第54話 決して忘れていた訳では…!

 突然の爆弾発言に固まった私は、団長さんの大爆笑にて意識を取り戻しました。


 誰が往来の激しい大通りの、それも真昼間にあんなこと言われて平然としてられますかね!?


 私がとても怒ったので団長さんが平謝りして、拗ねた振りして困らせようと企んでたら、屋台で美味しい肉串と、前にルーがバザーで買ってくれたマリンカのジュースを買ってきてくれたので、今はご機嫌です。

 私の事絶対チョロいとか思ってそう。

 しかし食の前では!駆け引きなど後回しなのじゃ!


「ん!これは……美味しい!」


 団長さんが買ってくれたのはあのホーンラビットの肉串でわりと王都では食べられている物だそう。

 肉的には兎だから鶏肉に近い味。私的には軍鶏みたいな……老鶏みたいな……滋味深い味という感想。つまりめっちゃ美味しい。

 少し硬いけど、コリコリしてて噛めば噛むほど旨みが増す、そんなお肉。

 これなら塩味だけでも美味しいし、マリンカのジュースとも相性がいい。

 今度またホーンラビットを食べるなら骨付きで煮込んでシチューにしたいところだ。


 魔物肉はジビエと同じという感覚なので私は最初からそんなに抵抗なく食べているけど、団長さんからしたら凄い事みたい。


 この世界は魔物肉を当たり前に食べるものだけど、それは平民が食べるものであるし、貴族などは家畜を食べる方のが多いから抵抗感が強いんだって。

 騎士団の食事のお肉は討伐してるってのもあるので魔物多め。家畜の肉もあるけどね。

 美味しい魔物は食べるけど、ホーンラビットクラスのは平民のもの、みたいな感覚なんだろうな。


 それなのに異世界からきた私は魔物の肉に恐れもせずに無抵抗に何でも食べるし美味しくするからいつも驚かされる、と団長さんは言う。


 私のスタンスとしては美味しければいいと言うものだし、多分幼い頃からジビエを食べ慣れているからだと思う。丸っきりの都会人じゃないし、田舎娘ですからね。(二回目)

 後、美味しいものが食べたいだけである。


「腹も脹れたし、そろそろ広場に向かおうか」


 ホーンラビット串は結構大きくて食べ応えあったからそこそこに腹ごなし出来たので、素直に団長さんの提案に頷いて広場に向かう。

 先程と違って屋台街は人混みが多くなっていた。広場から離れる人が多くなってきたのだろう、また手を繋がれた。

 ……なんか、子供のお守りをさせているような気分になってきたのだけども。


「ケイ様、ここがこの国の神殿の総本山、大神殿だ」

「う、うわあ……でっか!」


 広場を抜けて貴族側方面にそびえ立っているのはギリシャ神殿もびっくりな立派な遺跡とも言える豪華な神殿。古びた感じはないけど、威厳があって白を貴重とした建物。


「ここから階段を登り、入口の所で寄付金を上納して中にはいるんだ」

「寄付金!」


 制度はどこも同じですね!

 長い階段をヒィヒィ言いながら登り、やっとの事で入口に到達。そして寄付金を上納。その時何か団長さんが耳打ちしてたけど、聞き取れなかった。

 でも、結構な額を上納したみたいで――私の分まで団長さんが上納した――下級信徒が私達を中まで案内をしてくれた。


 なんか、一般とは違う所に通されているのだが??

 心配になって団長さんを見上げると、普通にしてたので貴族のスタンダードを私は今、経験しているみたいだ。

 まあ、確かに?団長さんと一緒なら貴族扱いになるんだろうからこういう扱いになるんだろうけども……。


 黙って石畳の上を歩く。

 コツコツと石畳特有の音しか響かない。

 あー、この音好きだな。私、都会人のOLさんがコツコツとヒール鳴らして歩く音が好きで憧れてたんだよね!それと同じ音がする!

 

 なんて能天気に考えつつ下級信徒に連れられ歩くと、小部屋……と言ってもかなり広い個室に通された。

 中は紫で統一された、いかにも神聖です!というお部屋です。


「ロイヤリティが増し増し……」

「……おかしい」

「へ?」


 団長さんが呟くので、見上げて見れば難しい顔をして部屋を見回している。


「貴女の存在は秘密なので、特別に個室にしてもらったんだが……手厚すぎるな」

「え?そうなんですか?」


 団長さん曰く、紫と言うのは最高位の神殿長……つまり法皇クラスしか身にまとえない貴重なもので、言わば上位の貴族の、その中でも王族で出家した人のための色なので、自分のような宮仕えの貴族の三男が通される場所ではない、と言う。


「え……じゃあ、何故……」


 通されたの?……と言う言葉は放てず、私は意識を失ってしまった。



************


「うぅ……頭痛が痛い……」


 もやもやした、光り輝くヘンテコ空間に居るんですけど、もうすでに現実逃避したい。


「そんな冗談言えるなら大丈夫よ」


 どこかで……聞いたような声がする。


「振り向いたら行けない気がビンビンするぜえ……」

「馬鹿なこと言ってないでさっさと現実に向き合いなさいな」


 この透き通るような、可憐で可愛らしいがセクシーなお声は……これは、絶対……


「褒めても状況変わらないから」

「めーがーみーさーまー」

「ハァイ、おひさ〜? 女神ちゃんでーす」


 顔が笑ってるのに目が笑っていません。

 あ、これ絶対怒られるやつ。

 私何かした?したね、いっぱい。


「わかってるからいいのよ? そう、わかってるならね……」

「女神様? お顔が怖いですよー?」

「わかってないから怒ってるのよ! このスカンプー!」

「スカンプー! ……って……女神様……」


 どんな罵倒なんだよ。


「もう!そんなことはどうでもいいの! 貴女っ! 私への報告とか連絡とか相談とか忘れてたでしょう!!」

「……あ」

「あれだけスマホ?を便利にしてあげたのに!貴女全然使わないんだもん!」

「いや、その……日々忙しくて全然そんな暇なくて……」

「スマホがあること自体、忘れてたくせに」

「う!」


 スネスネモードの女神様が痛い所を衝く。

 実際忘れてた、というか存在を忘れてた。

 こっちに来てからというもの、機械という概念が無くなっていたのでスマホなんて触る、とか言う発想すらなかった。

 そう言えばこちらに来た時に困ったことがあれば女神様に電話できるようにしてもらっていたのをすっかり忘れてた。


「そりゃ、最初は大変だから連絡しないのはわかってたけど? それにしても貴女、本当に存在自体忘れてるみたいだから、なら女神の日に祈りに来たら神託でもしようと思ってたのよ」

「はあ……」

「で!も!貴女全っ然!神殿に寄り付かないんだもの!宮廷怖い怖いって言ってさ!私はこっちに来てくれないと話すことも出来ないし、神託もままならないのよ!?」

「それは……すみません……」

「今まで一回も祈らないって本当、本当……! 森での時はどんだけひやひやさせられたか!!」


 それから、女神様のお小言……ならぬお怒りとお説教は続き、正座しつつ言い訳せずずっと説教を聞いておりました。


 特に森でのこととか、生活態度とか、意識とか、そういうところですね。危機感を持て、と。

 すでにライオネルやミッシェルにしょっぱく言われているのでグゥの音もでません。


 本来ならスマホを通して女神様がこっそり干渉……という名の誘導をする予定だったのに、私がスマホの存在を忘れていた事で誘導出来なかったし、まさか騎士団の食事係になってお料理聖女として祭り上げられるなどとは思ってもみなかったらしい。でもそれはそれで安全だし、世界的にはいい方向に行ってるから良しとしてたけど、私が一向に祈りにも来ない、スマホも使わないので女神パワーも使えず困ってたらしい。


 そして遂に今日、こちらの総本山に来ると言うのでここぞとばかりに女神パワーを使ってこの部屋に通した、とのことだ。


 下級信徒があのロイヤリティ部屋に通したのも神託あっての事、と納得した。


 いや、そんな干渉していいの?とは思ったけど、神殿ならおっけーというゆるーい縛りだそうです。おい、神界どうなってんだ?


「て、事だからスマホ出して」

「……バックパックの中、かな?」

「あーー!!もーーー!!」


 女神、壊れる。


「いい、自分で出すわ」


 と言って、ポンッと現れた私のスマホ。

 久しぶりに見る現代機器にわぁー!と拍手したけど元々自分のだった。


「貴女、ステータスも見てないでしょ? 凄いことになってるから」

「ふぇ?すてーたす??」

「え、そこから?」


 そうだった、私スマホからステータスとか見れるんだった。日々の美味しい食事と快適な環境作りに精を出しすぎて本当に忘れていた。


「危機管理も大切だけど、まずは己を知りなさい。魔力操作なんてその後よ」


 そう言って女神様はスマホをちょいっと触って私のステータスを出した。

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