第36話 頼れる姉貴リーダーにギルドを抜けたいと言ってみた
「なんでいつも場所をここにするのさ」
「クロウと来店するとパンケーキが安く食べられるからね」
それ、カップル割引だからね。まぁセリスは僕の事を男だと思っていないのだろう。
女性に人気のパンケーキ屋に来ていた。もちろん店内は女の子だらけ。
異世界でパンケーキ、と思っただろ?
100年前にいた異世界の勇者が伝承したらしい。その人物は様々なものを伝え、この世界の生活を豊かにしたとか。
力がないなら知識チートで名声を。そんな考えは、転生したばかりの頃、街を回った時にあっさり崩れさった。
「僕もコーヒーがお安く飲めて嬉しいよ」
パンケーキを注文したら付いてくるドリンク。セリスが飲み物いらないって言ってくれた。だからタダ。
「それで、話というのはなんだい」
「単刀直入に言うけど僕、ギルドを抜けたいんだ」
そう告げるもセリスは顔色一つ変えない。
「理由を聞いても?」
「ギルドで最弱なのと、顔が良くない。これじゃ無双できない」
そこでセリスはパンケーキを食べるフォークを止めた。
「仲間が強くなったのはクロウがお手製の武器を渡したからじゃないのかい?」
「だって武器をあんなに持ってても宝の持ち腐れじゃん」
「顔は?」
「生まれつき」
「じゃあ総合的に見るに……」
「僕の自業自得ですね、はい……」
あっさり論破されちゃったよ。
「だって誰しも無双したいと思っちゃうじゃん」
「クロウの場合は戦う前に仲間が終わらせているケースが多いからね」
仕事が早いのはいいけど、もう少しリーダーの顔を立てて欲しい。
「でもクロウが本気でギルドを抜けたいと思うなら協力はするよ」
「ほんと!」
「ああ、ただし条件がある」
「条件?」
「——私のギルドに入ることだ」
セリスのギルド、
「ハハッ、セリスのギルドって女の子限定じゃん。この前男が入り込もうとしてボコボコにされるの見たよ? 冗談でしょ」
「私が冗談を言わないタイプだって知ってるだろう」
「……仮に本当だとして、男が僕だけっていうのは……」
「そんなの女装すればいいだけじゃないか」
「だけとか簡単に言わないでよ……」
女装したら男としての尊厳が失われそう。不細工な僕に尊厳自体あるか分からないけど。
「私は本気だよ、クロウ」
赤色の瞳が鋭く光る。
「君に剣を教えたのは誰だと思ってるんだい」
「セリスさんです……」
「ボコボコにされていた君を助けたのは」
「セリスさんです……」
「君にしばらく衣食住を与えたのは」
「セリスさんです……はい……」
この人には恩しかないな……。
「今は泣かないクロウが珍しく泣いたよね。そんなに稽古が厳しかったかい?」
「めっちゃ厳しかったよ。あと泣いたことバラさないでよ。絶対馬鹿にされるから」
「バラさないに決まってるよ。あれは私とクロウだけの——」
「セリス様ここにおられましたか」
僕らの席に三つ編みの女の子がやってきた。【
「シエラも一緒に食べる?」
「私がわざわざ呼びにきたという事はお時間って事ですよ、セリス様。この後も予定が詰まってるんですから」
ありゃ、やっぱり
ここは男として奢ってやるよ、と言って去ってやろうと思い、伝票を取ろうとしたが、セリスに先を越された。
「今日はいい話を聞かせてもらったから私が奢るよ。またね、クロウ」
爽やかな笑顔を繕うと、店内から短い歓声。相変わらず態度がイケメンだ。
……ん? 僕がギルドを抜けるのがいい話なの?
「先ほどはクロウさんと何をお話しされていたんですか?」
「リーダー同士の戯れだよ」
「秘密ということですね」
「シエラは理解が早くて助かるよ」
「しかし、クロウさんはいつも仮面を付けてますね」
「個人のプライバシーだから本人の前では言わないでおこうね」
「はい」
「でもまぁ………」
「セリス様?」
「なんでもないよ。さぁ今日も頑張ろうじゃないか」
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