#63 比翼連理
ヒメカさんの熱烈なキスが続けられ息が苦しくなり、必死に背中をタップして降参の意を表明すると、ようやく解放してくれた。
『はぁはぁ、荒行の、後だというのに、はぁはぁ、元気一杯、ですね、はぁはぁ』
「だって!ようやくなんですよ!」ムフームフー
ヒメカさんはいつの間にか泣き止んでいた。
そこで二人とも、ハッ!と気が付く。
更衣室には、ママさんも居た。
ママさんは凄く嬉しそうに、そしてニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべていた。
『ひぃ!?』
「あら、ママのことは気にしなくていいのよ? うふふ、良い物見れちゃった☆」
「ま、ママ!?」
「森山くん、今日はウチに泊まって行きなさいね。 ヒメカちゃん一人じゃ立ち上がるのも大変だし、森山くんがお世話してあげてね」
『なんですと!? し、しかしママさんの言う通りヒメカさんにはしばらく介護が必要でしょう・・・ならそのお役目はこの僕にしか。 丁度いいタイミングで明日から冬休みですし、聖女様たるヒメカさんのお世話、この森山イチロー、確かに承りました。粉骨砕身で頑張る所存です』
「も、森山くんがおウチに泊まるの!?」ムフー
「森山くんのお母様には、私の方から連絡しておくから安心してね?」
『お気遣い、ありがとうございます』
漆原さんがシャワーを浴びている間、僕は道場の先生の所へ見学させて頂いたお礼の挨拶をしていた。
先生は、最近の漆原さんのことを教えてくれた。
「1カ月くらい前にフラっと現れて、髪を短くしてボサボサでな、軟弱な自分を戒めるために自分で切ったって言ってたよ。 それで次の日も道場にやってきて、真剣な顔して百人組手に挑戦させて欲しいって」
『そうでしたか・・・漆原さんに代わって厚くお礼申し上げます』
先生だけでは無く、他の生徒さんたちにも頭を下げてお礼をした。
◇
ヒメカさんが着替えを終えると、今度は背中におんぶして道場を後にして、ママさんの車で3人で漆原邸へ帰った。
ヒメカさんを部屋まで運びベッドに寝かせ、荷物などの片付けをするため立ち上がろうとすると、服の袖を掴まれた。
『どうしました? 飲み物でも用意しましょうか?』
「ううん、飲み物よりもチューしてほしいの」
『むむむ、恥ずかしいですが、既に経験してますし、ここは致し方ありませんね』
そう言って、目を瞑って口でキスを待ち構えるヒメカさんのオデコにキスした。
「お、オデコじゃなくて! ん~もう!」
サッと立ち上がって逃げるようにヒメカさんの荷物を片づけ始めた。
あれだけの荒行をして体はすでに限界でボロボロだというのに、甘えモードは健在だ。 そういうトコロは相変わらずで、ヒメカさんらしいや。
ママさんが、軽食を用意してくれて部屋まで運んでくれたので、二人で遅い夕食を済ませる。
更にママさんが、僕用のお布団をヒメカさんの部屋まで運んでくれて、今夜はココで二人で寝ることに。
確かに介護する為には傍に居る必要があるが、果たしてコレはどうなんだろう?
漆原パパ的には容認できないのでは?
そんなことを一人で考えて居ると、グッドタイミングで漆原パパが帰宅し、部屋までやってきた。
「ヒメカ、体は大丈夫か?」
「うん、心配かけてごめんね。パパ」
「それで君が、噂の森山くんか?」
勢いよく立ち上がり、直立気を付けの姿勢で挨拶する。
『初めまして!森山イチローと申します!漆原さんには大変お世話になっております!』
「そっかそっか、ヒメカのことよろしくね。じゃあ、パパは食事とお風呂あるから」
そう言って、あっさり部屋から出て行った。
『あ、あのヒメカさん? パパさん的には、大事な娘さんの部屋にボーイフレンドが一緒に寝泊まりするのはOKなんでしょうか?』
「う~ん、森山くん用のお布団見ても何も言わなかったし、多分大丈夫ですよ。そもそもママがお布団用意したんだし」
『なるほど・・・』
「と、言いますか! コレってリベンジのチャンスですよね! 一緒のお布団で寝る!」
『そ、そうですね・・・』
今度は僕が覚悟を決める番だ。
『じゃあ、明日は病院で検査もありますし、今日は早めに寝ましょうか・・・』
「ひゃい!」
ママさんが折角布団を用意してくれたが使わずに、ヒメカさんのベッドに『お邪魔します』と言って僕も入る。
ヒメカさんがリモコンで照明を小さいオレンジに切り替えると
「う、ううううウデマクラを!」
『ハイ』
左腕にヒメカさんの頭を乗せ、体を密着させる。
「うふふふ」ムフー
『体痛くないですか? キツかったら言ってください』
「大丈夫ですよ。 鍛えてますから」
『そういえば、どうしてあんな荒行に挑戦しようと思ったんですか?』
すぐ目の前から聞こえるヒメカさんの吐息を聞きながら、質問した。
「えっと・・・森山くんに相応しい女性になりたかったから?」
『むむむ? 聖女様たるヒメカさん程の女性なら、僕の方こそ釣り合っていないのですが』
「ううん。 私はあの日まで、恋に恋して自分が如何に我儘で自分勝手だったのか気付けなかったの」
『そんなことは無いと思いますが』
「そんなことあるよ。 森山くんはいつでも私の体調を第一に考えてくれてたのに、私は森山くんに負担を掛ける事ばかりしてたの。 そんな自分に気が付いて、今の自分は森山くんには相応しくないって判って。 でも森山くんのことが諦められないから、自分を変える為に根性叩き直そうと思って百人組手を思いついたの」
『そうでしたか・・・でも無茶しすぎです。大切なお体なんですから』
「そういうところだよ?森山くんが素敵なのは。いつでも私のことを一番に大事にしてくれて」
『そ、それは当たり前です。 大切な人なんですから』
僕の言葉を聞いたヒメカさんは、いきなり抱き着いてきた。
「ずっと我慢してきましたから! 今夜はいっぱい甘えます!」
そう言って、僕の胸に顔をグリグリと埋めた。
僕は空いている右手で、髪が短くなってしまってから初めてヒメカさんの頭をそっと撫でた。
◇
翌朝、目を覚ますと、僕の腕枕で寝ていたヒメカさんも既に目を覚ましていた。
『おはようございます、ヒメカさん』
「おはようございます、イチローくん」
『体の方は如何ですか? 動かせますか?』
「うん、イチローくんのお陰で大丈夫ですよ」
『おや? 僕のことも名前呼びですか?』
「うふふ、そうですよ。 嫌でした?」
『嫌じゃないです』
「じゃぁこれからはイチローくんって呼びますね」
そう言って、ヒメカさんは僕の唇に軽くキスしてくれた。
お布団の中で抱き合ったままイチャイチャしていると、ママさんが僕達の朝食を部屋まで運んでくれた。
二人とも起きて用意してもらった朝食の前に座る。
二人で手を合わせて「頂きます」と食事を始めた。
「イチローくん、あーん♪」
『あーん』もぐもぐ
『ヒメカさんも、あーん』
「あーん」もぐもぐ
久しぶりの「あーん」だ。
ヒメカさんはニコニコ笑顔で幸せそう。
その笑顔は僕の気持ちも幸せにしてくれる。
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