閑話 ただ頑張るだけ
筋トレから木刀の素振り300回、ランニングから始まり、それからも様々なことをした。
セリスの元に来て2ヶ月が経つ。
訓練のための持久力がある程度、備わったらしいので、次のステップにいくそうだ。
「じゃあクロウのチート能力やらを見せてもらおうか」
「よしきた」
いよいよ【創作】の出番だ。
武器で強そうって言ったらやっぱり伝説の武器だよね。
「——いでよ、グラム」
手をかざすと、粒子から剣が出現。
創作した上で性能を上げる。これで普通の剣とは大幅に力が違うだろう。
「ほーう、中々質は高そうだな。じゃあ次の武器だ。どれくらい作れるか、限界までやってみてくれ」
「限界? 無限になっちゃうよ」
女神様から貰ったチート能力だし、好きなだけ作れるだろう。
せっせと作り上げ、5個目に突入した時だった。
「いッ!?」
稲光が走るような突然の頭痛。こめかみを押さえる。
次は息が苦しくなった。
「げほっ! げほげほげほ!!」
空気を吸っても頭痛は一向に治まらない。
重々しい嘔吐のような気分。
胸が苦しい、震えが起きる。
「なるほど、オーバーヒートか。そのチート能力やらにも制限があるようだね」
「ガハぁ……ハァハァ……」
「過呼吸を起こしているようだね。クロウ、落ち着いて呼吸をするんだ。そう、ゆっくり、ゆっくりと……」
セリスがポンポンと背中を叩くリズムに合わせて吸って吐いてを繰り返す。
「ぜぇ……はぁ……落ち着いたよ……」
「そうか、良かった。一見すると便利に見えるが、利点以上に欠点も多い癖のある能力だね。オーバーヒートしてしまったということは、まだ魔力が足りてないんだ。もっと鍛えて魔力量を増やせばきっと強みになる」
「……はーい」
なんだ、僕は無限魔力とかじゃなかったのか。確かに女神様がくれたのは【創作】だけ。
ラノベみたいなご都合主義の異世界は存在しないんだ。
改めて現実を見た。
複数同時に作り出すとか、戦闘中に素早く作り出せるのか……色々課題はありそうだと、セリスは言っていた。
「じゃあ次は剣術だが……先に実践といこうか」
木製の剣を渡され、互いに構える。
「始め!」
セリスが開始の合図を出すとともに、距離を詰め、首元目掛けて剣を振る。
しかし、後ろに避けられた。
振り終わる頃には、セリスとの間に一定の距離が生まれた。が、まだ剣の届く距離。
僕はセリスに向かって一歩踏み出し、剣を振り上げた。セリスは腰を落とし、手に持っている剣を斜めに、鋭角に両手で構える。
受け流すつもりのようだ。
カンンッという、木製の剣同士がぶつかる音が辺りに鳴り響き、僕の剣がセリスの剣の上を滑る。
だが、まだ受け流せていない。
……このまま押し込めばいける。
グッと力を入れた瞬間、受け止めていたセリスがパッと剣を離した。
「わぁ!?」
いきなり支えが消えたことで、体勢が崩れた。どうすることもできずそのまま前のめりに倒れる。
尻目にセリスが落ちていく剣を素早く拾い……僕の後ろに回った。
倒れた僕はすぐさま起きあがろうとしたが……顔を上げた瞬間、ヒュンと首元スレスレに剣を突きつけられた。
「ここまでだね。うん、中々の腕だ。これは鍛えがいがありそう」
「……そーですか」
凄く笑って楽しそうだ。
スパルタを楽しむのやめてくれません?
休憩時間になり、セリスは屋敷に戻った。僕は1人草むらで寝転んでいる。
「ねぇ」
綺麗な金髪を靡かせた少女が近づいてきた。路地裏で僕が拾った子、確か名前はルルシーラだったけ?
「あ、ルル様」
「様って言わないで」
「でも元は貴族だったんでしょ?」
「元よ。もう貴族でもなんでもないから。ただの捨てられた平民」
不満そうにため息をつき、ルルは僕の隣に座った。
地べたに座るのに抵抗がないのか、と聞こうとしたけど、怒られそうなのでやめた。
「貴方はどうしてそこまで頑張るの?」
「強くなりたいから」
「強くなったって意味ないわよ、殺された後では無力。力なんて持っていても意味ないわ」
「……」
そういえばルルは両親を暗殺されたんだったけ。
「そう言うってことは、ルルは強いの?」
「知らないわよっ! そんなのどうだって!」
「じゃあ約束」
「……は?」
「ルルの両親を暗殺した集団を見つけて2人でフルボッコにしよう」
「なんで……なんでそんな事を何も知らない貴方とッ」
端に涙が溜まった鋭い目つきで睨まれる。
「確かに僕はルルのことを何も知らない。だけど、現実を言おう。失ったものは戻らない」
「そんなの……そんなの自分が一番ッ……」
「でも、無念は晴らすことができる」
「っ……」
「やられっぱなしで悔しくないの? 僕はルルの事情を聞いて凄く悔しかった。自分のことのように。僕も無力だった、何もできずやられるままだった。だから僕は、見返すために頑張ってる。そんだけだよ」
起き上がり、お尻についた草を払う。
マメが破れたのか隙間に草が入ってチクチクする。
「単純な目標でいいと思うけどね。どう? 一緒にやらない? やり返し修行」
「……なにその子供みたいな修行」
と言いつつも、ルルは僕の差し出した手をぎゅっと握り起き上がった。
「ん? どうしたのシエラ」
「あ、ルエラ。クロウさんにお飲み物を持ってきたんだけど、出すタイミングを逃しちゃって」
「んー? あの2人……」
物陰から見守るシエラとルエラの視線がクロウとルルシーラに注がれる。
「剣はこう握るのよ。これだと向きが変えやすいでしょ」
「おー、本当だ! 流石、貴族様」
「だから貴族って言わないで。全く……あんなカッコつけた貴方がダメダメでどうするのよ」
「僕が強くなるまでルルが守ってくれれば問題ないと思う」
「他人任せすぎでしょ」
ルルシーラがクロウに剣を教えてる光景が広がっていた。
「ルルシーラも随分と打ち解けたじゃない。一昨日までは部屋にこもってばっかりだったのに」
「精神的に辛いと思うけど、乗り越えていくことを願うばかりよ」
「そのサポートを私たちがするんでしょ」
「ええ、私たちは同じ境遇を経験した仲間だもの」
シエラとルエラは顔を見合わせ笑う。その様子を一番後ろから見守っていたセリスも微笑んでいた。
セリスの元に来て半年が経った。
「この5人でギルドを結成しようと思うんだ」
集められシエラ、ルエラ、僕、ルルシーラは顔を見合わせた。
◇次回、リゾート編後半です◇
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