第16話 硬いパンはこりごりだ!
「もう、我慢できない」
「……ケイ様の発作が始まりましたね」
騎士の何某があった翌朝。
私は食堂に来ております。
そしていつも通りの朝食が並んでおります。
カウンター越しに受け取った朝食を見つめてボソッと呟いた私の言葉に、ルーが呆れて茶化してくる。
今日の朝食は塩スープに硬いパンとサラダ。
サラダには教えたマヨネーズがかかっているので、ルーの覚えは良い。
ベジブロスはまだ使ってないみたいなので聞いたらお昼から使うみたい。用意間に合わなかったって。
ちょっと内容が変わった、と言ってもドレッシングだけだけど、それでも騎士達は……。
「おい、このサラダにかかってる白いの……めっちゃ美味くねえか!?」
「いつもと違って野菜がうめえ!」
「この白いのだけずっと食いてえ……」
等と、マヨジャンキーが早々に発生していた。
また新しく人を狂わせる調味料を生み出してしまったのだけど、カレー戦争の時より騒ぎは少なく、ライオネルさんか団長さんの効果なんだろうなあ……とぼんやり思った。
「ケイ様?お顔が赤いですよ?」
「へぁ!?え、あ!ナンデモナイヨ!」
いけない、思い出し恥ずかしをしてしまった。団長さんの騎士の誓いみたいな、あの恥ずかしい行為が名前を思い出すだけで記憶が繋がって掘り起こされてしまうからタチが悪い。
あーー、朝から暑い。
……体に悪いから忘れてしまおう。
とりあえず、目の前の朝食に不満があるのでそっと隣の騎士に私の分を流す。
「ルー、厨房使うね!」
言うや否や私は厨房にダッシュ。
待ち構えてたルーに浄化を掛けてもらう。
そういえば昨日、団長さんに魔法でやらかした事は言わなかったけど……まあ、いっか。
一応手洗いもしつつ、もう顔なじみになった見習い騎士さん等にも挨拶。
また何か作るのか?と期待に満ちた瞳を向けられるのをスルーして、食料庫に直行した。
「さーて。硬いパン攻略開始ー!」
気を取り直して、私は食料庫を探検。
作るものはもう決まっている。
そのために使えそうな、必要な調理器具を物色しているんだけども。
「なんだ、泡立て器もあるしチーズグレーターあるじゃーん!お?これは食パン型だし、タルトとケーキ型みたいなのもある!……こっちは麺伸ばし棒!?」
ガラクタ置き場と化している隅に置かれた箱の中には随分と使われていない調理器具がわんさかあった。
ルーに後で聞いたら、自分が入団する前からそこにあったそうだ。
多分使い方分からないか使わなくなったから追いやられた支給品だな?
支給品は捨てられないよね、だって王宮からの支給品だから元を正せば王宮のものだもんね。
返品しようにも出来ないからこうやって追いやられたのだろう。
「ふっふっふ……先人の見習い騎士または料理人達よ、ありがとう!この財産は私がいただく!」
見たことない調理器具は置いておいて使えそうなものはどんどんここから貰おうと思った。
泡立て器とチーズグレーターは使えるので確保して、次は材料物色。
牛乳、卵、チーズ、バター、砂糖、塩漬けした肉……サラダはルーのを食べるとして、朝だしこんなもんだろう。
ルンルンで食料庫から出てきた私にルーがそっと着いてくる。
「お仕事終わったの?」
「はい、後はお皿洗いとかだけなので」
「そっか!じゃあ一緒に朝ごはん作ろ!」
「はーい!」
当然、ルーの分は作るとして……羨ましそうにしてる見習い騎士さん達のは、どうしようかな?
なんやかんやあったし、自己紹介まだだからなんとなく遠巻きなんだよね。
うーん、これからちょくちょく厨房使わせて貰う身としてはここらで仲良くなっておきたい。
「えーと……そこの見習い騎士ABCの皆さん、私は山野ケイです、これからちょくちょく厨房を使うので今後ともよろしくお願いいたします」
「わっ、あ……俺はダン!」
「僕はヤックなのです」
「ぼくはポールだよぉ」
私がいきなり声を掛けたものだから、遠巻きにしていた三人はビックリしつつもちゃんと名乗ってくれた。
三人は同じ村出身の幼なじみで、農村育ち。
ダンはしっかり者のリーダーで、ヤックは村長さんの息子さん。
ちょっとぽっちゃりしてのんびりしてるのがポール。
ダンとポールが17歳、ヤックが18歳でみんな成人済。
この国は17歳で成人何だって。
この中でルーが一番年下だけど、ルーのが偉い。
それはルーが実力で年齢制限を超えて入団したくらい優秀だってことだけど成人しないと騎士としては働けないからここに居るって言ってた。
その時は流してたけど、なるほど……となっている。
ルーはもう騎士だけど年齢制限があるから下働きしてて、三人組は本当に見習い騎士なのね。
とりあえずこれで三人組とも知り合いになったから気兼ねなく好きなことをしていこうと思います!!
「じゃあ、今日は三人にも手伝って貰うね!」
「「「はーい!」」」
元気いっぱいの三人。
ふっ……これから地獄を見るとも知らずに……。
「今日は何を作るのですか?」
「今日はねー?硬いパンを使ったフレンチトーストでーす!」
「ふれ……ち?」
ルーが首を傾げる。
それに微笑みで返すとますます訝しげにするが、作業が先です!
「三人組には、このチーズグレーターを使って硬いパンとチーズを削ってもらいます!」
普通のパンの作り方はしません。
まずは三人組にはパン粉とチーズ粉を作ってもらう。これは多めに作ってもらってストックしておいてもらおうと思う。
早くもヒーヒー言ってるけど、筋トレと思ってやりたまへ!ふはは!
私とルーは卵液を作る作業です。
普通なら硬いパンを薄く切って一晩浸して……ってのが正統派の作り方な訳ですが、ここのパンはグルテンの塊なのでこの作り方は通用しないだろう。そしてズボラ人間が作るフレンチトーストはそんな時間が掛かるめんどくさいことしない。
食べたい時に食べたいものを簡単にそれなりに作るのがズボラ人間のズボラ料理なのだ。
今回は甘いのとしょっぱいのを作ろうと思うので卵液も二種類作るよ!
基本のフレンチトーストの卵液は卵、牛乳、砂糖を混ぜるんだけど、しょっぱいフレンチトーストは砂糖は入れずに塩と粉チーズをいれるのだ!
その二つを今回は用意しました。
「わあ、この……泡立て器、使いやすい」
「食料庫のガラクタ置き場にあったよ」
「使い方が分からなかったのですが、こういう使い方をするのですね……」
うーん、なんか色々器具あったし元はここ調理人いたんだろうな。
ルーは手に持った泡立て器を見つめて関心。
これからもっといろいろな場面で使うからね、泡立て器。
「ケイ様〜……こっち終わったぞー」
「疲れましたです……」
「小さくなったチーズたべていいー?」
私の前に粉チーズが入ったボールとパン粉になったあのグルテンの塊がボールいっぱいに入っているものがどーんと置かれた。
よほど疲れたのか手をぶんぶんと回しつつ三人組がそれぞれに言う。
ポールは削れなくなった小さいチーズの塊を口に入れた。まだ良いって言ってないのに。
某ネズミーランドのクマのなんちゃらみたいな喋り方と見た目なので許す。
卵液、パン粉、粉チーズ、そして塩漬け肉……これはベーコン変わりだから短冊切りで。
今回私が作るフレンチトーストはパン粉で作るフレンチトースト。細かくすることで浸す時間が無いのがこの料理のいい所。
ポイントとしては少し牛乳を多めにするって所だね。
作った甘い卵液の中に適当にパン粉をどばっ、粉チーズとパン粉を砂糖なしの卵液にどばっ。パッと見お好み焼きっぽいのが丁度いい。
ちなみにしょっぱい方は揚げ物した翌朝に食べることが多かった。
パン粉が余ったらよくやっていたからね。
ちょっと閃いたけどこれ、もう少しパン粉減らしてオーブンで湯煎にして焼いたらパンプディングになるから騎士達も食べれるかも。
三人組に用意してもらって訓練中の騎士達に持っていこう。
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