第19話 激戦

 白くてデカい、明らかに肉食獣としか思えない獣が、俺を見て唸っていた。



 ・・・もしかしてこの動物の死体って、彼が仕留めた獲物だった?



 なんてこったい!とりあえずこの場を離れて怒りを鎮めてもらわねば!



「泥棒するつもりはなかったんだ!俺は帰るんでごゆっくりどうぞ!」



 背中を見せるのもヤバそうなので、向きを変えずにジリジリと後ずさる。


 冷静に考えると、泥棒しようとして失敗しただけだったーーーーー!

 彼の怒りはごもっともじゃないですか・・・。


 しかし、どう考えてもこのまま逃げ切れるとは思えん。



 ―――アイツを倒さなければ俺は死ぬ。



 ズシャッ


 覚悟を決めた瞬間、白い獣が跳躍した。


「1号!!」


 ブブブブ ドンッ!


『ギャン!』


 カブトくん1号が急加速して白い獣を弾き飛ばした。



 クソッ、距離が短すぎた!アレじゃヤツを倒せない!

 パッと後ろを確認すると、樹々の隙間から青空が見えた。


「4号!5号!あの隙間を通って100メートル先まで飛べ!そこで旋回してから全力で白い獣を攻撃しろ!たとえ失敗してもトドメを刺すまで何度も攻撃を繰り返せ!」


 ブブブブ


 カブトくん4号と5号が樹々の隙間を抜けて飛び立って行った。



『グルルルルル!!』


 チッ!立ち直ったか。

 4号と5号が来るまで3匹で戦うしか、・・・って1号はどこだ!?



 ザザザッ


 やべえ、来やがったッ!


「2号!」


 ブブブブ


 2号が超加速で白い獣に向かって行く。


 シャッ


「は!?」


 アイツ避けやがった!!


『ガアアアアアアアアアッッッ!』

「3号!!」


 ブブブブ ドンッ!


『ガギャッ』


 大口を開けていた白い獣の口の中に3号をぶち込むと、悲鳴をあげながらその衝撃で吹き飛んで行った。


 ダンッ!


 そのタイミングで4号と5号がヤツの身体を貫通した。



「よしッッ!!」



 いや、ダメだ!白い獣の脇腹に風穴は開けたが、アレでは致命傷にならない!!


 ・・・やべえぞ、1号も2号も3号もどっか行っちまった!これじゃ次の攻撃を防げない。どうすりゃいい!?


 あ、そういやカブト達は召喚獣だ。一度消してからまたすぐ呼び出せばいいのか!



「1号・2号・3号消えろ!・・・1号・2号・3号召喚!!」



 次の瞬間、目の前に3匹のカブトムシが出現した。


 ・・・よし!成功だ!!


 それとほぼ同時に、満身創痍の白い獣が再度襲い掛かって来た。



『ゴオオオガアアアアアアアアアアアアア!!』


「1号・2号・3号!行けーーーーーーーーーーーーー!!」



 ブブブブ ドゴッ!!


 3匹のカブトムシが白い獣と衝突した。



 手負いだったから、今度は避けられなかったみたいだな!



 ブブブブ タンッ!


 そして衝撃で空中に舞い上がる白い獣に、旋回して来た4号と5号の二度目のアタックが炸裂した。


『ギャンッ!!』



 ドシャッッ




 ―――白い獣は地面に一度バウンドしてから、横向きに倒れ込んだ。




「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ、はあっ」



 確かな手応えは感じたが、万全を期す為にカブト達を召喚し直した。


 そして白い獣の生死を確かめようと、恐る恐る近付く。



 ・・・・・・これはさすがに死んでるだろ?

 頭に風穴が空いてるのに生きてたら化けモンだ。



「4号・5号、見事なヘッドショットだったぞ!流石は生まれた時からスナイパーやってただけのことはある!1号・2号・3号もよく頑張った!!」



 実際に戦ったのはカブトムシ達だけど、操縦してた俺の疲労度も半端じゃなくて、安心した瞬間地面にへたり込んだ。




 ◇




 はぁ~。


 森でレベル上げみたいなことがしたかっただけなのに、ちょっと難易度高すぎませんかね?


 なんつーか・・・、遠くから狙撃しておしまいって感じで軽く考えてたのよ。


 それがさあ、なんスかコレ?


 見たこともないデカくて白い猛獣が突然至近距離に出現してさ、しかも虎なのか狼なのかわからんけど動きもクッソ速いしさ。


 異世界ヤバすぎだろ!!これで難易度(中)なの?

 屋敷の裏の森に入っただけでガチで死にかけるとか、一体どうなってるんだよ!!



 もう森なんて怖くて二度と来れねえよ!もうヤダ。ボク帰る!



 でも帰りにまたこんなのが出たら嫌だなあ・・・。


 俺は命令を出してるだけだけど、一撃でも攻撃くらったら死んじゃうんだぞ?

 精神疲労が尋常じゃないんだって!!



 ―――白い獣を見て、ため息を一つ漏らした。



 ・・・帰る前に、もう一回召喚獣に出来ないか試してみっか。


 まあどちらか片方しか連れて行けないのならば、この獣よりも俺はカブトムシを選ぶけどね。なんせ命の恩人だし、愛着も湧いて来たし。



「ストック」



 地面に倒れて死んでいた白い獣が、光を放ちながら消えた。




「・・・・・・・・・・・・は!?」



 え?・・・えええええええええええ!?成功したの??マジかよ!!

 なんで??あっちの動物の方は失敗したのに・・・。


 試しにさっきの動物でもストック出来ないか試したけど、やっぱりこっちはダメだった。まったくもって意味がわからん。


 そうだ、ステータスのチェックだ!



 名前:クーヤ

 職業:召喚士


【召喚獣リスト】


 ・カブトムシ(5)[ガジェム]

 ・メルドアジェンダ



 おお!増えてるぞ!!

 メルドアジェ・・・長いな!呼びにくいから少し短くしよう。



 名前:クーヤ

 職業:召喚士


【召喚獣リスト】


 ・カブトムシ(5)[ガジェム]

 ・メルドア     [メルドアジェンダ]



 これでいいや。

 後ろに元の名前が書いてあるからあんまり意味無いけど。


 ・・・しかしどうしよう?


 呼び出して試したいとこだけど、ガチで殺し合ったばかりだから怖いんだよなあ。

 もし制御不能にでもなったら、また戦わなきゃならんことになる可能性がある。


 あーそっか!やばそうだったらすぐ消せばいいのか。

 召喚獣なんだから消すのは楽勝なハズ。


 あ、でも消費魔力が限界超えたら気絶するんじゃないのか?こんな危険地帯で。



「・・・・・・・・・」



 でもカブトくん達と一緒に歩いて帰るのも怖いんだよなあ・・・。

 彼らの強さは本物だけど、それでも怖いものは怖い。


 えーい!毎日アイテム召喚を続けて来た自分を信じろ!俺を信じるカブトくん達を信じろ!!



「メルドア召喚!!」



 ―――その瞬間、身体から魔力がごっそり抜けて、目の前に白い獣が出現した。



 くっ・・・、結構魔力を喰われたけど、たぶん空っぽまでは行ってないと思う。


 白い獣、いや、メルドアを見る。


 ふむふむふむ。

 さっきまでと違って、俺に対して全く敵意が無いのが感覚でわかった。

 むしろ召喚者である俺への忠誠心らしき感情すら伝わって来る。


 あれ?


 なんかコイツ結構可愛いぞ!!さっきまで恐怖心しか無かったのに。

 召喚士と召喚獣による心の繋がりってのが、そう認識させるのかもしれない。



 ・・・見た目も顔もめっちゃ怖いけどな!

 

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