第5話
叔父さんの運転する車はさらに奥多摩駅方面へ十分程進み、前後をトンネルに
四方を完全に山に囲まれ、下を流れる細い多摩川の水面までかなりの高さのある橋の上だと言うのにバス停があることに驚きながら、
「ここにクマがいるの?」
叔父さんに尋ねる。
「今朝の通報だと、ほら、橋を渡ったトンネルの入口前に右に曲がる道があんだろ、そっちに入った先で目撃されてんだ。山の方へ帰ってりゃそれで終わりだけど、トンネルの上を渡ってこっちに向かって来たら小せぇ集落がある。今年は梅雨が長かったせいか山も荒れてて食いもんが少ねぇのか、たまに来……」
そこでふいに、フロントガラス越しに指差しながら説明してくれている叔父さんの言葉を遮って無線から声が響き、そのかすれたような音声に慣れない僕には何を言っているのかよくわからなかったが、
「マジで来たな。行くぞ」
叔父さんが他の誰よりも早く車を走らせ始めトンネルへと入った。
僕はトンネルを抜けたら目の前にクマがいるのでは無いかとどきどきしていたが、そこには人っ子一人無く、しかし確かに小さな集落があり、細道に入った叔父さんの車は数十メートル進んで停車した。
「ちっ、
無線機に言いながら叔父さんが
クマは本来肉食では無く雑食であり、ゆえに人間の残飯も食べるという。
近くにクマがいる証拠の発見に、興奮と
「ヤスだ、爺さん、今家にいるか?……あぁ、じゃあそのまま何があっても出て来んな。あとでおまわりが説教に来んから真面目に聞けよ、じゃあな」
ため息をついて再び無線機を手に取った。
「ここの集落は、こう、道が細長い円形になってる周りに家とかがちらほら並んでんだ。なんで、とりあえず会のメンバーをその道に均等に配置して周りを警戒することになるな」
と言ったそばから、無線機からは同様の指示と思われる声がノイズ混じりに届く。
「残念ながら俺らはいちばん奥のカーブの辺りだな。クマからいちばん遠いかも知んねぇが、まぁ追い回してりゃ来るかも知んねぇし、望みは捨てんな」
どうにかしてクマを見せてくれようという気遣いらしき言葉と、担当地点に辿り着き急ぎ車を降りて周辺の人家の扉を叩きながら、
「おい!誰かいるか!?クマ出てんから鍵かけて家ん中で大人しくしてろよ!」
などと叫んで回る姿に、なるほど、本当に根はいい人っぽい、などと頷いていると、叔父さんは車に戻ってきてバックドアを開き、猟銃を取り弾をこめ、さらに一掴みの弾をジャケットに収めると、
「んじゃ、お前も鍵かけて大人しくしてろ。窓も開けんなよ」
少し真剣な口ぶりを残してドアを閉めた。
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