第46話 光
「何なんだ、ホント、ここ…」
そう声に出しても、返してくれる言葉はない。ただ静寂の中に、溶け込むだけだ。
一人なんだな、と実感する。でも、一人は、わりと嫌いじゃない。嫌いというか、好きな方だ。誰にも迷惑かけないし、誰かに見られることもないから、変に気負う必要もない。
だからって、皆といたくないわけじゃない。皆といる時はいる時で、楽しい。自分が持っていない考えを聞くことができて、見て、聴いたものを共有することができる。
特に今は前の記憶が無いから、耳に入ってくる言葉全てが新鮮だ。
「これもミコトが見たら、喜びそうだな…」
おれは、壁いっぱいに描かれた壁画を見ていた。
どれぐらい歩いたか分からないが、とりあえず風が来る方へ足を進めていった。幾つか部屋みたいな空間を通り過ぎて、着いたのがこの壁画が描かれた大きな部屋だ。
遺跡の地下は外の明かりがないが、幸いここにもヒカリゴケが生息してくれていたおかげで、前が見えない手探り状態という危機は回避できた。
この部屋にも、壁画全体が分かるほど、ヒカリゴケが壁や天井に張り付いている。
数メートルに及ぶ壁画には、人と思しき絵と、見るからに人じゃない生き物、それに、巨大な人間の絵が浮かび上がっていた。
「何を描いてるんだろ…」
大勢の人が、人じゃない生き物と向かい合っている。生き物の後ろには、巨大な人間が、手を広げて、何か祈っている…?
向かい合っているというのは、人と、この生き物が戦っている、ということなのだろうか。だったら、この後ろにいるでかい人間はいったい誰なのだろう。生き物の味方なのか。それとも、生き物を従えているのか。
それに、この生き物。黒くて、目が赤い。数日前戦った黒い化物を彷彿とさせる。でも、この絵は形がいまいちはっきりしていなから、そう見えるだけかも。
「まったくわからない…」
歴史には、それほどどころか、全然詳しくないし、覚えてもいない。ミコトなら、もしかしたら分かるかもしれないけれど。そして、コウタがバカみたいな発言をして、ハルカが突っ込みを入れる。ゲンがそんな彼らを見守る。
そんな風景が思い浮かんだ。
おれは深く息を突いた。
そもそも、おれがこんなことを言い出してしまったから、彼らをこんな危険な目に合わせてしまった。
もともとは、ショウからの指示だから、原因はあいつなのだが。でも、おれも何も疑わずに行動してしまったことは良くなかっただろう。もう少し、慎重にやるべきだった。
結局ショウはおれたちに何をさせたかったのか。遺跡に来させて、危険な目に合わせて。
もしかして、弄ばれているだけなのか。
時間を巻き戻して、もう一度正しい選択をしたいという気持ちが沸き上がってくる。
分かっている。またしょうもないことを考えているって。
記憶を奪われる前のおれなら、もっとうまくやっていただろうか。いや、やっていてもいなくても、ショウに全責任を押し付けたくなる。
駄目だ。そうやって、人のせいにしている場合じゃない。今はとりあえず、目の前の問題を解決しないと。
そうして、壁画を横目に足を踏み出した時。
「————ん?」
風が来る方から、光が見えた。間違いない、この部屋の、向こう側だ。
おれは歩く速度を速めた。もしかしたら、外に通じる道があるのかもしれない。
光に近づいてきた。徐々に明るさを増していく。
そこに着いた瞬間は、眩しさで目を細めた。だんだん目が慣れて周りの風景が鮮明になっていく。
はっきり言うと、そこは出口に通じる道じゃなかった。明るくなっていたのは、天井に穴が空いていたからであって。
そして、穴の真下の、瓦礫の山に横たわっていたのは。
「…女の子?」
一人の、少女だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます