第12話 統魔師《モンスターマスター》
「飛ばすよ! ちょっと隠れてて! 【アクアスパイラル】‼」
無数の化け蜘蛛を相手取る彼女――ミラベルが水属性の魔法で薙ぎ払う様を傍目で見ていた。
(強いな)
剣聖の息子として15年生きただけあり、高名な魔術師と顔を合わせたこともそれなりにある。
彼らの扱う魔法だって、いくつも見てきた。
その上で思う。
ミラベルの魔法は、彼らに一切引けを取らない。
だが。
「……はぁ、はぁ! まだ、まだぁ‼」
化け蜘蛛の8割ほどを倒したあたりだろうか。ミラベルが息を切らし始めた。
(魔力総量は、平均よりちょっと多いくらい、なのか)
こと魔法の扱いという一点において、彼女の才能は群を抜いているだろう。
だが、保有する魔力の量はとりわけ多いわけではないようだ。
上級魔法なら何発か打てるだろうけれど、超級や神級の魔法は魔力総量が足りずに発動できないだろう。
言葉にするなら、天才でありながら凡才。
「ラストォォォ! 【アクアスパイラル】‼」
それで、彼女は最後の化け蜘蛛を倒すと同時にへたり込んでしっまった。
「いやー、すごいな」
「これくらい、当然、です。でも、ちょっとだけ、休憩しても、いいですか?」
確かに、入口からここまでずっと歩きっぱなしだった。懸念事項だった化け蜘蛛も、今ここで一掃した以上強く警戒するほどではないだろう。
「そうだな。少し聞きたい事もある」
「聞きたいこと、ですか?」
「さっきの逆だよ。ミラベルなら、俺を見捨てて逃げてもよかった。というか、そっちの方が賢かっただろ。どうしてそうしなかった?」
「どうしてって……」
ミラベルは口を開けて、そのまま閉じた。
それから唇に指をあてて、思案気な表情をした。
暗いから見えていないと思っているのかもしれない。見えてるけどな。
「どうしてなんでしょうね。ジークを置いて逃げるだなんて、あの時は思いつきもしませんでした」
「……」
「ジーク?」
「いや、なんでもねえ」
顔、赤くなってねえかな。
いや、魔力感知では赤面までは見えないはずだ。
「にしても、どうして町中に魔物がこんなにいたんだろうな」
「それは――」
ミラベルに向けた問いかけは、彼女の口から返ってこなかった。
「ボクのせい、だよ」
「なっ⁉ 誰だ、いつからそこにいた‼」
代弁者が、いつのまにか背後に立っていたからだ。
「君たちがジャイアントスパイダーと戦っているころから。はぁ、ヒトの子供にひどいことするなぁ」
誰だ、の部分には答えず、代弁者はカラカラと笑いながらいつからの部分に答えた。
「
「あれ? 君は誰だい? どうしてボクの名前を知っているのかな?」
「忘れただと⁉ ふざけるな‼ 私は一日たりとも、お前を忘れたことは無かったッ‼ 【アクアスパイラル】ァ――ッ‼」
ミラベルの振るった杖から、激流が迸る。
その水勢たるや、これまでに見た彼女の【アクアスパイラル】の中でも一番のものだった。
だが。
「あはは、何それ。片思いってやつ?」
突如現れたのは、下水道を埋め尽くすほどの巨大な蜘蛛。
ミラベルが倒した化け蜘蛛よりも、さらに何倍も大きな体躯の超巨大な化け蜘蛛だった。
その蜘蛛の足先に、ミラベルの【アクアスパイラル】は直撃した。
俺は彼女の魔法が、石畳を豆腐のように引き裂く様子を見ている。
決して生ぬるい攻撃ではない。
「……ぇ?」
「君が誰だか知らないけれど、ただの魔術師の攻撃がボクに通用するわけないだろう」
無傷。
無傷でその蜘蛛はそこに立ちはだかっていた。
「この町は結構居心地がよかったんだけどなあ。君みたいなのも湧いてきたし、そろそろ引き際かな」
「待て! 逃げるな‼ 戦えッ‼」
「戦う? あはは、争いは同レベルでしか起こらないんだよ。僕が手を下せばそれは、ただの蹂躙だ。それでも、死にたいっていうなら」
体長6メートルはあろうかという化け蜘蛛が、ずんと地面を揺らしてこちらに向き直った。
「そいつが相手してくれるよ。まあ、せいぜい、足掻けばいいさ」
「待てッ‼」
「ミラベル‼ 危ない!」
「降りてこい‼
化け蜘蛛が、開いた口から白い糸を吐き出した。
予備動作でそれを察知していた俺は一足先にミラベルのもとにたどり着いていたから、彼女を脇に抱えてその場を離脱する。
「……」
去り際、
あの男、長い付き合いになりそうだな。
「ギリシャシャシャアァァァァァ‼」
「チッ、今はこの蜘蛛をどうにかしないと! 来い! スライム‼」
呼び出したるは、聖属性のスライム。
「【フラッシュ】だ‼」
真っ暗闇の洞窟に、閃光が迸った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます