ビーチバレー


「よし、始めるか」

「うん!」


 暫し海で水遊びをした後俺たちは2対2でビーチバレーをすることになった。チーム分けは綾香と花梨さん。俺とメイドさんの1人である。名前は梨菜りなさんだ。


「手加減しなくていいからな、綾香」

「冬夜くんこそ」

「あの……冬夜様、私で大丈夫なんですか?」

「大丈夫だよ、ボールはどうせ俺にしか飛んでこないからね」

「その言葉信じますからね」


 ちなみにルールだが適当である。ビーチバレーのルールはよく知らないしほとんどバレーと同じルールでやることにした。


「じゃいくよー」


 若干気の抜けた声で綾香が構える。そして助走を付けて見事なフォームのジャンプサーブを放つ。


「よっ、と。梨菜さん、お願いします!」

「はい!」


 強烈なサーブを軽くいなしトスを梨菜さんに任せる。


「冬夜様っ!」

「ふっ!」


 流石元バレー部、と感心しながら俺はアタックを打つ。ドパァン!と音を立てて砂浜にボールが落ちる。


「……えっ?」

「花梨さんが取るやつですよ?あれ」

「綾香ちゃんはあれを私に取れと?腕折れるわよ?というか綾香ちゃんもえっぐいサーブ打ってなかった!?」

「冬夜くんのがエグいの打って来ますよ。流石に手加減はすると思うけど」

「あれで手加減してないの!?」


 花梨様のお気持ちわかります……!と梨菜さんが涙を流している。俺たち悪いことしてないよな?


「んじゃ今度はこっちの番だな」

「冬夜お兄ちゃん頑張れー」

「おう」


 パラソルの下で体操座りをしてどこからか取り出した旗を振っている翡翠の応援を貰い、俺はサーブを打つ。


 相手が遠慮のいらないやつなら全力で打っていただろうが綾香と花梨さんなので流石加減をして打つ。それでも十分な脅威はあるが。


「よいしょっ!」

「いくわよ!綾香ちゃん!」

「はい!」


 綾香にあっさりとサーブを受け止められて反撃のアタックを貰う。これまた綺麗なフォームで思わず見とれてしまいそうになる。というかさっきから綾香が動く度に揺れる胸に目がいって仕方ない。


「やあっ!」


 綾香のアタックを梨菜さんが受ける。高く打ち上がったボールの落下点に入りトスの構えを取る。


「行きますよ!」

「はい!」


 俺の上げたトスに完璧合わせてアタックを打つ。それは見事に2人の間を貫いて得点となる。


「やりました!」

「ナイスです!」


 ハイタッチを交わして得点を喜ぶ。


「ぐむむむむむ……」

「あ、綾香ちゃん……?」

「冬夜くんが女の人といちゃいちゃしてる……!」

「あれは仕方ないんじゃないかな?」

「……絶対潰す」

「怖いよ!?言ってることが怖いよ!?」






 終盤、この点を取ったら俺たちの勝ちとなるゲームのサーブ。


「綾香、本気で行くぞ」

「来なよ、正面から受けてあげる」


 戦場かと言うぐらいの緊張感の包まれたコートに砂を踏む音が鳴る。俺は助走を付けて飛び上がり全力のサーブを打つ。


「はあっ!」


 綾香はその軌道の先にいてその腕に吸い込まれるようにボールは飛ぶ。


「……花梨さん!」

「うん!」


 試合中にかなり上達した花梨さんのトスがあがり綾香のアタックが飛んでくる。


「やあっ!」


 俺はそれをなんなく受け止め梨菜さんにトスを上げてもらう。


「これで……決める!」


 コートの端ギリギリを狙ってアタックを打つ。


「っ!届け……!」


 綾香の伸ばした手は虚しく届くことなくボールが砂浜に落ちる。


「っし!」


 ギリギリの勝負を制したのは俺たちのチームだ。最後若干卑怯な気もしたけど気にしない。


「冬夜様!やりましたね!」


 ハイタッチを何度か交わし勝利を喜ぶ。そうしていると横から衝撃が来て俺は砂浜に倒れる。


「ふぐっ!?」

「冬夜くんのばかばかばか!」

「なんで!?」


 意味もわからないまま俺は胸をぽかぽかと叩かれる。


「むぅー!冬夜くんは私だけ見てればいいのー!」


 そういうと視界が柔らかい何かで塞がれる。ここ数日で何度も味わったそれは直ぐになにかわかって俺は全身から力を抜く。


「私で上書きするから」


 俺が酸欠になるギリギリまでぎゅーっとされてようやく離される。


「……なんで急にこんなこと」

「私以外の人といちゃいちゃしてたから」

「俺の彼女が可愛すぎる」

「もう!そんなことで誤魔化さないの!」

「じゃあこれで許してくれ」


 ちゅっ、と綾香に口付けをする。そうすると急に借りてきた猫のように大人しくなる。


「……1回じゃだめ」

「じゃあもっとするよ」


 何度も口付けを交わす。綾香が満足するまで何度も。


「貴方たち私たちがいること忘れてない?」

「忘れてないですよ?」

「忘れてないよ?」

「忘れてないのにそんなことしてるの!?」

「だって見せつけてるんだもん」

「……冬夜様すみません」

「あー、梨菜さんは悪くないよ」

「いえ、今のお2人が尊くて……こう……何かに記したい気分です」

「急に知らない側面出てきた」


 この人こんなオタクみたいなの人だっけ?と疑問に思っていると今度は俺の唇が塞がれる。


「……冬夜くん、今は私だけを見て」

「わかったよ」


 それから綾香を抱き寄せる。花梨さんにはこの2人は……という感じに呆れられたし、梨菜さんはどこからか取り出したメモ帳に何かを記している。あれの中身後で確認しなきゃなと思いつつ綾香を見る。


「この後は何する?」

「翡翠ちゃんも入れてみんなで遊びたいかな」

「わかった。じゃあそうしようか」

「うん!」


 それから翡翠を含めた5人でボール遊びやらをして時間を過ごした。

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