#41 二人は一心同体
先週と同じように、二人はテーブルに並んで座り、黙々と問題集に取り組んでいる。
重い空気の中、問題集を解くシャーペンの音だけが響く。
カリカリカリカリカリ
カリカリカリカリカリ
しばらくするとイチローは、手を止めて話し始めた。
『漆原さん、先ほどは言い過ぎました。ごめんなさい』
勉強に向き合うことで冷静さを取り戻したイチローは、自分の言動を省みて反省と謝罪の言葉を口にする。
「ううん! 寝てるところに抱き着かれてたら誰だってビックリしちゃうから・・・私こそ本当にごめんなさい・・・」
同じくヒメカも冷静に反省していた。
しかし今日のイチローはここで終わらない。
そう、イチローは自分を変えようとしているのだから。
『えーっと、違うんです。 確かにビックリしたし動揺したって言いましたけど、それだけじゃなくて、昨日話した様に自分を変えたいと思ってまして、漆原さんには積極的に関わって行こうと思ってたんです。 だけど、どうやら僕は昔からその辺りの
「森山くん、私は余計なお節介だなんて思いませんでしたよ? 確かにイケイケのヤリ〇ンとか大げさ過ぎる!って思いましたけど、森山くんが大げさなのはいつものことですし、怒ってたのも私のことを思ってのことだって分かりましたから」
『そんな風に言ってくれる漆原さんだからこそ、僕はついムキになってしまうんでしょうね・・・』
『一昨日、ハルコに相談したんです。 自分を変えたいって。 でも僕が何かすると他人にどう思われるのか怖くて、また空気読めないとか親切の押し売りとか言われるんじゃないかと思うと』
「うん」
『それでハルコがアドバイスしてくれて。 自分から行かなくてもいいから、人から来てくれた時は拒まない様にしたらって。それと、漆原さんにはもっと積極的に関われって。 僕もそうしようと昨日から早速心掛けてたんですけど、やっぱり加減が出来ずに言い過ぎてしまいました』
「森山くんが悪いなんてことは、本当に無いんですよ。 昨日の朝、森山くんが教室で挨拶してくれたことが凄く嬉しかったんです。 自分から変わろうと考えてることを話してくれたのも凄く嬉しかったです。 森山くんとの距離が近くなったように感じたし。 それで私は・・・調子に乗ってしまいました」
『え?漆原さんが?』
「はい・・・今朝1時間以上も早く来ちゃったのも、寝ている森山くんを起こそうと勝手に部屋に入っちゃったのも、寝ている森山くん起こさずに一緒に寝ちゃったのも、調子に乗ってました・・・森山くんが怒るのも無理ないくらいに調子に乗って色々失態を重ねました・・・」
『えーっと、漆原さんって、ずっとそんな感じでしたよ? 元々素ではそういう方だと思ってたので、今の話聞いても何を今更って思いますし』
「え!? ちょっと待って下さい! え!?え!!?」
『僕が待ち合わせよりも早く行くと、迷惑がるどころか喜んでましたし、手を繋ぎたがったりハグしたがったりスキンシップは積極的でしたし、嬉しい時とか興奮するとすぐ僕に抱き着いたりしてましたしね。 ただ、ベッドで抱き着いて一緒に寝るっていうのは貞操観念的にも看過出来ずに思わず怒ってしまいましたが』
「い、言われてみれば今までそうでしたね・・・ちょっと冷静になりましょう!」
『僕はもう冷静ですよ?』
「わ、私が冷静じゃないんです!」
ヒメカはそう言うと、正座に座り直して一礼し、目を閉じて精神統一を始めた。
今回は3分程で目を開く。
「分かりました・・・森山くんと私は既に運命共同体!一心同体!」
『え? 急に何言いだすんですか?漆原さん、ちゃんと精神統一出来てます?』
「もう! 話は最後まで聞いて下さい!」
『はぁ、では続きをどうぞ』
「森山くんは、私との関わりを積極的に増やそうと考えてくれてます。 私も以前から積極的に森山くんと関わってきてます。 これってもうお互い同じ考えなんだから、そこに遠慮とか他人行儀さとか不要ですよね!二人の間にはもう障害は無いんですよ! だから一心同体なんです!運命共同体って言えますよね!」
『そうなんですかね?』
「そうなんです! それに、生徒会のお手伝いのお陰でこれからは学校でも一緒に行動する機会が増えますからね!」
『運命共同体っていうのは大げさだと思いますが、でも、漆原さんの傍に居られるのは嬉しいし、学校では漆原さんほど頼もしい方は居ませんからね。 これからもよろしくお願いします』
「傍に居られるのは嬉しい・・・・」
『ん? どうしました急に』
「傍に居られるのは嬉しい・・・・」
『大丈夫ですか? またトリップしてますか?』
「傍に居られるのは嬉しい・・・・」
『はぁ、急にポンコツモードになるのも、いつものコトでしたね・・・』
「森山くん! 今、傍に居られるのは嬉しいって言ってくれましたよ! ね???」
『はぁ、言いましたね。 それよりもそろそろ勉強再開しましょうか。 月曜にはもうテスト始まるんですから』
「森山くん! 私も嬉しいです!!!」
そう言ってイチローに抱き着くヒメカ。
『ぬお!?』とビックリしながらもしっかり受け止めるイチロー。
廊下には、聞き耳を立ててニヤリほくそ笑むハルコ。
無事に仲直り出来て、互いの間に有った気まずさ等は綺麗に無くなっていた。
ヒメカは言った。
「遠慮とか他人行儀さとか不要ですよね!」
今二人の距離は確かにグっと縮まった。
しかし、それはあくまで友人としての距離であり、恋愛的な距離はまた別だということも忘れてはならない。
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