第39話 金柑と思ってたら……?

「騙された……」


 調理台に置かれる大量の金柑。……と、それを試食して苦虫を噛み潰したような顔をしている私とお口の中が苦渋い酸っぱい状況なう。


「……まあた変なことしてるな?」


 ルーではなくダンが呆れ返っております。

 当のルーは私にお水を持ってきてくれてる。ありがとう……。お水飲んでも渋さは残るので口がタコみたいになってしまう。


 それを見てヤックとポールが大爆笑しております。


「美味しいものと思って食べたら違うものだった時の顔です」

「はあ?よく分からんが、プラムの実なんだから当たり前じゃん」

「プラム……」


 私の時が止まった。

 プラム、プラムとおっしゃった?ダンの口からプラムと言う単語が出てきたよね?


「……金柑ではなく?」

「金柑?……いや、それはプラム」

「騙されたーーーー!!!」


 ガッツポーズしながら叫ぶ。

 セリフと行動がちぐはぐでドン引きされてるけど関係ない。


 この見た目金柑の実はプラム……梅の実であることが証明されました!!

 騙されたけど結果オーライ!

 あの果物屋に文句言おうと思ったけど、これが梅の実なら話は別だわ!ありがとう、果物屋のおっさん!おまけとか言って大量にくれて!!


「あー、おまけとかで貰えるけど食えねぇんだよな、それ」

「……ダンも貰ったことあるの?」

「この時期になると大量にくれるんだけどさ、正直持て余すやつ」

「でしょうね!」


 これは日本人では無いとわからないものですよ!文句言いながら喜んでいる私にダンは不思議そうにしつつもいつもの発作なのだろうと完全に見守り体制に入っている。


 いいんです、日本人だけが嬉しい果実なので!

 早速これを痛まないうちに梅干しにしなければ!そのためにはまずすることは……


「水瓶、余ってるかな……?」

「ありますよ?持ってきますね」


 私が発作を起こす=美味しいものができる、と覚えているルーがさっと動いてくれる。

 今回はみんなに受け入れられるシロモノかと言われたら悩んでしまうけど、日本人は梅干しとライスの組み合わせが好きなので……これはもう遺伝子に組み込まれているものなので……。


 受け入れられなくとも、私は突き進む、梅干しの道を……。


 ルーが大きな水瓶を調達しているその間に大量の金柑改め、プラムを洗うとするか!

 洗ったプラムは軽く水気をとって、ヘタ取りをする。完熟してるからアク取りはしない。青梅だったらしないといけないけど、完熟でやると身が崩れるから洗うだけ。

 ヘタ取り……この細かな作業が好きなんだよね。没頭してしまう。


 見た目金柑なプラムはとても熟成されていて、柑橘系の香りと桃の匂いが混じったなんとも言えない甘い匂いがしている。

 だから私もなんの疑いもなく試食したのだけどね……もう二度と生で食べない。


 ルーに持ってきてもらった水瓶は浄化して貰った。


 その中にヘタを取ったプラムを入れるのだけれど傷んだものは除外。このプラムは梅シロップにする。


 酒……日本酒が手に入ったのでプラムに酒をまぶし、塩をどばっと。ここの塩は適当でオッケー。

 着ける時の塩の量は梅の重さの18パーセントと決まってるけどだいたいこの位かな?と自分が思う分の多めに入れときゃ大丈夫ってばっちゃがいってた。塩が少ないとカビ生えちゃうからね!


 浄化した水瓶に塩をまぶされたプラム、塩、プラム……の、順で重ねて最後は余った塩でプラムを覆い隠すようにする。

 使ってる水瓶の蓋だと大きいのでそれより小さい水瓶の蓋を中に入れて、重しを置けば梅干しは終了。


 ちなみに重しはそこら辺に落ちてる岩をヤックとポールに洗ってもらって浄化してるものを使いました!


「ほー……プラムの実ってそういう風にするんだな」

「日本だとこういうのを全体で漬物って言うよ」

「不思議なのです」

「塩ばっかでしょっぱそぉ……」


 三人組が関心しております。

 煮ても生でも食べられなかったプラムの実らしいからね。だからダン達この間のバザー行かないって言ってたんだな……理由がわかった。


「さて、梅干し作業は終了したので今度は傷んだもので甘いものつくるよ!」

「やったー!待ってましたあ!」


 甘いもの、で途端にやる気を出すポール。

 私が時々つくるお菓子はポールにとってご褒美らしく、新しいレシピを教えるとすぐに覚えてしまう。しかも応用もしてくるので、この世界初めてのパティシエにでもなる気だろうかと思う。


 そんなポールと一緒に梅シロップ作り開始。


「使う材料は砂糖とビネガーとプラムだけ。梅干しの反対だね」

「材料少ないねえ」

「それがいい所ですよ」


 これはコルク付きの瓶がいいからちょっと大きめのを2つ。2リットル位のを用意してもらった。

 この中に満帆に詰めるのではなく、半分位に詰めるから少し大きめのがいい。


 瓶を浄化して、梅干し同様に梅、砂糖、梅……と瓶の半分まで入れていく。蜂蜜もあったのでそれも入れちゃう。本当は氷砂糖がいいんだけど、砂糖や蜂蜜でも作れるから問題なし!

 これはもう、好みの問題だもん。


 よく梅は竹串で穴を開ける、てレシピあるけど私はそんなことしない。結果穴を開けない方が抽出量が断然多いからね。


 そして最後にビネガー……私は好みでりんご酢を入れる。この方が完熟した実には合うから。そしてコルクで蓋をして一週間ほど日光が当たらない場所で保存。毎日瓶を回して中味を混ぜてれば完成になる。


「もお、また待つやつだあ」

「ポール?美味しいものは~?」

「「「「時間がかかります!」」」です!」


「よくできました!」


 着々と教育は進んでいる。



******



 ……て事で一週間。

 梅シロップの出来上がりでーす!砂糖が溶けて中の身がしわしわになったら丁度飲み頃。


 プラムの実が良かったのかめちゃくちゃいっぱい抽出出来た。中身のプラムを取り出して、瓶ごと冷蔵庫保管する。これで半年くらいは保存できるので長期間楽しめる寸法です。


 中の身は水と塩を足して保存して梅干し風にしても美味しいけど、甘いもの好きな人が多いから今回はジャムにしたよ。


 待ちに待った試食タイム。

 事前にクッキーを作っていたので、今日はおやつタイムにクッキーと梅ジャム、そして梅シロップの水割り――……と言ったらかっこいいけど、ただの果実水です――を訓練中の四人組と騎士達に持っていった。


「みなさーん!おやつタイムですよー!今日は新作持ってきましたー!」


「おおー!待ってましたっ」

「お料理聖女様直々だぞー!」

「訓練止めー!みんなー!集まれー」


 わらわらと集まる騎士達。

 ルーを始めとする四人組もそうだけど、最近はお手伝いしてくれる騎士達なのでスムーズだ。でも相変わらずお料理聖女呼びは止めないので解せない。


「今日はプラムの実で作った果実水と、その実を使って作ったジャムです。クッキーに乗せて食べてね」


 説明するや否や騎士達は大喜び。

 中でも梅シロップで作った果実水は大盛況で、訓練後の汗をかいた身体にはちょうど良かったのか飛ぶようにはけていった。


 梅ジャムは酸っぱ甘いので賛否両論あったけど、ハマる人はハマってこれもすぐに無くなった。


「あの食べられなかったプラムがこんな美味しい果実水になるんだな」

「甘くて爽やかでくせになるです」

「ぼくはジャムがすきだなあ!」


 三人組が各々感想を述べては食べている。

 私も少し来る前に味見したけど、りんご酢が効いてるのか甘い中にもりんごの匂いがしてさっぱり飲める。塩ばかりだった食事をしてたこの世界の人にとっては健康ドリンクだろう。


 食前酒……まあ、酒では無いけど、広まってくれたらいいな。血圧絶対高いもん、この世界の人。


 来た時は肌寒かったこの世界も、もう暑くなり始める季節になってきた。

 四季のある世界だから、本格的に夏になったら経口補水液……いや、スポドリを作ろうかな?


 そう思いながら、青々と茂る木々の隙間からもれる光を見上げる。


 ――団長さんがかえってくるまで、後一週間。


 その頃には塩漬けした梅も梅酢が上がってきてるだろう。

 そしたら干すのを手伝ってもらおう。

 でも、その前に色々作ったんだよってお茶でも飲みながら報告したいな。


 久しぶりにのんびりした時間を共にしたいと呑気に思っていた。


 この時は、なんの疑いもなく待っていればいいのだ、と。

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