第38話 遺跡
「おいおい、嘘だろ…」
そう声を漏らしたのは、コウタだった。口を開けて、あんぐりと上を見ている。皆も、それを注視している。
遺跡。
そう呼ぶにふさわしい存在感だった。
粗く削られたブロック状の石を幾つも積み重ねて三角錐型に造られているそれは、苔むして、所々がひび割れている。そこから草が根を伸ばし、緑と茶色のまだら模様を描いていた。
「なんで、こんなところに、遺跡が…?」
ゲンが額に汗を浮かべて、呟いた。そして、ちらと目線をミコトに寄越した。
「あたしも、わかんない…」
ミコトは、魔術だけじゃなく、考古学についても明るかった。
以前聞いた話によると、どうやら遺跡は個々の地域で多数確認させているらしい。
狭間の森の東側には、遺跡群が佇む遺跡平原が存在する。そこはかつて街の中心部だったようで、そのほかにも、アルドラの街周辺には幾つか遺跡が点在している。
「…でも、大樹の森に遺跡があるなんて、聞いたことが無いよ…?」
ミコトは大きな瞳を遺跡らしきものに向けた。
そうなのか。彼女はよく仕事の無い日には読書と勉強をしている。
この世界の紙はとんでもなく高いため、それを趣味にする者は限られる。そんな彼女ですら知らないとなると、間違いないだろう。
未知の遺跡。
そして、ぼやけていたものが確信に変わった。
ショウは、おれをここに連れてきたかったんだ。
まだ、ここで何をさせたいのか、本当の目的は分からない。ただ、今点と点が繋がった気分だった。
「…あ!コウタ君!?」
ミコトが驚いた様子で声を荒げた。見れば、コウタがすたすたと遺跡に近づいているではないか。
その遺跡には、出入り口らしきものがあった。人が二、三人分入れそうな大きさの幅だ。コウタはその出入り口の縁に触れて、中を覗きこんだ。
「おい…」コウタはこちらに振り返って中を指さした。よくわからない変な表情をしている。
「奥、下に続いてるんだけど…」
や。そんなこと言われても。
「どう、する…?」
おれたちは顔を見合わせた。
***
「結局、中、入るんだ…」おれはハルカをじとっと見つめた。
「う、うるさいわね、ちょっと気になっただけよ!それにミコトも行きたいって言うし…」
ハルカは目の前のミコトに視線を送った。
「わぁ…!」ミコトの目は輝いている。すごく、嬉しそうだ。そんなに興味津々だったのか。
それもそうか。趣味で考古学の勉強をするくらいだ。未知の遺跡となると、心躍らずにはいられないのだろう。
結局、興奮しているミコトとコウタを抑えきれずに、足を踏み入れてしまった。まあ、どのみち外は霧だらけで帰れないし、ショウの指示のこともある。入る以外考えられない。
おれは改めて遺跡を一望した。
それなりに大きな遺跡だ。ブロックでできた外側の三角錐部分の高さは三メートル以上あったが、中はそれ以上だ。どうやら、地下を掘って造られているらしい。
出入り口から入って、すぐに外の光が届かなくなってきた。
廊下はまだまだゆるく下に続いていて、背筋にすっと悪寒が走る。異様な雰囲気がこの遺跡を取り囲んでいる。威厳というか、畏怖というか。言葉に出来ない。
「何?ユウト怖いの?」ハルカがにやっと笑っておれを下から見上げた。
「い、いや!そうじゃなくて…!」
「もう、ほんと臆病ねあんた。大丈夫だって」ばんばんとハルカはおれの背中を叩いた。けっこう痛いんだけど。
進むたびに、奥から這い上がるよう漏れる冷たい空気が足元を掠める。
ただ、遺跡の中は案外明るかった。石と石の隙間から、淡い青白い光が漏れている。おかげで、松明が要らないほど明るい。
「ヒカリゴケの一種かな…?」
ミコトが眉をひそめて唸った。
これは、苔なのか。そういえば、どこかで聞いたことがある。洞窟などの暗い場所には、光る苔があるとかないとか。
その光が通路のあちらこちらで瞬いている。まるで夜空に散りばめられた星のようだ。その光景は幻想的で、不気味でもあった。
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