第55話 悪そうなお兄さんから情報収集

 メルドアが召喚獣・・・だということに気付いた悪そうなお兄さんが、それが意味するショタの危険さを察して驚愕している。


 おそらく、ショタの内に秘めた驚異的なパワーを想像してブルってるのだろう。


 メルドアを倒せたのはカブトムシを手に入れたことによる棚ぼた的な勝利であって、実はショタ自身、攻撃力も防御力も無いただの子供なんですけどね。


 当然そんなの言う必要が無いので、勝手に過大評価していてもらおう。



「そうだよ!」


「そうだよって、そんな簡単に・・・、嘘だろ・・・」



 通常、召喚士が召喚獣を入手する為には、鍛え上げた己の筋肉だけで魔物を撃破する必要がある。


 悪そうなお兄さんの脳内では、あひるポンチョのショタが『デンジャーあひるパンチ』『稲妻あひるキック』でメルドアと激闘を繰り広げている姿が再生されているのだろう。


 でもどうやって倒したかは教えず、勝手に想像させとく。

 俺が召喚士だって知られただけでも、一応リスクを背負うことになるのだ。


 しかし召喚獣抜きでも危険な戦闘力を持っているとなれば、下手に刺激して敵対する行動は絶対に避けるハズだ。


 そして、そんな危険な子供と一緒に行動しているタマねえも、要注意人物と見做されるだろう。


 あの誘拐犯から見ても、彼女は狼藉者を1人ぶっ叩いたくらいで、それ以外の能力は全くの未知数だ。


 しかも不吉な黒髪とか言っていたわけだから、その存在自体を最初から恐れていたと推測される。


 安全面で考えたら、情報の少なさが『逆に』使える材料の一つとなるかも。



 この貧民街スラムには、おそらく喰う者と喰われる者の2種類の人間しかいない。

 弱いと認識されれば、簡単に喰われてしまうだろう。



 ならもう、喰う側になるしかないよね?


 いや、弱い人を虐げるような真似をするつもりなんて無いけどさ、変な奴らに狙われるくらいならば、友達は出来ないだろうけど恐れられていた方がいい。


 よし、決めた!


 変に自重しないで、デンジャーさは見せつける方向で行こう。

 ただし全部は見せない。底知れぬガキ共でいれば安全なのだから。



「あ、そうだ!・・・え~と、シュナイダーさん!」


「待て!なぜ名前で呼ぶ!?あー、えーとな、今まで通り『悪そうなお兄さん』呼びに戻してくれ。貧民街スラムで名前を知られるのはあまり良くない」


 なるほど・・・。裏の世界の人なら尚更か。


「じゃあ、悪そうなお兄さん!最近この辺に魔物が増えて来てるってホント?」

「ん?ああ、近頃そういう噂があるな」

「街から出たら魔物がうじゃうじゃなの?」

「んなわけあるか!!そこまで行ったら魔物のスタンピードだ。酒なんか飲んでる場合じゃねえだろ!」


 お?出ましたね、スタンピード。


「スタンピードになったら、この街も危ない?」

「あ~、どうだろな?ツエー冒険者が多けりゃ何とかなるかもしれねえが、皆出払っていてヨエーのしかいなかったら、拙い事になるかもしれねえ・・・」

「その場合、街の人みんなで戦うの?」

「当然そうなる。街の中が魔物まみれになりゃ、女子供だろうが戦うしかねえだろ」


 そりゃそうか。


 やはり有事の際でも戦えるように、召喚獣を集めておく必要がありそうだ。

 街の平和はショタの双肩にかかっていると言っても過言ではない!


「ここから近くて、魔物がいっぱいいる場所ってどこ?」

「魔物がいっぱいだぁ?・・・いや、ちょっと待て!!それを知ってどうするつもりだ!?」



 さあ、なんて言おう?



「遊んでくる~」


「・・・・・・・・・・・・」


 それを聞いた悪そうなお兄さんが、口をあんぐり開けている。



 まあそりゃそうでしょうねえ。

 今のセリフで、目の前のショタの底知れぬ度が30%アップしたっしょ?


 本当はちゃんとした理由があって行くんだけど、正直に言う必要なんかない。


 それに、底知れなさをアピールしたい対象は『悪そうなお兄さん』だけじゃなく、床で腰を抜かしたままの『昼間から酒浸りのダメ人間』もだ!


 森の主を連れた二人のガキんちょは、魔物が溢れる場所へ遊びに・・・行くのだ。

 そして新たに入手した召喚獣に乗って、平然と帰って来る。


 この噂が貧民街スラム中に広がれば、もう俺達をどうこうしようと考える者は一人もいなくなるだろう。


 新たな召喚獣と一緒に『安全』も手に入れてやるぜ!



「・・・教えてやってもいいが、どうなっても知らんからな?」

「大丈夫大丈夫!もし死んじゃっても恨んだりなんかしないよ!」

「死んじゃってもって・・・、普通子供は一歩間違えば死ぬような遊びなんかしねえぞ!・・・なんか頭痛くなって来た」

「で、どこがオススメなの?」


 悪そうなお兄さんが、ため息を一つ漏らした。



 もうそろそろ狂った子供アピールはやめよう。


 裏稼業の人だからって、別にこの人が嫌いなわけじゃないんだ。

 むしろツッコミが鋭いし、好きなタイプ。


 困ったことがあったら助けるから、変に絡んだのはそれで許して!

 でも危険な子供二人の噂だけは流してね。持ちつ持たれつの関係でいきましょう。



 貧民街スラムに来た瞬間いきなり袋を被せられ、悪者に誘拐なんてされたもんだから、まずどうしても保身を優先して考えてしまうのですよ。


 悪そうなお兄さんがどうこうじゃなく、俺はこの貧民街スラムに対して怒ってるんだ。簡単に人を殺すような奴らに誘拐されて、そのあと殺し合いにまでなったのだから当然の結果でしょ。


 そして何より許せないのは、奴らが、髪が黒いってだけでタマねえを殺すかどうか話していたことだ!


 そんなことは俺が絶対にさせねえ!!


 不気味だから殺す?

 なら怖くてそんな気もおきないくらい不気味な子供になってやりますよ。



「市民街の南に古ぼけた屋敷があるのは知ってるだろ?」


 めっちゃ知ってます。


「うん」

「・・・そりゃ知ってるか。メルドアジェンダはその屋敷の奥にある森の中にいた筈だからな。その森を突っ切って南下すりゃ魔物まみれだ」

「なんだ!あの奥に行くだけで良かったのか~」


 悪そうなお兄さんが、メルドアに視線を向ける。


「ただ今まで・・・は、メルドアジェンダの存在が逆に街を守ってもいたんだが、どうやらその守りも消えてしまったようだな」


 ・・・・・・あれ?もしかして俺やっちゃいました!?


「そこで女の子と遊んでますね」

「これからは南の森も警戒する必要があるだろうな」

「アイヤ~!」


 自分のおでこをペチッと叩いて可愛さをアピールした。


「しょうがないな~。なんか別の魔物を捕まえて来て、代わりに置いとくよ」

「別のってオイ!!いや、お前なら本当にやりそうだな・・・」

「情報あんがとね!今度なんかお礼するから!」

「嫌な予感しかしねえから、いらん!」



 なんか一瞬でお断りされたんですけど!!

 まあとにかく方針は決まったな。攻めるのはあの森の奥だ!

 

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