突然の再会


 献立を決めて料理を始めようとするとダイニングの方から話し声が聞こえてくる。その声はこの2日間で聞き覚えのないものでつい気になって覗いてしまう。


「あら、冬夜くんいたの?」

「久しぶりだな、冬夜くん」


 ダイニングで話していたのは綾香の両親だった。


「来るのはもう少し後のはずでは」

「想定より早く仕事が終わったからな、ついさっきここに着いたんだ」

「そうですか」

「あんまり反応がよくないな?」

「俺の予定が悉く崩れてちょっと迷ってます」

「迷う?」

「ええ、突然自分の娘を俺の家に置いたこととか、あまつさえ貰っていいとか言ったこととか」

「私のことはお義父さんと呼んでくれ」

「そういうとこです、貴方じゃなければ正座させて説教するとこですよ」

「ふむ、綾香はいらなかったのかな?」

「そういうわけではないです。せめて予告ぐらいして欲しかったんです」

「冬夜くんのお母さんに伝えたはずだが?」

「ええ、おかげで綾香が来るまで知りませんでしたよ」

「ほら、やっぱり私が言った通りじゃない」

「お義母さんは忠告してくれてたんですね」

「性格がわかってるからね」


 ならお義母さんが直接伝えてくれたらよかったのでは、ということを言いたくなるけどグッとこらえる。


「ところで2人とも晩御飯は?」

「まだだな」

「じゃあまとめて作りますね」

「冬夜くんが作るの?」

「ええ。もしかして綾香のご飯が最初の方がよかったですか?」

「冬夜くんも成長したのね……」

「お義母さんはいつの俺を見ているんで?」


 会う機会もちょっとした集まりぐらいでしかなかったし仕方ないけど一人暮らしの男性がみな家事をしてないわけではないと声を大にして言いたい気分だ。


「それじゃ横のキッチンにいるのでなにかあれば言って下さい」

「わかった、ちなみに綾香は今なにを?」

「今は……ここで預かってる子供と遊んでます」

「わかった、ありがとう」


 それだけ言ってキッチンに戻って俺は料理を始めた。






 料理もほぼ完成したところで使用人の人に声をかける。


「ご飯ができるので皆を呼んでおいてください」

「承知しました」


 その間に料理を盛り付けて配膳していく。綾香の両親はずっとダイニングにいたようで配膳を手伝ってくれた。お義父さんは途中でつまみ食いしてたけど……


「あれ!なんでお母さんたちいるの!?」


 ダイニングにやってきた綾香が両親がいることに驚き俺と同じような説明を受ける。ちなみに花梨さんは大人同士の挨拶のテンプレをしていた。確か初対面らしいしそうなるのが当然だろう。


 こうして人が揃って晩御飯が始まった。翡翠はどうやら寝たままなので使用人さんが面倒を見てくれているらしい。


「冬夜くん料理上手なのね……」

「お義母さんほどではないと思いますよ?」

「そうかしら?私より美味しい気もするけど」

「私よりは上手だよね、冬夜くんは」

「まだ綾香には負けないな」

「綾香家事はちゃんとやってるの?冬夜くんに任せてない?」


 今日の晩御飯は綾香の両親が綾香の生活について色々と聞いて終わった。最後の方は一緒に住んでいた花梨さんも会話に交じっていたけど家事ができない花梨さんは結構申し訳なさそうにしていた。






 食事後俺は爺さんに呼び出されていた。綾香は両親と話しているから俺1人だ。


「さて、理由はわかってるな」

「なんとなく」

「うむ、明日の朝葉山と勝負をして貰う、条件等は事前に決めた通りだ」

「それで勝てばビーチを貸してくれるんでしょ?」

「ああ、ついでに色々とサービスしてやろう」

「ありがと」

「人が本格的に来るのは明々後日からだろうから明日勝負、勝てたら明後日ビーチがいいだろうな」

「俺が勝つ前提で話してないか?」

「翡翠との勝負をみている限り葉山が勝てそうな未来が見えん」

「そんなことはないだろ」

「葉山は翡翠と勝負をしてもお前みたいにはいかんよ、綾香ちゃんほど勘でどうにかなるわけでもないしな」

「綾香は例外だと思うが」


 綾香はよくわからないとこで才能を発揮してくるので油断がならないだけだと思う。俺とずっと勝負していたのもあるだろうけど。


「まぁそういうわけだ、それと今日は翡翠を頼む」

「当然」

「助かる」

「要件はこれだけだがなにかあるか?」

「……翡翠の両親について聞きたいことがある」

「なんだ」

「おそらく翡翠に何か残してるよな、それを知りたい」

「勘がよすぎるのも直した方がいいぞ、冬夜」

「爺さんの教えだろうになに言う」

「そうだったな」

「それで、何が残ってるんだ」


 翡翠の両親はする最後まで翡翠のことを思っていたと聞いた。それなら自殺なんてしなきゃよかったのにと部外者の俺は思うがそれぐらい心が傷ついてしまっていたのだろう。


 そんな両親が翡翠に何か残していないはずがない。今の翡翠になら見せれると思うし見せてやりたいのだ。


「手紙が1つ、それと伝言が1つだ」

「伝言?」

「ああ、翡翠が私達が自殺するのを知っていたのか、手紙も知っているのかを聞いて欲しいらしい」

「それはまた……」

「お前の好きなタイミングでいい、手紙は儂が持っておく必要な時に言え」

「わかった」


 このやり取りすら翡翠のにはバレているかもしれない。だからなるべく早く行動したいが俺はどうにもそうする気にはなれなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る