第99話 スラムからまた一つ組織が消える

 

 ドガーーーーーーーーーーーン!!


 ゴガシャッッッ!!


「ぎゃあああああああああああああ!」

「や、やめ!ゲはアアアアアッッ!」



 2体のゴーレムが左右から建物を殴って破壊を繰り返し、外へ逃げ出した者は屋敷を包囲している蜘蛛に攻撃されて血を流す。


 そして外からじゃ見えないけど、屋敷内では『ゾウ、ライオン、サソリ、黒豹』といった、メルドアとゴリラを除く主力級が暴れ回っているハズだ。



 少し前に到着した悪そうなお兄さんの仲間達は、口をあんぐり開けて呆然としながら、そんな阿鼻叫喚の惨状を眺めていた。



「な、ナニコレ?」

「ガイアさんの話を聞いてなかったのか?」

「いや、聞いてはいたけど!これじゃあスタンピードじゃねえか!」

「黄色と黒に敵対した組織の末路だ」

「あ、ああ!噂の黄色と黒か・・・」


 そんな会話をしていた強面の2人が、タマねえとメルドアによる『Wぺろぺろ攻撃』で悶絶している黄色い天使に視線を向けた。




 ・・・ム!?また『黄色と黒』って聞こえたぞ。

 こっちを見てるってことは、やっぱボクとタマねえのことなんかな?


 言われてみるとたしかに、黄色いあひるポンチョと黒いポンチョは目立つ。

 っていうか『黄色と黒』が当て嵌まる人って、ボク達しかいない気がする。


 いつの間にか変な通り名を付けられてたのか・・・。



「おいガキ共!これって、中に入ると俺らも攻撃されるんじゃねえのか?」


 近寄って来た悪そうなお兄さんに話し掛けられた。


「あ~~~、屋敷の中にいる人は全部敵だって言ってあるから、中に入ったらみんなにボコボコにされちゃうよ?あと中から出て来た人も蜘蛛にガジガジされる」

「やっぱりかよ!」

「屋敷の中に動ける人がいなくなったらみんな帰って来るように言ってあるから、それまで外で待っててね」

「そうか・・・。まあウチのもんを怪我させたくはねえし、大人しく待ってるか」


「ガイアさん、後続50名が到着したっス!」


「わかった!魔物による屋敷への攻撃が終わるまでは待機しろと伝えろ!」


「了解っス!」


 ガイアさん??


「ねえねえ!ガイアって呼ばれてるの?たしかあの飲み屋ではシュ」

「そこまでだ!前にも言っただろ?貧民街スラムじゃ本名を知られるのはよくねーってよ」

「あ、言ってた!」

「だから組織では仲間内でも偽名を使ってるんだ。ガイアってのは俺のことだから覚えときな」

「じゃあこれからボクのことは『堕天使田中初号機』って呼ぶように!」

「ダテンシタ・・・なげーよ!!ガキでいいだろ」

「えーーーーーーー!!」


 まあ別にガキでいいんですけどね。

 まったく気を使わないテキトーな感じは結構好き。


「あ!ライオンが帰って来た」

「終わり?」

「黒豹も出て来たから制圧完了だね!ゴーレム達もストーーーップ!!」



 召喚士の停止命令を受けたゴーレムも、屋敷の破壊を止めて帰って来た。



「悪そうなお兄さん!こっちの仕事は全部終わったから、後は任せるね!」

「わかった!後始末は全部やっとく。もうあの孤児院も大丈夫だ」



 やったね!

 決して善人ってわけじゃないんだけど、本当に良い人と知り合えたよ!


 まあそんなわけで、ボク達の出番はこれで終了だ。

 一応孤児院に寄って、先生達に一声掛けてから家に帰ろっと!






 ************************************************************




 ―――――嵐が去った後の、悪そうなお兄さん視点―――――




「しかしまあ滅茶苦茶だな・・・」

「あのガキ共って本当に何者なんスか?強烈な魔物をあれ程までに従えたテイマーなんて、俺見たことないっスよ!」


 テイマー?

 そんなんだったら俺はビビッてねえっつーの。


「テイマーなんかじゃねえ」

「・・・は?いや、だってあんなに魔物が」

「じゃあ、暴れてた魔物はどこへ行った?」

「どこって、あれ?そういやどこに消えたんだ??確かアイツらは二人だけで歩いて帰ったような・・・」

「テイムされた魔物を消すことなど出来ない」

「・・・・・・嘘、ま、まさかアレって召喚獣!?」

「そのまさかなんだよ。この意味することがわかるか?」


 もしテイマーと戦った場合、怖いのは魔物だけだ。

 戦闘職と戦えるようなテイマーなど一人もいないだろう。


 だが召喚士は違う。

 己の肉体を限界まで鍛えなければ、召喚獣を手に入れることが出来ないのだから。


「も、もしかして、あの強力な魔物全てを単独で撃破したのか!!」

「そうだ。黒いガキの方は一切手出しせずに、黄色いガキが全て一人でやってのけたんだ。しかもあの黒いガキの方も普段は大人しいが相当な手練れだぞ」

「異常だ・・・」

「あのガキが何体の魔物を操っていたか数えたか?」

「いや、外にいた魔物しか見てねーっス。屋敷の中にもいたんスよね?」

「全部で20体以上だ。だがあのガキが疲れてたように見えたか?」

「ピンピンしてたっスね」


 そうなんだよ。俺はあのガキが疲れてる姿を一度も見たことがねえ。

 カロリーゼロを10体同時に召喚した時ですらな!


「すなわち保有魔力も桁違いということだ。それが何を意味するか?あのガキは何度だって召喚出来るんだよ」

「じゃ、じゃあ、あの魔物を一体倒したところで・・・」

「そういうことだ。異常とかじゃなくて、アレは歩く理不尽だ!災害の悪魔だ!」

「・・・・・・・・・・・・」

「媚びろとまでは言わん、でも絶対に敵対行動だけはするな!わかったな?」

「了解っス。あっ!孤児院に粉をかける奴がいないか、ウチで見張っといた方がよくないっスか?」

「それだ!もし孤児院に何かあったら、アイツは無差別に暴れるかもしれん・・・」

「ひいいいぃぃぃーーーーーーーッッ!!」



 ・・・とまあ半分脅しで部下に警告はしておいたが、戦ったら100%勝てないというだけで、付き合ってみると悪いヤツじゃねえんだよな。


 敵対組織を二つも滅ぼしてくれたわけだし、使い用によっては有益っつーことよ!

 やたらと賢いし面倒臭いヤツでもあるが、俺は共存を選ぶね。


 とりあえずは魔物のスタンピードだな・・・。

 これを乗り切るにはあのガキの力が絶対に必要だ。


 俺はアイツを利用するし、アイツも俺を利用すればいい。


 何にせよ後始末を引き受けたわけだし、今は目の前の屋敷を何とかせんとな。

 さあて・・・いっちょ働きますか~。

 

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