第19話 崇拝型ヤンデレ
血の腐った匂い。焼き焦げた匂い。
もわんとむせ返るような空間。
空気は澱み、人が好んでいる場所ではない。いるのはサキュバスの集団と戦闘服に身を包んだ3人の少女だけ。
「…………」
桃色のロングに琥珀色の瞳の少女はひたすらサキュバスを鎖で縛り上げている。
彼女の名前はフェル・ソールズ。
元は王家の敏腕メイドだったが、冤罪をかけられ解雇。その後、クロウのギルドに入りギルド内ランキング4位。
「すぅ……すぅ……」
灰みがかった青緑色のツインテールに薄水色の瞳の少女は今は泣き止み、端の方でスヤスヤと眠っている。
彼女の名はユマルマ・ファガラ。
元々は平穏な家庭で生まれた子供だったが、親が闇金に手を出し、売りに出された。その後、クロウのギルドに入りギルド内ランキング1位。
「ん、次は顔を焼く」
炎で次々と身体を焼いていく赤髪セミロングに黄色の瞳の少女。
彼女の名はアリーシャ・クラエス。
元は某有名ギルドの魔法使いだったが、その才能に嫉妬した仲間たちにより裏切られた。その後、クロウのギルドに入りギルド内ランキングは6位。
この3人はギルドリーダーでもあり、自分たちを救ってくれたクロウに崇拝レベルで依存している。
「い、痛い……ご、殺して……」
イチの顔は歪んでいた。
手足を鎖で拘束され、その手足は焼かれて感覚が分からない。分かるのはヒリヒリとした痛みとプツプツと焼き焦げる肌だけ。
「殺して? 何を言ってるんですか? 情報も吐いていないのに」
ニッコリと笑うフェルの姿にイチはただただ震えることしかできない。
「だ、だがらわ、わからないと言ってる……ランダムで転移したから……」
繰り返される言葉にフェルもため息をつくばかり。
「ん、ランダムムーブならどこにいくか発動者にも分からない。聞いても無駄」
アリーシャの言葉に考え込むフェル。そして諦めたようにため息をつく。
「ルル様の方も襲撃に遭っているはず。……あちらも有力な情報は得られなそうですが」
「ん、もうこの国ごと破壊しちゃダメ?」
「ダメです、アリー様。この依頼はギルドハウスからのものですから、最小限の被害に抑えないといけません」
アリーシャは不満そうに頬を膨らませす。
「最も効率的なのはここのアジトを潰すこと。もしくは一番権力がある人を潰すかですね」
周囲を見渡すフェル。しかし、辺りにはアジトらしき建物は見当たらない。
「ここにないとしたら……地下ですかね」
「っ」
イチがビクっと反応する。
それを見て確信したフェルは、イヤリング型魔道具である『デンワ』を起動し、通信を開始。相手はもちろん、
「ルル様、転移魔法によりどこかに飛ばされたようです。場所は不明です」
『そう、ありがとう。こちらもそれらしきところをあたってみるわ』
「お気をつけて」
フェルはルルシーラとの会話を終え、再びイチの方を向く。
「これ以上貴方たちに構っていてもしょうがないようですね」
「な、ならアタシたちを解放してくれ……っ!!」
イチの顔は希望に満ち溢れていた。
……やっとこの拷問から解放される。
他の仲間たちだってそう思っていた。
「何言ってるんですか?」
「……へ?」
そんな彼女たちの希望を一瞬にして踏みにじるフェルの言葉。
「確かに貴方がたをこれ以上拷問しても何も情報は出てきません。……ですが、先程までの拷問は情報を吐かせるため。今からはクロウ様もとい、私たちの仲間に手を出したことへのです」
フェルの言葉にアリーシャもコクコクと頷く。
「そんな……ああ、……ああぁぁぁぁぁ」
イチは唸りながら考えた。
どうしてこうなったのか……。
ああ、違う違う。全部、あの仮面の少年を攫ったことから始まってたんだ。
イチはようやく気づいた。
自分は一番関わってはいけない人に手を出したのだと。
「さて、楽しい楽しいゴウモンの時間ですよ」
ニッコリと笑うフェルに対してイチは顔面蒼白になった。
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