第84話 ダメ猫を丸洗い

 貧民街スラムでの用事も終わり、ようやく我が家の前に到着。

 結局公言通りに、ぺち子姉ちゃんは家までついて来てしまった。


 しかし玄関ドアの前に立った時、タマねえが妙な行動をし始めた。


 くんくんくん


「さっきからずっと思ってたんだけど、ペチコねえ、やっぱり臭い!」

「にゃっ?」

「そういえば野性味溢れる匂いがするとは思ってたけど、ぺち子姉ちゃんが犯人だったの?」

「お風呂入ってる?」

「入るわけにゃいにゃ。お風呂にゃんて大嫌いにゃ」


 なんですとーーー!?


「ぺち子姉ちゃん、いつからお風呂に入ってないの?」

「にゃっ?ん~~~、5年くらい前に無理矢理身体を洗われたのが最後にゃね」

「ご、5年!?」

「これはさすがに許されない」


 いや待て、お風呂嫌いとは好機だぞ!これをダシにお引き取り願おう。


「ぺち子姉ちゃんに残念なお知らせがあります!毎日お風呂に入ってピカピカな状態じゃないと、ウチに入ることが禁止されているのです」

「にゃ、にゃんだってーーーーーーーーーーーーーーーー!?」

「そんなの常識」

「じゃ、じゃあ、タマのウチに行くにゃ」

「ウチも汚い人が入るのは禁止されてる」

「そ、そんにゃ~~~~~~・・・」


 ぺち子姉ちゃんはガチで凹んでいる。

 なんか少し哀れだから、蜘蛛の糸でも垂らしてやるか~。


「でも逆に言えば、お風呂に入ってピカピカになれば家に入れるんだよ?」

「絶対嫌にゃ」

「なら素直に家に帰るか、その辺の原っぱで寝るしかない」


 タマねえの突き放す一言で、ぺち子姉ちゃんに焦りの色が見え始める。


「じゃ、じゃあ顔を洗うにゃ!それでいいにゃ?」

「話になりませんな。お引き取り願おうか」

「うにゃあああああああああ!外で寝るのはイヤにゃ~~~~~~~!!」

「自分の家に帰ればいい」

「お金が払えにゃくて宿を追い出されたにゃ・・・」


 えーーーーーーー!?マジかよ、詰んでるじゃんこの猫。

 ということは、風呂に入ってからウチに来るってのも無理だよな・・・。


「しょうがないなあ。真っ直ぐ風呂場に行ってピカピカになるって条件なら、家に入れてあげてもいいよ」

「お風呂は嫌にゃ!」

「なんかイライラしてきた」

「同感だタマねえ。救えぬダメ猫なんてもう知らない。じゃあね!ぺち子姉ちゃん」


 そしてドアを開けて家に入ろうとすると、ぺち子姉ちゃんがわんわん泣き始めた。


「ごめんにゃ~~~~~~~!お風呂に入るから見捨てにゃいで!!」


「えーーー!?そこまで追い込まれてるのなら、我儘言わなきゃいいのに・・・」

「すごく面倒臭い性格してる」


 心の底から面倒臭いけど、その辺で死なれても夢見が悪いんだよね。


「でもお風呂に行っても、にゃにをしていいかわかんにゃいにゃ。二人で洗って欲しいにゃ」

「ぐぬぬぬぬ・・・、真のお風呂嫌いだからしょうがないか~」

「わかった。ただし容赦はしない」



 ガチャッ


 ダメ猫丸洗いミッションが発生したので、風呂場へ行くためにリビングへと入る。



「「ただいまー!」」


「ん?あっ、クーヤくんとタマちゃんおかえり~、ってその人は誰??」


 二人の声を聞いて真っ先に反応したのはティアナ姉ちゃんだった。


「あっそうか!お風呂に入るにも、お湯を沸かしてもらう必要があったんだ!ティアナ姉ちゃんがいてくれて良かったーーー!」

「え?私??」

「え~とねえ、この人はぺち子姉ちゃんって言うんだけど、すぐにお風呂でゴシゴシ洗わなきゃいけないの!」

「よ、よくわからないけど、お風呂なら今すぐにでも使えるよ?」

「ほんと!?やったーーーー!!とにかくお風呂が終わったら全部説明するね!」



 洗面所に入ってところで考える。


 服を濡らさずぺち子姉ちゃんを洗うのは大変だし、どうせこの後お風呂に入るんだから、一緒に入ってしまった方が楽だよな。


「タマねえ、どうせだからボク達も一緒にお風呂済ませちゃった方が良くない?」

「たしかに」


 ちなみにぺち子姉ちゃんは緊張でガタガタ震えている。

 猫ってそこまでお風呂を怖がるもんなの?


 しかし容赦はしない。


 タマねえと二人でペチ子姉ちゃんの服を脱がせて丸裸にした。



 ・・・ほう。

 臭くとも女性らしい身体をしてらっしゃる。


 おっぱいの大きさはBカップ~Cカップといったところか。

 大きいのも良いけど、これくらいの大きさが一番バランスがとれてて好きかも!


 いや、タマねえの膨らみかけもティアナ姉ちゃんの貧乳も良いんだよな~!

 っていうかおっぱいは等しく正義なのだ!そこにいてくれるだけでいいのだ。


 そして獣人特有のモノなのか、首の後ろから背中にかけて縦にホワホワっと毛が生えている。こういうのも異世界人っぽくておもしろいかも。



「あ、服も洗濯しなきゃ。匂いの発生源の半分はこれだろうし」



 リビングに顔を出してティアナ姉ちゃんを呼び、洗濯機に水を入れてもらった。

 そしてボクとタマねえも裸になって、お風呂場に突撃!



「じゃあ早速ぺち子姉ちゃんを丸洗いするよ!」

「最低でも5回洗い」

「い、い、痛くしにゃいでほしいにゃ!」

「痛いことはしないから大丈夫だよ」

「信じてるにゃ!!」


 何を恐れてるのか知らんけど、5年前に洗われた時は、大暴れしたせいで酷い目にあったんじゃない?大人しくしてればいいだけなのに。


 バシャーッ


「うにゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」


 頭にお湯をかけただけなのに、もう悲鳴をあげています。


「じゃあ頭から洗ってくから目を閉じててね。泡が入ると痛いから」

「えぐっ、えぐっ、毛がゾワゾワするにゃ~~~」


 まだお湯をかけただけなのに、そんなに泣かんでもさ~。

 洗ってるだけなのに、いじめてるような気分になってくるよ・・・。



 5年かけて蓄積した汚れは半端なく、最初は全然泡が立たなかった。

 でもタマねえとの努力の甲斐あって、少しずつキレイになっていった。



「うにゃ~~~~~~!目が痛いにゃ~~~~~~!」

「だから目を閉じてなさいって言ったのに」

「めちゃめちゃ長いにゃ!もう十分にゃ!」

「もう少しの我慢!」



 そして悪戦苦闘の末、ぺち子姉ちゃんは汚猫から美猫へと進化を遂げる。



「しゅーーーーーーーりょーーーーーーーー!!」

「ペチコねえ、お疲れ様」

「にゃっ!?やっと終わったにゃか!!」



 湯船に浸かろうとしたらまた駄々を捏ねたけど、お湯に浸かって5分も経った頃には気持ち良さそうな顔になっていた。


 ちなみに最初見た時のぺち子姉ちゃんは茶色だと思ったんだけど、丸洗いが終わると『赤トラ模様』に変化していた。背中のほにゃ毛も全部赤トラだ。



「ぺち子姉ちゃん、身体を洗ったらすごく美人になったよ!」

「うん。お風呂前と全然違う」

「ほんとにゃか!?」

「だから今日から3日間は毎日お風呂だからね」

「それは嫌にゃーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

「我儘言わない」



 風呂が嫌なら出て行ってもらうまでの話よ。

 でもこの後、家族のみんなに説明しなきゃなんだよね。あーめんどい!

 

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