第107話 ラン姉ちゃん達と鍛冶屋の見学

 職場を視察するために、ぺち子姉ちゃんと共にベイダー工房までやって来た。


 もしココが気に入ってすぐ面接したいってなっても、ベイダーさんが忙しければ、また日を改めて出直して来なきゃならないんだけどね。



 ベイダー工房の入り口に赤い髪の女が立っているのが見えた。



「ランにゃーーーーーん!!」


 ぺち子姉ちゃんの天真爛漫な声を聞き、赤い髪の女が振り向いた。


「良かったー!もう中に入ってるのかと思ったわよ」


 そして無職三人衆は無事合流。

 絶賛5歳児のクーヤちゃんは面接なんてしませんけどね!


「ところでその子・・・、あっ、そういえばまだ名前を聞いてなかったわね。私は『ラン』よ!」

「クーヤ師匠だよ!」

「今、サラッとあたしに師匠って呼ばせようとしたわね!?」

「ししょーであってるにゃ!」

「いや、あたしの師匠ではないから!!そもそも何の師匠なのよ!?」


 ぺち子姉ちゃんが考えている。


「にゃんのししょーにゃ?」

「はて?」

「ちょ、適当に言ってただけじゃないの!本当にペチコって意味不明ね・・・」


 たしか、召喚獣を呼び出した時に『師匠って呼ぶにゃ!』とか言われたんだよな。一応力関係的な何かなのだろう。


「勝手にうろうろしてたら叱られるかもしれないから、ベイダーさんに視察の許可をもらおうか」

「そうね、交渉はクーヤに任せるわ」

「鍛冶風景を見るのって意味あるにゃか?」


 あ!そういや馬車を売る方の仕事だから、ほとんど意味が無いような・・・。


「良い職場かどうかがわかればいいのよ。上司になる人が最悪だったりしたら残念ながらお断りさせてもらうわ。それと汚い場所で働くのも嫌ね」


 そうか!人間関係とか超重要だもんな。


「今はそんなに良い環境じゃないけど、ベイダーさんが近々改築するって言ってたから、すごく綺麗な職場になるハズだよ!本気で馬車の事業を成功させるつもりなんで、そこは本当に期待していいから!」

「へーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

「ししょーが関わった時点で、成功は約束されたようにゃもんにゃ!」

「師匠ってこの子のことよね?何でそれが商売の成功に繋がるわけ?」

「ししょーは意味不明にゃんにゃ。3日ついて行けばわかるにゃ」

「答えになってないんだけど・・・」


 そういや、あれから余裕で3日以上過ぎてるな。

 といっても、家に迷惑かけてるわけじゃないから別にいいんだけどさ。


 ずっと立ち話していてもしゃーないんで、工房の中に入った。



「おーーーい!!ベイダーさ~~~ん!視察に来ましたぞーーーーーーー!!」



 いつものように大声で呼ぶと、少ししてから髭もじゃのマッチョが登場した。



「今日は『客だぞーーーーーーーー!』じゃないのか!」

「ベイダーさんおはよーーーーー!」

「ああ、おはよう。ところでまた違う女性を連れているな?」

「人を『女たらし』みたいに言わんで下さい!!」


 でもたしかに、ココに来る時って毎回違う女性を連れてるな・・・。


 レオナねえ・タマねえ・院長先生・ラン姉ちゃん・ぺち子姉ちゃん、あと孤児院の子供達もか。


「接客を指導することが出来る人を探して来るって言ったよね?でもとりあえず職場を一度見てみたいってことで、今日はそのために連れて来たの!」

「ランといいます。宜しくお願いします!」

「ペチコにゃ!よろしくにゃ!!」

「ああ、ベイダーだ。よろしくな!・・・ところで二人いるようだが?」


 うっ!やはりそこをツッコまれますよね。

 ラン姉ちゃんはともかく、ぺち子姉ちゃんをどう売り込もうか・・・


「接客の方は赤い髪のラン姉ちゃんで考えてたんだけど、こっちのぺち子姉ちゃんも仕事を探してたから連れて来たの!」

「ウチに出来ることだったら何でもするにゃ!接客も達人にゃ!」

「フム・・・」

「少し前まで冒険者だったからすごく強いんだ。だから護衛とかも出来るし、他にも色々使える人材だと思うよ?接客はオススメできないけど」

「接客はオススメできないってのが引っ掛かるが・・・、まあとりあえず今日は視察がしたいのだろう?許可を出すから適当に見て回って構わんぞ」

「そうだね!じゃあとりあえず色々見学してきます!」



 まだ面接する前の段階だからな。


 現時点では『ベイダーさんが彼女達をどう思うか』じゃなく、『彼女達がベイダー工房をどう思うか』の方が大事なんだよね。



 三人はベイダー工房の中を色々見て回った。



 自分も鍛冶屋の仕事っぷりをちゃんと見るのは初めてだったんだけど、ベイダーさんの教えが素晴らしいのか、怒声が飛び交うような殺伐とした職場ではなかった。


 孤児院から来たばかりの少年達に仕事を教える先輩職人達の、優しくも厳しいその姿勢に感動を覚えたくらいだ。


 女の子達は、接客の指導者がいなかったのもあり、まだ孤児院で暮らしてるみたい。ラン姉ちゃんがここに就職したら、すぐに呼び寄せるような感じかな。



 ベイダー工房の入り口まで戻って来た。



「結構良い職場じゃない!」

「ここは当たりにゃ。前に探鉱の仕事に行った時にゃんか、初めてにゃのに散々怒鳴られたにゃ!」


 肉体労働の現場ってそういうとこ多いんだよね・・・。


「んでムカツク男三人にヤキをぶち込んだら、昼前にクビににゃったにゃ」

「やっぱりやらかしてるし!」

「ペチコってまったく後先考えないわよね・・・」


 この狂暴猫、絶対色んなとこでブラックリスト入りしてるだろ!



「ん?なんでクーヤがいるんだ?」



 振り向くと、そこにいたのはライガーさんだった。



「あ、ライガーさんだ!えーとね、接客の出来る従業員を探して来たんだけど、まずは職場を見てから働くか決めたいってことで、今日は見学してたの」


「おーーー、なるほどな!俺はライガーだ。よろしくな!」


「宜しくお願いします!」

「よろしくにゃ!!」



「そうそうクーヤ、近いうちにアレと戦うぞ!」



 おおおお!やっと筋肉の準備が整ったということか!!

 お客さんがいるから名前は出さなかったけど、絶対ポレフィータのことだ。


 そのミッションさえ成功すれば、ようやく全てのピースが揃うってもんよ!

 帰ったらレオナねえに知らせなきゃな。

 

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