第三章 獣人国〜男性陣大活躍???

閑話 由無紅楼(よしないくろう)はいじめられっ子

 僕、由無紅楼よしないくろうはいじめられっ子だ。


「お前ってほんと不細工だよなー」


 教室の端で目立たないように大人しくしていたにも関わらず、わざわざ近寄ってくる。


「どうしたらこんなに不細工になれるんだろうな」

「こいつの母親、結構美人だぜ」

「え、じゃあ子供がハズレってこと? 笑えるなぁ〜」


 今日もいじめられる、笑い物にされる。

 でも言い返せない。

 僕は、本当に不細工だから。


 眉毛と目が平均よりも離れていて、一重で涙袋がない。肌も荒れており、モテるオーラなんてものは皆無。


 だが、言われ続けると耐性がついてくる。最近では僕の顔で笑っているなら、別にいいのでは、とさえ思っていた。


 そんなある日。僕はトラックに轢かれ死んだ。


『私の世界へようこそ』


 綺麗な声とともに目が覚める。


 真っ白な空間。見渡す限りどこまでも白。目の前には白い服に身を包んだ可憐な女性。


「生命と魂を司る女神、ノアと申します」


「僕は由無紅楼よしないくろうです」


「存じております。クロウさんは随分と落ち着いているのですね」


「まぁ、ラノベ読んでますから」


「そうですか。必要ない説明かもしれませんが、業務なのでさせて頂きますね。貴方は不運な交通事故に巻き込まれて死んでしまいました。ですが、若くして亡くなられた方には剣と魔法が渦巻く異世界への転生を勧めておりますが……転生しますか?」


「もちろんお願いします!」


「はい、承りました。2度目の人生、後悔のないように生きてください。と言っても、すぐ死なれては困るので、ささやかながらプレゼントをご用意しました。貴方には——【創作】の能力を授けます」


 女神様が与えてくれるのって大体、チート能力だよね。


「ありがとうございます」


「あとこの指輪と……その顔、隠したいですか?」


「顔は変えてくれないんですね」


「私が与えるのはあくまで死なないようにする能力ですから。けれど可哀想なのでオマケにこのカッコイイ仮面をあげますね」

 

 遠回しに不細工って言ってるな。

 黒のデザインで確かにカッコいい。


「付けているときっといい事がありますよ」


「じゃあずっとつけときますね」


 早速、目元が隠れる仮面をつける。


「では転生の儀式を行います。貴方は目を瞑っていただくだけでいいです」


 そう言われたので瞼を閉じる。

 女神様が何やら唱えているような声が聞こえてくる。


 次第に意識が遠くなり、次に目覚めた時には異世界にいた。


「おお、これが異世界……!」


 着いたのはどこかの街。

 通りすがる人々は変わった服装をしている。腰には武器。


 転生したら幸せハーレム築きながら異世界無双できる——そう思ってた。




「カハッ!?」


「おいおい、こいつ弱っ」

「ただの見掛け倒しかよ」


 僕は【創作】の能力で作り出した伝説の武器【炎の剣】で新人ながらに魔物を倒しまくっていた。


 だが、事はうまく進まない。


 パッと湧き出た新人に大活躍されたのが気に食わないのだろう。


 僕は男2人組に路地裏に連れられ殴られていた。


「それともこの武器がいいんじゃね?」

「多分それだわ。3回殴っただけでもう死にそうだもんな」


 と、僕の腰に装備した剣に手を伸ばす。咄嗟に僕は剣を異空間に収納した。


「あ! てめっ武器をどこに隠しやがった!」

「早く出しやがれ!」


「っ、っ……」


 ガシガシ、ゲジゲジ


 蹴られ、罵られの連続。

 身体を丸め、事が過ぎるのを待つ。


 ……伝説の武器を創作できるからなんだ。それを上手く扱えないと宝の持ち腐れだ。


 僕の武器は強い。しかし、僕自身は武器なしでは無力。


 戦闘に慣れてなさすぎて、動きに隙がありまくり。当たり前だ。日本で戦うなんてことはしてこなかった。


 だから剣を抜く前にこうやってボコボコにされていた。


「……ケッ。帰ろうぜ」

「ああ。二度と俺たちの前に現れるなよ。次絡んできたぶっ殺すッ!」

「おいおい、そんなビビらせんなって、泣いちゃうだろ」


「「ギャハハハハ!!」」


 絡んできたのはそっちからなのに……。


 そんな理不尽な嘆きは、笑い声にかき消される。


 男たちが去った後、指輪をはめた。


 瞬間、ぽわぁと身体が温かくなり、ボロボロだった身体から傷と痛みが消えていく。

 

「はぁ……」


 だが、起こったことは消せない。


 それからもストレスが溜まったギルドの奴らに目をつけられ、ひたすらストレスの捌け口にされた。女神様から渡された指輪がなければ死んでいただろう。


 何がチート能力で無双だ。

 何が幸せハーレムだ。

 何が異世界転生だ。


 転生したら幸せハーレム築きながら異世界無双できる——とでも思った?


 甘い。考えが甘すぎる……。


 それは一部の成功例であって、テンプレが裏切らないとは限らない。


 異世界で自由を貫く難しさを、僕は何も分かっていなかった。


 1人じゃ何もできない。まずは仲間集めだ。

 ギルドに入るのはまたいじめられる可能性があるし、他人の指示に従うとか無理。


「そうだ。武器を渡せばいいんだ」


 伝説の武器を作り出して、味方に渡す。それなら必然的に恩を売る形になるだろう。

 それに僕が作った武器をメンバー全員が持っているギルドってカッコいいじゃないか。


 こんな弱みに漬け込むような考えしかできないけど、今はこれが原動力だ。時が経てば方法は見つかるはず。


 前向きな姿勢で、僕は覚悟する様に拳をギュッと握りしめる。

 

「よし、見てろよ異世界」


 ———僕は絶対いじめられない人生を送ってやるんだ。




◇一部修正しました◇

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る