不遇職【スライム召喚士】の異世界ライフ ~最弱の魔物《スライム》しか召喚できないハズレ職だからと追放された転生者、実は万能チートだったので悠々自適ライフを送ります~
一ノ瀬るちあ🎨
1章 スライム召喚士
第1話 異世界転生
中学の頃片思いしていた同級生に、子供ができてた。吐きそう。
*
『進路をきちんと考えておけ』
『何か目標をもって学業に励みなさい』
学生の時、大人たちが口ずっぱく言っていた言葉を、ふと思い出した。俺はバカだった。
その後悔じみた大人の忠告に、聞く耳を持たなかった結果が今の俺。誇れることなんて、何一つない。
それがヒジョーにまずいことだと痛感したのが、今日の同窓会だった。
「
……悪意は、無かったんだろうな。
例の、昔片思いをしていた人妻から問いかけられた。俺は、自分の息がヒュッと鳴るのを聞いた。
最初に断っておくと、俺、
「ビルメン……」
「ビルメン? なにそれ?」
「えっと、簡単に言うと、ビルの整備をする人かな」
「わかった! 窓とか拭いてる人だ!」
「……あー、まあ、そんな感じ」
歯切れの悪い答えになってしまった。
そもそも窓を清掃している人は別の業者だとか、いろいろ言いたいことはあった。
でも、全部飲み込んだ。
口を開けば最後、俺の業務内容がバレてしまう予感がしたからだ。
トイレ清掃。
それが俺の主な仕事だった。
言えるわけもない。
幸いなのか、あるいは不幸なのか。
話は、やれ誰々が大手自動車会社の課長になっただの、やれ誰々が社長秘書になっただの、話題性のあるところに花を咲かせ、俺への関心はたちまちどこかに霧散した。
どうしようもない焦りだけが膨れ上がる。
……俺、何してんだろう。
いや、何をしてきたんだろう。
俺ももう28。決して若くない。
あと2年も経てば、魔法使いになっちまう。
何も誇れるものもないままに。
あの時。
教師や親が言うように、必死に勉強していれば、部活動に打ち込んでいれば、何かが変わったのだろうか。
よりよい大学、よりよい企業に進み、今よりマシな生活ができていたんだろうか。
なんて考えたってもう、今更だけど。
「徳重ぇ、2次会行くか?」
劣等感にさいなまれ、無力感に打ちひしがれ。
「いや、俺は、明日も仕事あるし」
「そっか。大変だな」
蔑むような眼から、逃げ出した。
逃げた先は、通いなれたはずの道だった。
だけど、気づけば迷い込んでいた。
カンカンと、頭に遮断機の音が鳴り響く。
フェンス越しに、1両編成の列車がレールの上を走り抜けていく。
だから、その現場に居合わせたのは、本当に偶然だった。
「ん?」
差し掛かった十字路を一人で歩く女性に向け、1トントラックが背後から迫っている。
瞬間、気づいた。
運転手がハンドルに突っ伏している。
前方を歩く女性に、まるで気づいていない!
まずい! 知らせなきゃ!
「逃げて!」
「え? きゃあぁぁぁぁ――っ‼」
振り返る女性に向かって一直線に、制御を失った鉄塊が急接近する。寸秒後に、女性はボンネットに叩きつけられ、ガラスを割って宙を舞うだろう。
早くトラックの進行軌道上から逃げ出してくれ。
慌てて声を張り上げた、その時だった。
――パキン!
嫌な音が乾いた空気を切り裂いて、女性が糸の切れた人形のようにその場にへたり込む。
めかし込むように底上げされたハイヒールのピンが、最悪のタイミングでへし折れたのだ。
「……ぁ」
女性の口から、泡のように頼りない声がこぼれた。
その声を聞いて、俺はその女性の正体に気づいた。
昔、片思いをしていた相手だった。
(なんで、こんなところに……!)
だから、とっさに――
「危ない――」
低姿勢で道路に飛び込んで、彼女を掬い上げて、放り投げた。乱暴すぎる勢いで、向かいの道路に彼女の体が転がり込む。
刹那。
「ガッは――⁉」
全身が、バラバラになったと錯覚した。
天と地がないまぜになって、音も光も遠のいていく。
体の芯がカッと燃え上がる。
だけど末端から、体温が見る見るうちに失われていく。
声を出そうとして、血が飛び出した。
これ、死――
(――俺、なにやってんだろ)
最期に考えたのは、死ぬことの恐怖ではなく、漫然と生きてきたことに対する後悔だった。
(ちくしょう……こんなはずじゃなかった!)
俺の人生、なんだったんだよ!
何のために生まれてきたんだよ‼
くそ、くそっ!
(もう一度、やり直したい)
後悔したままなんて嫌だ。
もしも次があったなら。
今度こそ、全力で生きていく。
二度と後悔なんて残さない。
だから、だから――。
そんな、叶わぬ夢に思いをはせながら、
徳重叶汰は、死んだ。
はず、だった。
「旦那様! 生まれましたよ! 男の子でございます!」
「おお! でかしたぞ! ほう、これが我が子か。うむ、お前は今日からジークだ。ジーク・ウィッシュアートだ!」
ジーク?
誰のことさ。
と、その時。
体重70キロはあるはずの俺の体が軽々と持ち上げられるのを感じた。そんな馬鹿な。
なんだか妙に重たいまぶたを押し上げると、精悍な顔立ちをした男性が、力強いまなざしを俺に向けていた。
「剣聖の息子の名に恥じぬよう精進するのだぞ!」
……え、俺?
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