大学時代の話


 お昼ご飯を食べてから春人も含めて少し走ってから俺たちはそれぞれ帰宅した。晩御飯冬夜の家で食べてもいい?と約束だけ取り付けられたが。


 家に帰ったら汗を流したいので交代でシャワーを浴びて春人が来るまでちょっとだけ綾香とハグをしたりして時間を過ごした。


 夕方になった頃に春人がやって来て両手に色々と入った袋を持っていた。


「なんだその荷物」

「ん?食材と酒」

「酒は足りてるんだけど」

「俺が今日飲みたいからな!持ってきた!」

「はぁ……」

「飲みきれんかったら置いてくから!」

「持って帰れよ」

「いらないのか?」

「お前ほど日常的飲んでないんだよ。後同棲相手のことを考えろ」

「確かに高校生と暮らしてたら遠慮もするか、まぁ今日ぐらい許せ」


 半ば押し切られる形で春人を家に入れる。とりあえず食材と酒を冷蔵庫に入れて一応客人の春人にコーヒーを出す。


「相変わらず景色いいな」

「春人さんはここに来たことあるんですか?」

「おう、大学の時に何度かな。一人暮らししてる奴の中だと1番いい家だし宅飲みとかしてた」

「へぇー」

「お前らが酔っても常識あるタイプじゃなかったら絶対使わせなかったけどな」

「まぁ大体寝落ちするしな、俺と冬夜だけだろまともなのは」

「春人さんはお酒強いんですね」

「そんなに強くないぞ、ペース守って量知ってるだけだから」

「嘘つけ、お前一升瓶ぐらいなら飲むだろうが」

「そんな時もあるよな」


 ハハハと笑って誤魔化す。こんなやり取りすら懐かしくて何だか感傷に浸りかけてしまうのは歳だろうか。


「あー、でも弱いくせに飲みたがるやつはいたよな」

「……思い出したくないことを」

「そんな人が居たの?」

「同級生にな。いつも集まってたのは俺が会長の時の生徒会メンバーなんだ」

「ふむふむ」

「だから面子は俺と春人、大輝の男子3人。んで夏葉なつは美咲みさきって女子の2人だったんだ」

「……へぇ」


 一気に部屋の温度が下がったような錯覚をする。その主を見ると非常に冷ややかな視線で俺のことを見てきていた。


「決してやましい事はしてないからな」

「そうそう、冬夜は何も悪いことしてないよ」

「そういうなら……まぁ」

「話を戻して、夏葉がさっきの弱いくせに飲みたがる奴でな。好奇心で手を出して酔っ払っては毎回ロクでもないことをするんだ」

「あいつの酒癖はほんとにやばかったな」

「例えば?」

「脱ぐ」

「そして人に抱きつく」

「は?」


 俺たちの回答に再び部屋が絶対零度に包まれる。


「え?私は今からその人を処せばいいの?」

「落ち着け綾香」

「……ふぁい」

「おまっ、目の前でとんでもないことをするな」


 綾香を抱き寄せてキスをしてとりあえず落ち着かせる。強引だし一切色気も無いが今ばかりは許して欲しい。


 縮こまった綾香を抱きかえながら俺は話を続ける。


「まぁそんなやつで苦労したよ……」

「今は落ち着いてそうだけどな」

「大輝がいるしな。流石に落ち着いてて欲しい」

「どういうこと?」

「大輝と夏葉は結婚したんだよ。大輝の方がプロポーズして」

「その気持ちを知ってたから飲み会の度に俺らは困ってたんだけどな」

「あー……あー……なんか複雑だね」

「だろ?」


 大輝が夏葉のことを好きなのは高校生の時から伝えられてて大学卒業と同時に結婚したらしいが、飲み会の度に脱いで俺や春人に抱きつこうとするからどれだけひやひやしたことか。


 それを意地でも大輝に介抱させたり、困ったら大輝に丸投げして俺たちは一生懸命トラブルの種を回避していた。


「綾香ちゃん、皆の写真見る?」

「え!見ます見ます!」


 俺の腕の中で手と足をバタバタさせて写真をねだる。この動きなんかペンギン抱えてる見たいで可愛いな。ペンギンがこんなことするか知らないけど。


「ほら、真ん中が冬夜で左下が俺。その上が大輝だ」

「……このいかにも陽キャが夏葉さんですか?」

「そそ、茶髪でいかにも陽キャなのが夏葉。んでその下のが美咲だ」

「綺麗な銀髪ですね」

「親がロシア人でそれ譲りだな」

「すごいですねー」

「高校の時のあだ名はシヴァだけどな」

「インド神の?」

「違う違う。ゲームのキャラだよ」

「あ、氷の召喚獣ですね!」

「正解!」


 腕の中の綾香が写真を見てテンションを上げている。俺も懐かしい顔を見て色んなことを思い出す。


「美咲はそりゃびっくりするぐらい冷たくてな、冬夜ですら最初は嫌われてた。俺なんか鳩尾に拳を何度貰ったか」

「あれは距離感わかってないお前が悪い」

「ははっ。今は楽しいし、いいじゃねぇか」

「そうだな」

「どうやって仲良くなったんですか?」

「俺と大輝と夏葉で全力で弱み探してたら冬夜に見つかって本人いる前で怒られて仕方ないから、で生徒会に入って貰った」

「うわぁ……」

「流石に反省してるよ。今は許して貰って仲良くなった」

「冬夜くん大変だったんだね」

「そりゃもう」


 あの時は珍しくかなり怒った記憶がある。ストーカー紛いのことしてたし当然だろう。


 美咲は生徒会に入ってからは期待以上の実力を発揮してくれたし、今も大学の先生として頑張っているらしい。ちょうどどこかの従姉妹と同じ職業だな。美咲はきちんと家事も出来るが。


「ちなみにその人は飲み会だとどうなんです?」

「ほぼ飲まない」

「最初の1杯と初めて見る酒ぐらいだな、飲んでたのは」

「その人も弱いんですか?」

「弱くはないけど遠慮してる感じ。飲んでもしもがあったら怖いって言ってるし」

「2人きりの時はそこそこ飲んでたけどな」

「ん?」

「冬夜くん?」

「あ、春人知らなかった?」

「どういう事だよ」

「冬夜くん?なんでこのハーフの美人とサシで飲んでるのかな?ねぇ?冬夜くん?」


 いやぁ美咲はほんと美人だよな。眼鏡掛けてるとちょっとキツく見えるけど外したら可愛いし。うんいい奴だよ。


「話すまで逃がさないよ?」

「俺もその話は聞きたいな」


 現実逃避する為の思考も綾香に頬を抓られて中断させられる。ちくしょう、地雷踏んだ。


 結局美咲とのあれこれ含めて大学の時の話を散々する羽目になった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る