第47話 一方
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「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ…」
誰かの荒い呼吸が、耳元で聞こえた。
自分の心臓も、ずいぶん早く脈打っている。息を吐いて、吸って、吐いて、吸って。ゆっくりと。胸に手を置いて、鼓動を落ち着かせる。
いくらかの沈黙の後、ゲンが口を開いた。
「おい、皆、ケガ、ないか?」
初めに皆の安全を確認するところは、いかにもゲンらしいと思う。でも、今はそれどころじゃないかな、と思ってしまった。
「あたしは大丈夫だけど!ユウ君が!ユウ君が落ちちゃった!」
そうだ。ミコトが心を乱している。それもそうだろう。ユウトはミコトを巻き込まないように自分を犠牲にして、空いた穴に落ちてしまったのだから。
それを助けられなかった自分に、責任を感じているのだろう。
ミコトは今にも泣き出しそうだ。彼女は自分のせいで仲間に危険が及ぶと、どうしても周りが見えなくなってしまう。彼女が仲間思いの優しい性格なのはわかるけど、それが良くない場合もある。
「ミコト、まあ落ち着けって…」ゲンがミコトの肩に触れて、慰めている。
ちらと、コウタを見た。コウタはいつもうるさいくせに、押し黙っている。たぶんコウタも、自分が悪いと思っているのかもしれない。ユウトがコウタを庇わなかったら、ああはなっていなかったはずだから。
あんたのテンション高いところは、こういう時に必要なんだけど。と口には出さなかったが、胸中で呟いた。
はあ、と溜息が出た。
そういう自分はどうなのだろう。頭は回っている。動揺もしていない。周りも見えている。
こんな時に平然としていられる自分に、少し嫌気が刺した。皆より、慣れている、という理由もある。けれど、それは良いことなのか。慣れることで、感情が鈍くなっているのかもしれない。
でも今回は、それだけじゃない、と私は思った。
「ミコト、回復役のあんたがそれじゃ、どうにもなんないでしょ?」
「で、でも、ハルカちゃん…!あたしの手が届いていたら…!」
「ほら、見てみて」私はコウタを指さした。「コウタ、あんた左腕、ケガしてるでしょ?」
コウタはびくっと身じろぎをした。隠しても無駄だ。さっきから、左肩が下がっている。
「…ホントだ!ごめん!全然気が付かなくって…」ミコトがコウタに駆け寄ると、コウタはふいっとそっぽを向いた。
「いいよ、こんくらい。平気だって」
「あんた、変なとこで意地張らなくていいから。ミコト、治療してあげて」
ミコトは静かに頷くと、一枚の式紙を取りだして、コウタの腕にかざした。
これで、ミコトも少しは落ち着くはずだ。あとは。
「悪い、ハルカ。俺…」ゲン視線を足元に落としながら、私に言い寄った。
「ちょっと、ゲンまで何しょぼくれてんのよ。シャキっとしなさいよね」
私はゲンの背中を掌でバン、と叩いた。これだから男ってやつは。ゲンは鎧を着ているから、ちょっと手が痛い。
「お、おう、ありがと。…で、これからどうする?」ゲンは一瞬驚いていたが、すぐに真剣な目になった。
「そうね…、まず、あいつをなんとかしなきゃね」
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