衣装は1から作るもの


 ーー綾香ーー


 冬夜くんとの水族館デートから日が経ち10月も半ばとなってきた。


 この時期になると月末のハロウィンに向けて周りが浮き立っていくのがわかる。


 去年まではみんなよくやるなー、とか馬鹿なことしてる人がいるな、とかぐらいの認識だった。けど今年から仮装をしたりする身になって楽しさを理解できた。


 これは色々使える、と。


 どんな格好をしようが、どんなコスプレをしようが仮装だよ?の一言で解決出来るのだ。つまり何を着てもいいと言うこと。


 どうせ家でしか着ないしどれだけ露出が多くても許されるし、出来るなら冬夜くんを興奮させたい。


 もちろん一線は超えないようにしたいけど、私としては超えても良いのでそこは冬夜くんに頑張って貰いたい。丸投げだけど許してくれるよね?


 と、ここまで考えて1つの問題が生まれる。その肝心の衣装をどうやって準備しようかだ。店で買うにしても限度があるし自分で作ろうとしたらそれはそれで難しい。


 家事は覚えたけど服を1から作れるほどの技術はないのだ。だから私は強力な援軍を頼むことにした。


「ということなのママ」

『なるほどね』

「だから冬夜くんを誘惑できる衣装を作ってください!」

『いいわよ、お母さんに任せなさい』

「ほんと!?」

『ええ、ついでにママも久しぶりに仮装してみようかしら?』

「……その話は聞かないよ?」

『ふふ、弟か妹が出来るかもね?』

「思春期の娘の前でする会話じゃないよそれ」

『そうかしら?』

「両親の情事なんて知りたくないもん」

『冬夜くんを誘惑するテクを教えるとしても?』

「う……」

『でもこれしたら一線超えちゃうかもだし教えないけどね』

「ダメじゃん!」


 一線を超えるためのテクなんて知ったらきっと私はそれを使うし仮に超えちゃったらどうするというのだ。


 というか自分の娘がそういうことをするのに抵抗とかないんだろうか、ないんだろうね。


『イメージとかあるの?』

「サキュバスやりたい!」

『一線超えないのよね……?』

「そうだよ?」

『なのにサキュバスなの?』

「そうだよ?」

『わかったわ、できるだけ頑張って見るわね』

「うん、衣装のラフみたいなの描いて後で送っとくね」

『お願い、じゃあまた』

「うん、おやすみ」

『ええ、おやすみなさい』


 通話を切ってスマホを枕の横に置く。そして机に向かい紙を広げて衣装のイメージを描き出していく。


「露出は多すぎず少なすぎずで……」


 ママは過去にコスプレ衣装を作ったりしてたからある程度伝わればいい。私には服に必要な構成とかわからないし作った経験もないからそこらへんは完成にママ任せだ。


「ん〜……難しいなぁ……」


 ここまで実行に移したとこでとんでもないことを忘れていたことを思い出す。


「……ママ今海外じゃん!!」


 思わず叫ぶ。そうだよ、ママ達が海外に行ったから今冬夜くんと同棲してるのにそれを忘れるとか私どんだけ周り見えてないの!?


 急いでスマホを取って再び通話をかける。


『もしもし?どうしたの?』

「ママが今海外ってこと完全に忘れてた」

『あら、思い出したのね』

「……うん。てかなんで言わなかったの?」

『気づくまで放置してたら面白いかな〜って』

「全然面白くないよ?」

『でも安心して。きちんと衣装は作るわ』

「どうするの?」

『冬夜くんのお爺さんの家のメイドさんに任せるわ』

「なるほど」

『けど久々に衣装を作るんだし服のイメージなんかは私が作るから、安心しなさい』

「……ありがと、ママ」

『可愛い娘の頼みだもの、断らないわけないでしょ』

「そうだね」

『それは否定しないのね』

「私が可愛くないって否定しても嫌味でしかないでしょ」

『あなたのそういうとこ好きよ、私』


 その部分はママから引き継いだんだけどね……と呟く。行き過ぎた謙遜は嫌味にしかならないのは生きてきた上で学んだけど、1番はママから学んでいるんだから似るのは当然だろう。


『まだ寝なくてもいいの?もう夜遅いんじゃない?』

「まだ11時だし、後1時間ぐらいは起きるよ」

『あんまり夜更かししないようにね』

「はーい」

『今度こそおやすみなさい』

「うん、おやすみ」


 通話を切って私は再び衣装のイメージを考える。


 サキュバスがイメージなのだからそれを真似ればいい。後は露出を上手く調整すれば出来るだろう。


 PCでサキュバスの画像を調べてそこからヒントを得てどんどんと描きこんでいく。


 通話をしてから1時間、ちょうど12時になる前にどうにかイメージを描き終わる。


「〜〜ん、終わった!!」


 身体をグッと伸ばして完成したイメージを見る。パッと見はえっちだけどよく見れば露出は程よく隠されている、そんな最高の衣装が出来上がった。


「これをママに送って……と」


 スマホのカメラで写真を取ってママに送る。


「よし、早く寝よっと」


 布団に転がり込み抱き枕を抱えて部屋の電気を消す。


 やりたいことをやり終えてから取る睡眠はいつもより少しだけ気持ちよく寝れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る