最初の1日


 綾香に告白をした後、後夜祭を楽しんだ俺たちはその後特に何をすることもなく家に帰った。いままで散々恋人のようなことをしていたけど、いざ付き合うと色々と意識してしまい昨晩はお互いなにもできずに寝てしまった。特に綾香は疲れがたまっていたと思うのそれでよかったとは思う。


 そして付き合い始めたが俺たちの立場はまだ社会人と学生でその翌日からいきなり家でそれらしいイチャイチャができるわけもなく俺は普通の平日の朝を過ごしていた。


 綾香はまだ寝ていて、家事などは今日はすべて引き受けることにした。一人暮らしの時にやっていたことなのでそこまで苦労もしないから今日一日は休ませてあげたかったからだ。


 一応家を出る前に声をかけておこうかなと思いリビングを出ようとするとちょうど起きてきた綾香と鉢合わせる。


「わっ」

「うぉっと」


 ぶつかって倒れそうになった綾香を支える。その姿勢がまたいろいろ意識してしまいそうになるがどうにかその気持ちを抑える。


「大丈夫か?」

「う、うん。ありがと……」

「俺はもう仕事に行くから留守番頼むな」

「うん」

「んじゃいって──」

「あ、ちょっとまって!」

「なんだ?」

「んっ……」


 振り向いたと同時に綾香の顔が目の前に来て唇をふさがれる。キス自体は一瞬だったが突然のことに放心してしまう。


「いってらっしゃいのキスだよ、今日もお仕事頑張ってね」

「……おう」


 口元に指をあてて送り出してくれる姿があまりにも魅力的でもう一度キスをしたくなるが昨日のこともあり我慢して俺は家を出た。



ーー綾香ーー



 冬夜くんを見送った後2、3分程その場に放心していた私はようやく頭が回ってきて自分の現状を理解していく。


 パジャマ姿で歩くものな……と思って大きめのシャツだけ被って、ズボンは履いていない。頭も半分ぐらい回ってなかったのもあって思いつきでキスまでしてまった。


 そりゃ冬夜くんも顔を真っ赤にして仕事にいくよね……と理解した時には取り返しがつかなくて、完全に目が覚めた私はベットに転んでジタバタしていた。


「わたしのばかわたしのばかわたしのばかわたしのばかわたしのばか」


 呪詛を唱える勢いで自己嫌悪に陥って今度は枕を殴る。


 そもそも昨日の告白された時点からちょっとおかしかったのだ。なにが反撃だ、なにが私の番だ。あそこであんなこと言わなきゃ冬夜くんからいつでもキス貰えるようになってたかもなのに!


 絶対嬉しすぎて変なテンションになってた、調子に乗らずに冬夜くんに全部ゆだねればよかった~~!!


 と心の中で叫んでみるもなにも変わらない。


「……なにやってるんだろ、ほんと」


 ひとしきり暴れて落ち着いたお腹がそろそろご飯が欲しいぞー、とアピールしてくるのでキッチンに移動し適当にパンを取って口にくわえる。


 もう冬夜くんは仕事にいったので服装はさっきまでのままで家をうろついている。普段冬夜くんといる空間にこの格好でいるのがちょっと背徳感的なのがあるがもはや今の私を止めるすべはないのでその格好で過ごすことにする。


 多分冬夜くんが帰ってくる頃にはもとに戻っていると思うけど。


 そんな期待を自分に抱いて私は1日をダラダラと過ごすのだった。



ーー冬夜ーー



 家の前まで帰って来て少しだけ緊張してくる。付き合い始めたと言うのもあるけど1番は綾香がなにをしてくるかだ。朝はすごい緩い格好でキスとかしてきて大変だった。


 あの場で抱き締めたりキスしたりしたいぐらいには理性が脅かされたので帰るのが少しだけ怖かったりする。


「ただいまー」

「おかえり、冬夜くん」

「おう」


 とりあえずなにも無いことに一安心しつつ綾香と話す。


「今日はゆっくりできたか?」

「うん、明日も休みだし一日ダラダラしてたよ」

「そっか、晩御飯はどうする?」

「もう仕込みしてるし私が作るよ」

「ありがと、んじゃ風呂入ってくるわ」

「はーい」


 ……なんか夫婦感がました気がする。そんなことを考えながら俺は風呂場に向かった。






 風呂から上がり、晩御飯も食べ、綾香と2人で家事を終わらせてソファでゆっくり過ごす。


 いつもの時間だけど今日からは意識の仕方も変わってきてやっぱり緊張してしまう。


「ねぇ、付き合ったらなにすればいいのかな?」

「んー……キスとかデートとか?」

「両方してるよね……?」

「じゃあ家に行った……いや、そもそも同棲してるな……」

「私達って付き合うより結婚の方が言葉合ってない?」

「……そんな感じしてきた」

「じゃあ……あなた。とか言った方がいい?」

「やめて、なんかすごい背徳感が……!」

「高校生の奥さんができるなんて凄いね」


 そう言いながら頬にキスをしてくる。綾香からのスキンシップは増える一方な気がしてきてちょっと怖い。


「ねぇ、キスしよ?」

「俺からは出来ないんだから好きすればいいよ」

「やった!それじゃあ……いただきまーす」


 部屋に生々しいキスの音が響く。舌を入れたりはしないけど何度も唇を触れ合わせてお互いを確かめるようにキスをしてくる。


 それだけキスをしてるとちょっと酸欠になって息も荒くなってくる。


「はぁ……はぁ……もっと、シよ?」

「ちょっ、綾香!?」


 ソファに押し倒されてこれはやばいと思ったら綾香がそのまま俺の胸の当たりにぽすん、と倒れる。


「あ、あやか?」

「……ぅん……」

「寝たのか……?」


 徐々に規則的なリズムで呼吸をし始めたのを確認して俺は綾香をソファに転がせて離れる。


 そのままキッチンに行って水をコップにいれて一気に飲み干す。


「流石にまずかった……」


 付き合って1日で完全に今までの関係性を超えてきていた。


 理性をもっとしっかり保たないと卒業まで持たないと自覚し、その後1度自分を落ち着かせ綾香を部屋に連れて行って俺も部屋に行きベットに転ぶ。


「……今日も寝れなさそうだな」


 最後の綾香の顔が忘れられず俺はずっと悶々とし続けた。

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