待ちに待った夏休み
ーー綾香ーー
終業式が終わりこれから始まる夏休みにみんな期待を膨らませている。HRで伝えられる大半のことは右耳から左耳へと抜けていきほとんど残らない───なんてことはなく私は絶賛夏休みの予定立てに苦戦していた。
いやまぁHRは聞いていない。メモ帳のカレンダーとにらめっこして予定を考えているから。まず冬夜くんの仕事が休みの日、これがお盆と土日ぐらいでなんならお盆に有給を足してその間におじいさんの家に行くらしいのだ。そしてそのお盆には私の両親も一時的に帰国するらしい。ということもあっておじいさんの家に親戚で集まるのだとか。これは昨日の晩に聞かされて冬夜くんも驚いてた。
親戚が集まるということは従兄弟とかも来るということで、私にとっては強敵となり得る人物がいる。冬夜くんの一つ年上のお姉さんだ。なんでこうもラブコメ主人公なの!?って冬夜くんに問い詰めたくなるぐらいだけどこればかりは仕方ないと割り切る。
話を戻して予定立てに苦戦しているのはみんなと遊ぶ日だったり冬夜くんと買い物に行く日だったりだ。お盆まで2週間と少し、買い物はその前としてみんなと遊ぶのをいつにするかを決めあぐねている。
買い物は冬夜くんが休みの土日しかないし、いい感じにすればいいんだけど……遊ぶ予定は黒ちゃんが色んなとこに行きたい!って案を出すだけ出してくるので正直なにも決まっていない。まずなにをするか決めるとこからなのだ。さらに私達学生には課題がある。これもやらなきゃいけないのだ。課題の量もそこそこ多くて大変だからそれも考えて……ってなって「うああ!!!」と叫びたい気分である。
「うー……」
HR中なので唸る程度にとどめて考えるがもうめんどくさくなってきた。
予定は後回しにしよう!と決めて私は聞いているふりをしながら終わるまで寝ることにした。
HRが終わり私は桜と教室を出る。こういう日はみんなで帰っていつもの喫茶店で色々と話したりするんだけど今日は白ちゃんと黒ちゃんの2人が用事があるらしくてなしになった。あと多分桜も用事があると思う。
一日どこか浮かれてたし、多分彼氏君とどこか行くのだろう。本人はそれがバレバレなことに気づいてないっぽいけど。……私も人のこと言えないけどね。
ちなみに詩乃ちゃんは今日休んでたので寄り道もなにもない。一応聞いてみたら旅行に行くらしくて一日ぐらいサボってもいいだろうという親の判断らしい。確かに今日は授業もないし休んでも問題はないだろうしね。
「桜」
「なに?」
「夏休みの予定いつ決める?」
「あー、今日の夜みんな大丈夫かな?」
「多分」
「確認取れたら通話でもして決めよっか」
「おっけー」
夏休みはみんなで集まって宿題をしたり、遊びに行ったりしたいのでその予定を決めたい。今年は去年と違って冬夜くんっていう足があるからね。
「じゃあ桜は彼氏君と楽しんできてねー」
「え゛っ」
「今日一日わかりやすかったよ」
「うそだぁ……」
「じゃねー」
下駄箱で桜のことを煽るだけ煽って私は学校を出る。すぐにイヤホンを付けて周囲の音を遮断するけどその一瞬の間に色んな声が聞こえた。
「あ!あれ淡水さんじゃない?」
「ほんとだー、相変わらず美人だね」
「ねー、しかも彼氏いるんでしょ?」
「そうそう、年上の彼氏っぽいよ」
「たくさん貢がせてそうw」
と、散々だけど別に慣れているので聞こえてない振りをして足早に学校を出る。ちょっと前の告白騒動の直後はこういうこともそんなになかったけど、文化祭の後からこういうことがまた起きはじめていた。私が気にしなければいいことだしなんともないけどね。
視界の端に映っていた彼女たちが消えそうになった時彼女らの視線が私ではない方に向く。つられてそちらを見ると下駄箱から駆け足で来ている人がいた。
「……弟くん?」
「文化祭振り……だよね?」
「そうだね」
「一緒に帰ってもいい?」
「こっちに用事でもあるの?」
「うん、兄さんに届けもの預かってて」
「大変だねー」
「これぐらいどうってことないよ」
弟くんと話しているとさっきの娘たちがまなにかを囁き始める。すると弟くんがそちらを見て何かをする。私には隠れて見えなかったからわからないけど、それをした瞬間に興味をなくしたかのように彼女たちは去っていった。
「なにしたの?」
「クラスメイトだからちょっとそれっぽいことすれば言うことを聞いてくれるよ」
「うわぁ……」
「兄さんも同じようなことしてたと思うよ?」
「……うわぁ」
「なんでどんどん距離とるの」
「このブラコン怖い」
「言い方どうにかしてくれない?」
「狂信者怖い」
「悪化してない!?」
いやだって冬夜くんから似たようなことしたって聞いてたけど多分こうじゃないよね?冬夜くんも確かにかっこいいけど弟くんはアイドル的なかっこよさを秘めている。だから今みたいなことができるんだろうけど……
「普通実行するかな……」
「綾香さんには言われたくないけどね?」
「なにが?」
「だって、男子生徒従え───」
「なにが?」
「……ナンデモナイデス」
「よろしい」
「……やっぱこの人怖い」
「なにかいった?」
「なにも」
「そ、ならいっか。早く帰るよ」
「はーい」
「あ、帰りにアイス奢ってね」
「え?」
「君のクラスメイトに迷惑かけられた代」
「理不尽すぎません?」
「お金ぐらい巻き上げればいいじゃん」
「そんなことしませんよ!?」
「……しないんだ」
「逆にしてたんですか?」
「勝手に貢がれたことなら」
「え、なにそれ。こわ」
2人でゆっくりと歩きながら話す。冬夜くんとはなかなかできない会話ができて1人で帰る予定だった帰り道は楽しいものになった。
ちなみにアイスはしっかり奢らせました。
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