第35話 ジャムれどジャムれど……

 露店から帰ってきまして、早速調理場にて戦利品を並べます!

 って言っても全部じゃなくて、ジャムにするものだけね。


 バックパックからビックベリーとマンゴー、甘夏を取り出す。

 あまりの量に今更ながら私もちょっと買いすぎたかな……なんて思っているが後悔はしていない!

 なぜなら私のバックパック、時間停止機能付きの無限空間だから!!


 余ってもいつか使うしね、いつか。


「うわぁ、また沢山買ったのな」

「マンゴーがあるです!珍しい!」

「いいにおいだねえ」


 たくさんの果物を前に、いつもの三人組もちょっとテンション上がっております。

 帰ってきてから、特に声掛けとかしてなかったんだけどやっぱり自然と調理場に集まっちゃうね。


「ここに来たからには三人組も手伝ってくれるのかな?」

「「「もちろん!」」」


 元気の良いお返事です!


「ケイ様、言われていた大きな鍋と諸々ご用意しましたー!」


 ルーが食材庫から私が頼んでいたものを持ってきてくれた。

 私だと持てないし重いのでとても助かる。


「ありがとう、こっち置いてくれる?」

「はーい!」


 とりあえず空いているところに置いてもらって、私はビックベリーの味見と行こうと思います!

 まずは素材を知るという意味での味見しないと砂糖の量とかわからないからね。ポール?ずるいとか言わないの、これは正当な理由の味見なのです!

 個々の大きさはまちまちだけど、一番大きいのは顔くらいあるのでこれ一個で業務用のジャム出来そう。でもほら、よく言うよね?大きいものは大味だって……。


 愛刀のNo.9でビックベリーを一口分だけスライス。苺って先端が一番甘くって美味しいんだよね。

 そっと果肉にナイフを滑らせて切り分けるけど、大きいから先端でもみかんくらいの大きさになってしまった。

 うおお、切ったところからじゅわっと果汁が!苺のフレッシュで甘い匂いが充満してる。勿体ないので、その滴る果汁ごと……ぱくっ!


 一口噛むと、口の中に甘い果汁が広がる。あまーくて、でも爽やで。程よい酸っぱさが後から甘ったるくなった舌を流してくれる。果肉はサクッとしつつも水分を多く含んでいるのでこれはもう飲み物に近い。

 酸っぱくない、でも、ただ甘いだけじゃない。これは一個まるまる食べられる……。


「すごい……異世界の果物半端ない……」


 高級な苺、食べた事ありますか?わたしはあります。

 いつか行った人気のいちご食べ放題の場所があるんだけど、そこの苺はデリケートで出荷をほとんどしていなくて幻とよばれる苺だった。それを栽培して食べ放題のみで経営するところだったので時期になると人が凄かったのと、買った自家製ジャムかめちゃくちゃにおいしかったのを憶えている。

 そしてそこの苺をよりレベルアップさせたのがこのビックベリー!!これで作るジャムはさぞかし美味しかろうて……。

 あ、想像しただけでヨダレ出そう。

 それなのにお安いとか……異世界半端ない……ありがとう、ありがとう。


「苺がこんなに美味しいなら、他のも絶対美味しいよね」


 そう言って甘夏、マンゴーと味見。

 ……めっちゃ美味しいです。甘夏しっかり熟成されてて食べ頃だし、マンゴーは最高級なのかな?という程だ。

 私は知ってる。こういう美味しい果物で作るジャムは最強になることを!!


「おい、なんかケイ様怖くね?」

「笑ってますです」

「……ずるい」


「へへ、つい感動して……じゃあ、気を取り直して。ジャム作るよー!」


 三人組が怖がる(若干一名睨んでますが)のでジャム作り再開!


 まずは果物を切るところから。

 ボールに一口分より少し大きめに切ったビックベリーをいれて、そこに砂糖をかけて水分が出るまで放置。砂糖は保存のために多めにしたかったけど少なめで大丈夫そうだったから、今回は果物のポテンシャルと騎士達の食欲を信じて少なくした。

 甘夏は果肉と皮と種に分けて、皮だけ水にさらす……んだけど、そんなに苦くなかったからちょっとだけでいいかな。さらしたあとは薄くスライスして鍋にいれて一度お湯で茹でこぼす。本当は何度もする作業だけどさほど苦くなかったから1回で済んだ。種は布袋に入れて待機。

 マンゴーはそのまま果肉を切るだけ。


 ちなみにマンゴーの種は使わないから果肉付きだし、ポールにあげたら喜んでた。これで機嫌が治ったので良しとする。


「さて、ここからが体力&気力勝負だよ!」

「「「「はいっ」」」」


 美味しいものは時間がかかる。

 私にそう仕込まれた四人は慣れたもので、各々鍋に張り付く。


 ジャムは焦がしてはならないので時々混ぜておく必要があるんだけど、そこら辺は四人に任せます。


「沸騰しだしたらアクがでるから、掬ってとってね」

「アク、とはなんですか?」

「んー渋みとかエグ味とか、そういう成分の事かな?これがあると美味しくないんだ。お肉とか煮る時に出る茶色いのもアクだよ」


 ふんふん、とルーが熱心に聞く。

 

「ちなみにジャム作りにおいてのアクは……美味しい」

「美味しいのお!?」


 ポール、異常反応しない。


「白い泡の塊がアクだから、別にとっておいてね?後でいいもの作ってあげるから」

「「「「はーい!」」」」


 ビックベリーの方はアク取りをしだしてからは強火に。そしてここからが勝負。切った果肉のジャムは短時間で作るのが理想。なので早めに水分を飛ばすために強火なのだ。

 

「混ぜる時に鍋底が一瞬だけ見えたら完成だよ!……うん、おっけー!仕上げにレモン汁をくわえてね」


 私の指示でテキパキと動く四人。

 その間に煮沸消毒した大きめの瓶を用意して並べておいたので、熱いうちに注いで蓋をする。本当なら蓋をして逆さまにしたいところだけど、こっちの蓋はコルクなので盛れる可能性を考えてやめた。


「よしっ、これで冷えたらビックベリージャムは完成!次、甘夏いこう!」


 ちなみにビックベリーの鍋は洗わない。


 新しい鍋に茹でこぼした皮と砂糖を入れてひと煮立ち。こっちはもう茹でこぼししてアク抜きしてるのでアク取りをする必要ない。

 そう言ったらポールがしょんぼりしてた。

 ……大丈夫、お楽しみはこれからですよ。


 ある程度煮込んだら次は別にしていた果肉、種袋を入れて煮立たせる。そして、隠し味に白ワインビネガーを少し入れるとちょっと大人な味になるのでそれも追加して。

 

「ケイ様?何故種も入れるのですか……?」

「これはね、種に含まれるペクチンと呼ばれる成分が果肉にとろみをつけるから、かな?」

「ビックベリーにははいってねーぞ?」

「ビックベリーは周りのつぶつぶが種だし、元々入れる必要が無いんだよね」


 ルーに説明してると、珍しくダンが鋭い指摘をしてきた。おお、ダンも化学について興味持ちだしたのかな?


 そんな話をしてるととろみがついてきたので種袋を回収して仕上げにレモン汁を入れる。

 瓶詰め作業をしたら完了だ。


 ちなみにマンゴーはとてもおいしかったので砂糖を使わずピューレにした。ミキサーがあれば滑らかになるがそんなものはないので、濾して潰す作業にした。こちらはジャムじゃないから弱火でさっと煮たら完成。


「よーし!これでジャム二種類とピューレ、あとトマトケチャップの完成っ!」

「「「「え、トマトケチャップ?」」」」


 何故か追加されてる料理名に四人がびっくり。サプライズ成功!かな?


 ……実は四人にジャムを教えている合間にわたしはジャムを作るフリして別の鍋でトマトケチャップ作りをしていたのでした!

 ちなみに作り方はジャムとほとんど同じだから省略。切って煮詰めた後、濾してニンニクと玉ねぎのすりおろしと砂糖とりんご酢入れてまた煮込むだけ。果肉がすこし残ってるからあらごしタイプだね!


「トマトと玉ねぎ持ってきて、と言ったのはこの事でしたか……」


 ルーが納得、と言う表情をしております。


「なんかいい匂いするな、て思ってたんだよな」

「ニンニクの匂いしてましたです」

「お腹なると思ったらトマトケチャップだったのかあ……」


 何となく気づいてたみたいだけど、目の前の作業に追われていたので見る暇もなかったそうだ。


「みんなをびっくりさせたかったんだよね!色々作ってたらちょうど夕食作る時間になったし、トマトケチャップ使ったご飯……食べたくない?」

「「「「食べたい!!」」」」


 今日もみんな、食欲旺盛です!

 

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