第54話 災害の悪魔、再びスラムへ

 タマねえは速度を落とすことなく、通行人を避けながら街を駆け抜けて行く。

 どこに向かっているのかは、タマねえにしかわからない。


 あっ、前もココ通った!

 もしかして、また貧民街スラムを目指してるのか?


 土煙を巻き上げながら疾走しているので、住民達は皆、タマねえが駆け抜けた後に『これは一体何事だ!?』と困惑している。


 案の定タマねえは貧民街スラムに入り、少し進んだ辺りで速度を落とした。



「ここならいいかな?」

「何が?」

「メルドアと遊ぶ」


 あ~~~!タマねえはそれが目的だったのか!!


 確かに家で魔物を呼び出すと騒ぎになってしまうから、メルドアと戯れたいのならば、狙撃屋敷裏の森か貧民街スラムに来るのがいいのかもしれないな。


 でもここで召喚したら、また貧民街スラムが大騒ぎになってしまうだろ。


「もう前回のことはしょうがないけど、いくら貧民街スラムといえど、魔物を出して住民を怖がらせちゃ可哀相だよ」

「じゃあ秘密基地に行こう」

「いいけど地面に降ろして。普通に歩きたい」

「ここからなら遠くないし、許可する」

「なんか偉そうですね!?」



 黄色いポンチョと黒いポンチョの二人の子供が貧民街スラムをテクテク歩いていると、メルドアを連れていないにも関わらず辺りは騒然となった。



「お、おい、あの子供らって・・・」

「馬鹿、目線を送るな!」

「間違いねえ・・・、『黄色と黒』だ」

「でも魔物に乗っていないぞ?」

「噂では、あのどちらかがテイマーなのだろうって話だ」

「メルドアジェンダを!?あんなのどうやってテイムしたんだよ!」

「知るかよ!!」


 ・・・ボソボソっとしか聞こえないけど、なんかみんな俺らのこと噂してない?

 視線を向けると、どうも目を逸らされてる感じなんだよな~。


「タマねえ、なんか色んな人に見られてるよね?」

「うん。一人で来てた時はこんな感じじゃなかった」

「メルドアに乗ったまま帰ったのは失敗だったかなあ・・・」

「気にしなくていい」



 ―――その時、知ってる顔が建物に入って行くのが見えた。



「あーーーっ!悪そうなお兄さんだ!!」

「どこ?」

「あそこに入ってった!」

「あのお店?」


 アレって店なのか!確かに看板とか付いてるな。


「あの後どうなったのか聞きに行こう!」

「えーーー、急いでるのに」


 メルドアと遊びたい気持ちはわかるけど、今は情報収集だ。


 人混みをかき分けるまでもなく十戒が割れるようにみんな避けてくれたので、そのお店らしき建物に近付きドアを開ける。



 ギィーーーーッ



 店の中は酒臭かった。

 ここは飲み屋だったのか・・・。見ると客層はゴロツキばかりって感じだ。


 いたーーーーー!


「悪そうなお兄さん発見!!」


 ショタのかわいい声を聞き、悪そうなお兄さんが店の入口を振り返った。


「げッッ!!」


 とてててててててて


 口をあんぐり明けて固まっている悪そうなお兄さんの所へ駆け寄って行く。


「ねえねえ!あの後、怪我人の治療してくれた?」


「へ?・・・ああ、それか!おう、みんな元気になったぜ。じゃあ俺は急いでるからこの辺で失礼するよ」

「ホントに~?適当なこと言ってない?」

「本当だ!!治療費は奴らに支払わせたから俺も損はしていない。多少手間賃は頂いたがな。じゃあ失礼するよ」

「この店に入って来たばっかじゃん。ゆっくりしていきなよ!」

「くっ!俺が店に入る所を見てやがったのか・・・」


「おい、シュナイダー!このガキ共はなんだ!?」


 シュナイダー?悪そうなお兄さんの名前かな?こんな悪そうな顔してるくせに、めっちゃ格好良い名前じゃん!!


「おい馬鹿!名前を呼ぶんじゃねえ!!」

「あ?なんでだよ!?」

「チッ、とにかくもう黙ってろ!」

「んだとコノヤロウ!!おい、そこのガキ共!何こっち見てんだよ!ここはガキの来るような店じゃねえゾ!!」

「おい馬鹿やめろ!そいつらに絡むんじゃねえ!!」

「はあ??さっきから何なんだよ!!ガキの肩なんか持ちやがってよう!!」

「ただのガキじゃねえんだよ、バカタレが!!」


 口の悪いおじさん達ですねえ・・・。

 まあ昼間から酒場にいるような人達だし、ダメ人間なのでしょう。


「ただのガキじゃない?もしや、どこぞのお偉いさんの子息なのか?」

「・・・違う。この二人なんだよ、イーデミトラスを壊滅させたのは・・・」

「はあ??頭でも打ったのか?ガキ二人がイーデミトラスを壊滅させただあ?テキトー吹かしてんじゃねえぞコラ!!」


 悪そうなお兄さんがこっちを見た。


「メルドアジェンダは連れて来ていないのか?」

「メルドア?連れて来てはいないけど、呼んだらすぐ来るよ。ねえねえ!『イーデミトラス』って、あの誘拐犯達のこと?」

「そうだ。汚い稼ぎばかりする、いけ好かない連中だが、貧民街スラムで5本指に入る組織だった・・・。それはともかく、この馬鹿には言ってもわからないようだから、メルドアジェンダを連れて来てくれねえか?アレを見りゃ、この馬鹿も俺の話を信じるしかねえだろ!」


 悪そうなお兄さんが、昼間から酒浸りのダメ人間を指差した。


「ん-ーーーー、いいけど大騒ぎになっても知らないよ?」

「構わん。勝手に騒がせておけばいい」


 まあいいか!奥の手はあまり見せるもんじゃないけど、いつでも簡単に呼び出せるってのを知っといてもらった方が、俺とタマねえの安全にも繋がるだろう。



「メルドア召喚!」


 シュッ


 酒場のど真ん中に、森の主でもある、獰猛な顔をした白いモフモフが出現した。



 ガタッ!



「ま、魔物だッ!!」

「ウソだろ!?」

「なぜこんな場所に魔物が出るんだよ!?」

「ヒ、ヒイイイィィィィィィ!!」



 飲んだくれ共は逃げ出した。



「ヒッ!!な、なんで魔物がッッッ!!」


 さっきショタを恫喝して凄んでいた昼間から酒浸りのダメ人間が、腰を抜かして床に尻もちをついている。



「いや、ちょっと待てや・・・、今のって、召喚魔法サモンマジックじゃねえのか!?」



 ん?なんで悪そうなお兄さんまでこんなんなってんだ?

 意味わかんねーーーーーーー!!



「呼べって言うから呼んだのに、なんで驚いてんの??」



「お、お前・・・、メルドアジェンダを単独撃破したのか!?」



 あ~、驚いてたのはそこか!!

 

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