第33話 人生の転機

 一連の流れでティアナお姉ちゃんに俺の住居がバレてしまい、冷や汗が流れる。



「えーと、まあ、住んでますね」

「何でそんな危険な場所に住んでるの!?あそこってガジェムの通り道じゃない!」


 なんてこった!彼女はあの屋敷のヤバさを知ってるみたいだ。


「でも他に行く所が無かったし・・・」

「クーヤくん、あんな所に住んでたら死んじゃうよ!!・・・えっ?行く所が無いって・・・、ご両親は?」



 まいったな~。

 転生者だって知られるわけにもいかんし、どこまで話していいものか・・・。


 本当に大事な部分だけを隠して、ある程度は話した方がいいか。



「いないよ。ずっと前に死んじゃったから」

「死ん・・・、え?クーヤくんって、一人で暮らしてるの!?」

「うん」



 困った。

 こういう、同情を誘うようなやり方だけは避けたかったのに。


 なにしろ俺は普通の子供じゃなくて転生者だ。両親が死んだのだって何年も昔の話なんだよ。


 天涯孤独の身なのは確かだけど、ティアナお姉ちゃんが思い浮かべるであろう状態とは全然違うと言ってもいい。


 あ・・・。



 ―――ティアナお姉ちゃんが涙を流していた。



 そして泣いてるリリカちゃんの横に俺も抱き寄せられる。



「ぐすっ・・・、クーヤくん、私達と一緒に住もう?」

「え?いや、でも・・・」

「もうこんな怖い所に一人で住まなくてもいいの。もう毎日広場まで食べ物を貰いになんて行かなくてもいいの」



 あちゃ~、俺の今までの行動パターンから、全部バレてしまってるぞ・・・。


 確かに食べ物を手に入れる為に広場まで通ってはいたけども、それを辛いとは感じてなかったんだけどな。不幸には慣れてるから。



 ・・・あれ?



 ―――気付くと俺は涙を流していた。



 くそっ!ティアナお姉ちゃんの優しさにやられてしまったみたいだ。

 両親を失った当時の記憶が頭を過ぎり、涙が溢れ出て止まらない。



「うわあああああああああああん」

「うぇーーーーーーーーーーーん!」

「うっ、ぐすっ・・・」



 三人は抱き合いながら、そこでしばらく泣きじゃくった。




 ◇




「ねえティアナお姉ちゃん」

「うん?」

「お姉ちゃん達の家に行くのはいいんだけど、屋敷から持って行きたい物がいっぱいあるんだ」


 召喚したアイテムが寝室にいっぱい転がったままなのです!

 それに照明の魔道具など、金になりそうな物があの屋敷には多々ある。


「ダメ!!死んじゃうかもしれないんだよ!?」

「エーーーーー!?ボク、あそこにずっと住んでたんだよ?」

「でもダメ!!」


 これは困ったぞ・・・。アレを屋敷に置いて行くなんてとんでもない!

 しゃーない、一つだけ秘密を暴露するか・・・。


「誰にも言ってなかったんだけど、ボクね、実は召喚士サモナーなんだ!」


「・・・へ?」


 ティアナお姉ちゃんが、頭に『?』をいっぱい浮かべている。


「しかも、ちょっと普通と違うの」

「召喚の儀は8歳だよ?クーヤくんってまだ5歳じゃない」

「えーと、えーと、外国生まれだから早いの!!」

「外国生まれ!?」


 少々強引だがこれで通すしかない!


「あーーーーーーっ!それで最初言葉を話せなかったのね!?でもすぐに言葉を覚えたから、すごく賢い子だなーって思ってたんだけど・・・」


 そこまでバレてたんか!?このお姉ちゃんの洞察力は半端ねえな!


「じゃあちょっと召喚サモンしてみせるね!」

「えええええ!?筋肉も無いのに出来るの?」


 筋肉が無くなって召喚くらい出来るわい!!



「鉄板出て来い!」


 シュッ!


 目の前に分厚い鉄板が出現した。

 練習の甲斐あって、地面に1メートルほど埋まった状態だ。



「うぇっ!?何これ!!」

「あーーーーーっ!なんかでた!!」

「触ってみていいよ」


 俺が呼び出した厚さ3センチの鉄板を、姉妹がペタペタと触る。


「鉄の板・・・なの?」

「かたーーーーい!」

「鉄だよ!これならガジェムが飛んで来ても守れるでしょ?」

「ムムムムム・・・」


 いくらティアナお姉ちゃんでも、鉄板の頑強さは認めざるを得まい。


「確かにこれなら・・・、あっ、荷物ってどれくらいあるのかしら?」



 あ・・・。


 ショタとリリカちゃんはほぼ戦力外だから、荷物のほとんどをティアナお姉ちゃんが抱えて運ぶことになるのか。


 さすがにリアカーでも無いと厳しいな・・・。



「結構いっぱいあるかも・・・」

「じゃあどっちにしても、今運ぶのは無理じゃない?」

「何か運ぶ物がないと無理かも・・・」


 とりあえず鉄板を消した。


「きえた!!」

「サモナーって凄いんだね~。鉄の板を出すサモナーなんて初めて見たけど」

「たぶん変な召喚サモンするのはボクだけだよ」

「外国って凄いんだね!」


 いや、俺がちょっとおかしいだけです。たぶん外国人はみんな普通です。


「あ、そうだ!ライガーさんに頼めば手伝ってくれるかも!!」

「ライガーさん?誰だろう?」

「えーとね、馬車の人!!」


 ティアナお姉ちゃんが、その言葉にピンと来たようだ。


「サモナーを探してた時に知り合ったのかな?」

「うん!!」

「なるほど・・・。馬車を荷物運びに使うとは考えつかなかったな~」



 あっ!馬車を使うんだから、お金がかかるやん!

 でもお金なんて無いし、何か面白いものをプレゼントして頼もうかな?


 マッチョが喜びそうなアイテムか・・・。

 お誂え向きなのが何個かあるけど、料金分の価値があるかとなると微妙だ。

 包丁なんかは間違いなく値打ち物だったけど、ストックしちゃったし。


 でもライガーさんが前に『困ったら俺を頼って来い!』とか言ってたから、お友達価格にしてもらおう!



「じゃあ荷物は後ってことでいいよね?そろそろ私達の家に向かおうか!」



 おおおおっ!ティアナお姉ちゃん達の住んでる家か~~~!

 一体どんな家に住んでるのだろう?少しワクワクして来たぞ!!

 

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