文化祭1日目①


 いつもの土曜日よりは少し早めに起きて朝ごはんを食べる。


 綾香はもう学校に行っていて今頃最終確認にいそしんでいることだろう。俺は引き受けて置いた家事を済ましていき出来ることを終わらせておく。


 洗濯だったり掃除だったりを済ませて、少し余裕があるので一息つく。


「あと……30分か」


 文化祭が始まるのが10時からで俺はその時間に家を出ることにする。車を使いたいが駐車場も限られているし、歩いて行くことにした。


「朝は情報番組しかやってないなぁ」


 適当にチャンネルを変えて垂れ流しながらスマホをいじる。するとちょうど綾香からメッセージが来る。続けて写真が。


『待ってるね、旦那様?』


 そんな言葉と共にメイド服姿の自撮りが送られてくる。ただ普通に撮ったわけではなく上からまるで胸元を覗き込むようにして撮ったようで誘っているような写真になっていた。


 無意識で保存しつつメッセージを返す。


『誰にも見られてないんだろうな』


 すると直ぐに既読がついて返信を貰う。


『もちろんだよ〜』

『ならいいけど』

『旦那様はメイドさんを独り占めしたいのかな?』

『そういうわけじゃない』

『言ってくれたら専属メイドしてあげるよ?』

『また寝落ちしたりしないだろうな』

『ナンノコトカナー』


 メッセージで少しだけやりとりし、綾香に頑張れと送って会話を終える。


 それからだらだらしてると程よい時間になったので家を出てゆっくりと歩いて行く。


 7月とはいえ充分に外は暑く夏を感じさせられる。こんななか文化祭をやって大丈夫なのかという心配が湧いてくるが校内の廊下等はほぼ室内でエアコンを効かせているから大丈夫なのだろう。


 学校に近づくと徐々に文化祭の陽気が伝わってくる。人の数も多くなってきてどこか懐かしさを覚える。昔色々やったなぁなんて感想程度だが。


 校門にある受付で招待状を見せて校内に入りとりあえずはぶらぶらと歩く。途中でパンフレットを貰いその興味が向いたほうに行くことにする。


 すると昔いた先生がいて声をかけられた。


「七草じゃないか」

「久しぶりですね、先生」

「そうだな。どうだ?社会人やってるか?」

「なんですかその単語」

「はっは、なんでもいいだろう」


 体育会系なのもあってよくわからん造語をいうし、基本ふざけてるけど根はいい人で多くの生徒から信頼されていた先生だ。


「まぁ楽しんでくれよ」

「そうしますよ」

「そうだ、余裕があるなら生徒会を覗いてやってくれ」

「……余裕があったら、ですよ」

「それで構わんよ」


 絶対面倒事だなと確信を得てなるべく生徒会室に近づかない方針で回ることにした。






 たこ焼きやらわたあめ、フランクフルトなどを1人で買い漁ってベンチに座って食べる。流石にわたあめを買った時は変な目で見られたけど気にしないことにしよう。綾香が来てからこういう甘いものを食べたくなることが多いんだよな。


「1口欲しいな〜」

「……自分で買ってください、先輩」

「いいじゃないか1つぐらい」

「嫌ですよ、高いのにわざわざ買ったんですから」

「私だって高いのは買いたくないんだ」

「金はあるくせに……」

「にしても七草がいるなんて珍しいな」

「去年はともかく今年は招待状貰いましたからね」

「あれば来たのか?」

「母校ですし」

「渡せばよかったな」

「先輩からのなら断ると思いますけどね。というかなんでこんな所に来るんですか」

「なに懐かしい背中を見かけたからな」

「ストーカーですか、先輩は」


 突然たこ焼きを欲しがってきた白石先輩は結局1つ取って自分の口に放り込む。後でなんか奢らせてやろうと決めつつ俺はフランクフルトを食べる。


「てか1人なんですか?」

「いや生徒会メンバーと来てるぞ」

「……俺帰ろっかな」

「はは、何をいうほら、そこに見えるだろ」

「嫌です。見たくありません。俺は逃げます」

「……逃がすとでも?」

「この人本気じゃん」

「なに、副会長と会計だけだ。他は予定があったそうだしな」

「その2人が1番嫌です」

「え〜……悲しいなぁ……」

「あーあ、舞ちゃんを泣かせたんだー」


 ほら来た……この2人ずっとからかってくるから苦手なんだ。しかも余裕があるからなにしても基本動じてくれないし。


 ちなみに舞と言われた方が副会長で神崎かんざき まい。そして言った方が会計で橋本はしもと 春香はるかだ。歳は白石先輩と一緒で2つ上。完全に年上のお姉さんである。


「さて、七草。一緒に回ろうか?」

「嫌です」

「わたしもとうやくんとまわりたいなぁ〜」

「私も七草くんと久しぶりに話したいですね」


 舞先輩は結構ゆったりとしているけど自分のやりたいことは絶対やる人で、現に今も俺を後ろから拘束して離してくれない。春香先輩は丁寧な人でしっかりしている。たまに天然でやらかす舞先輩のストッパーだ。


「さ、いくよとうやくん」

「いい加減俺を呼ぶ時に気力を使って下さい」

「この方が可愛くていいじゃない?」

「俺に可愛さは要りません」

「ほーら、いくよ〜」

「七草くん、行きますよ」


 俺がなにもしないのを知ってるからこそこの人達はいつも強引に俺になにかさせてくる。反撃しても効かないどころか利用してくるので上手をとられていた。だから苦手なのだ。嫌いってわけじゃないけどな。


 仕事は出来るし、大抵のことはそつなくこなす先輩達を俺は尊敬している。……ようは自分が尊敬している人にこうやって絡まれるのが苦手なのだ。せめて普通に関わってくれ。じゃないとほんと理性がどっか行く。


「愛莉の妹さんの模擬店はどこなの?」

「今はシフトじゃないから後でいいだろう。それよりも行きたいところがあるんだ」

「愛莉さんが行きたいとこなんて珍しいですね」

「だろう?さて七草、わかるな?」

「うちの弟のとこですね……」

「流石だ、後で奢ってやろう」

「奢らせるつもりだったんで助かります」

「七草くんの弟?」

「そう、そして私の妹の彼氏候補だ」

「「えっ?」」

「さぁいくぞー!」

「「1回説明しようか?」」


 珍しく先輩2人の声が重なった。


 俺文化祭まともに回れるかな……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る