしていく。

 その先にある下着を、僕は見たかった。

 ただの布があるとしか思っていなかったが、興味があった。


 好きな女の子のパンツ。


 それは、見ておきたいものだった。

 そして、彼女の内腿に視線が到達した時に、七海が泣いているのに気付いた。

「七海……」

「なんでもない」

 いつもの七海と違っていた。

 いつもなら、ここで彼女は僕を『もっと見る?』などと言って挑発するか『バカ!』と言って殴ってきただろう。

「泣いてなんか……」


「まだ俺、何も言ってないぞ?」

「っ……」

「何かあったのか?」

「いいの」

「よくねえよ、泣いてるじゃん」

「いいから……ほっといて」

「でも……」

「いいから!」

「そうかよ。じゃあ、聞かねえ」

「……ごめん」

 沈黙が再び訪れた。

 何をしていいのかわからず、視線を自分の足に落とす。

 拒否をされたのが、くやしかった。

 心の距離を縮めていたと思っていたせいか、彼女の言い放った『ほっといて』は、心に響いた。

 俺達は、なんでも話せる仲じゃなかったのか?

 なんで話してくれないんだ?

 そんな疑問が、頭の中でぐるぐると回り、それ以外のことを、考えさせる余裕すら与えてくれない。

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