夕べはお楽しみでしたね
眼を覚ますとカーテンの隙間から入ってくる光が見える。時計をみると午前7時を示していた。今日は海に行く予定を立てているけど大丈夫だろうか?と綾香の方を見る。
「とうやくん……」
うへへ……という感じに頬を緩めて寝顔を晒している綾香をみてその不安は吹き飛んだ。心配するだけ無駄だったようだ。
できれば翡翠も海に連れていきたいがどうだろうかと色々考える。が起きて聞いてみればいいやと投げ捨ててベットに再び倒れこむ。
寝ている間に抱き合っていた腕は外れていたので綾香をもう一度抱き寄せて抱きしめる。すると緩んでいた綾香の頬が緩みきっていく。
「人の気も知らないでほんと……」
こっちは精一杯襲わないように努力しているのに簡単にその線を越えさせようとしてくるのは本当によくない。なんども注意しているが直る気配はない。
「……もうちょっとだけ寝るか」
綾香を抱きしめていたら多幸感からか少しずつ眠くなってくる。8時には起きるように目覚ましをかけているし大丈夫だろう。
「おやすみ」
寝ている綾香の頬にキスをして俺は再び眠りにつく。
ピピピと目覚ましがなり手を伸ばして止めようとする、しかしその手を誰かに捕まれてしまう。目覚ましはその手の主が止めたようでその音は鳴りやんだ。その直後唇に湿った感触が触れる。
「んっ……まだ起きちゃだめだよ……」
聞きなれた声がまるで降ってくるように俺の耳に届く。その声が優しく頭に染み渡り俺の意識は甘く淀んでいく。
こうしている間にも身体中に湿った感触がなんども触れる。どうやら綾香は俺の身体にキスをしまくっているらしい。流石にそれは不味いので起きて止めることにする。
「綾香」
「なに?……んっ」
「キスをやめて欲しいんだけど」
「嫌なの?」
「そうじゃなくて痕が残ったら困る」
「今日海に行くから?」
「そう……後昨日の説明が大変なことになる」
どっちみち首やら肩やらの簡単に見えるところにたくさんついているだろうから今更だろうけどな。
「じゃあ1回だけキスして?」
「1回だけだぞ」
「うん」
綾香との距離を一気に詰めて口を塞ぐ。一切の抵抗なく受け入れられしばしキスを堪能する。
「……冬夜くんのキスすごい気持ちいい」
「そうか?」
「うん、自分からするよりずっと気持ちいいもん」
「そんな顔をするな……」
蕩け切った表情を見せられてつい顔を逸らしてしまう。
「そろそろ朝ごはんに行こうか、みんな待ってるだろうし」
「俺たちの弁解をな」
「なんでもいいじゃん」
お互い着替えを済ませる。一応キスの痕がどこに残っているかの確認なんかもしておいた。綾香は髪を下ろしていれば見えないだろうが俺は見えてしまうのでそれは仕方ないと割り切ることにした。
「んじゃいくか」
「うん」
部屋のドアを開けて一歩を踏み出そうとした時なにかが足に当たる。
「なん……翡翠?」
「おはよう」
「お、おはよ」
「夕べはお楽しみだったね」
「ぶっ」
「冗談だよ」
「……心臓に悪いから」
「ドッキリ大成功」
いぇーいと両手を上げる翡翠を捕まえて抱きかかえる。話は移動しながらでいいだろう。
「それで、なんの用だ?」
「弁明のお手伝いするため」
「まじ?」
「うん」
「なんでそんなこと」
「今日海に行くんでしょ?」
「そうだな」
「連れていって欲しい」
「もちろん、元々そのつもりだったし」
「やった」
俺の腕のなかで小さくガッツポーズをする。なんか前より感情表現が多くなった様な気がする。
「手伝いはほんと助かる」
「ふふん、証明ならまかせて」
「頼んだぞ」
こうして頼もしい助っ人を確保して俺たちはダイニングに向かう。ドアを開けると俺たち以外全員揃っていてその視線が全てこちらに向いていた。
「お、来たか」
「冬夜くん、説明してもらうわよ?」
「お義母さん、圧がすごいです」
「そりゃあねぇ……ねぇ?」
「説明するんで落ち着いてください」
どうにか宥めて席に座る。翡翠は当然と言わんばかりに俺の膝の上だ。
「それで、昨日なにをしてたのかしら」
「えっとですね」
それから昨日あったことを包み隠さず説明する。綾香にも許可を取って落ち込んでいたことも話した。
「ふーん……」
「翡翠本当か?」
「ん、だいたいあってる」
「大体?」
爺さんが翡翠に確認を取る。
「いちゃいちゃ度が足りない。もっと砂糖を吐くぐらいしてた」
「あー……私もう聞かないことにするわ」
花梨さんがそう言って部屋から出ていく。同時にお義父さんも出ていった。それでいいのかお義父さん。
「具体的にはね」
それから翡翠が俺と綾香が昨日していたことを詳しく説明していく。それを聞かされている俺たちはどんどんいたたまれない気持ちになっていった。綾香なんかは耳まで真っ赤に染めて机に突っ伏している。
「もう……やめて……」
「どうしたのお姉ちゃん?」
「……お姉ちゃんは死にました」
「……?」
「綾香、後で慰めてあげるから今は頑張ろうか」
「うー……」
残っているお義母さんや爺さんには白い目を向けられている。そりゃそんな目するよ。俺だってするもん。
「冬夜……お前というやつは……」
「冬夜くん……」
「いやあの、ですね……」
「「ほんとヘタレだね(ヘタレね)」」
「うぐっ」
「高校卒業までしないって決めててもそのシチュはするでしょ」
「お前責任とれるんだからすればいいだろうに」
「うっ」
そうしてそれから海の時間に影響が出ない程度に俺のヘタレっぷりに釘を刺され続けた。キスの痕のことはそれでどうでもよくなったのは幸いだろう。
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