女神聖教七天使徒『愛教徒』ラピュセル・ドレッドノート②/学園ダンジョン

「どうなっているんだ……!?」


 エルウッドは、完全に後手に回っていた。

 王族であるが故の特権。歴代王族が使った完全個室の王族専用学生寮で目を覚まし、顔を洗い、制服に着替え、朝食を取るためにダイニングルームへ向かおうと部屋のドアを開けた瞬間、目に飛び込んできたのは見慣れた通路……ではなく、教室棟にある空き教室だった。

 意味が分からず、空き教室に入りドアが閉まる。すると、いきなり『銅色の兵士』が現れた。

 兵士の手には、銅の剣が握られている。

 

「お前たち、何も───……」


 と、声をかけた瞬間、エルウッドは襲われた。

 斬撃を回避し、エルウッドは冷や汗を流す……本気で、殺すつもりの斬撃。

 腰に手を当て舌打ちをする。

 今のエルウッドは丸腰。起きて顔を洗い制服を着ただけなのだ。戦闘準備なんてしていないし、武器が入った『ウェポンボックス』や『アイテムボックス』は机の上だ。

 ヤトのように、『安全な校内』で装備を外さない者はそうはいない。

 

「数は七、武器はなしか……問題はない!!」


 エルウッドは、スキル『神速』を発動。

 このまま殴れば倒せるだろう。だが、エルウッドの拳が壊れてしまう。 

 なので───……エルウッドは、教室にあった椅子を掴み、それで兵士の頭を叩き割った。

 砕ける椅子。そして、頭がひしゃげる兵士。

 兵士は粒子となって消えた。


「スキルで作られた兵士……なら、容赦はしない!!」


 素手でも、エルウッドは強かった。


 ◇◇◇◇◇◇


「ね、ね、マジでどうなってるの?」

「オレが知るか」


 フィーネとガンボは、寮のリビングで『銅の兵士』と向かい合っていた。

 いきなり現れた銅の兵士。わけがわからなかったが───……。


「二人とも、下がってください」

「ソフィア先生~……何がおきてるの?」

「不明です。ですが、あれは敵のようですね……」


 ソフィアは、読みかけの本を手に取る。

 フィーネとガンボは気付いた。ソフィアの纏う空気が、いつもと違う。


「生徒を守る、それも教師の仕事」


 銅の兵士が、ソフィアに向かって走り出す。

 ガンボが両手を鋼鉄化し、フィーネが構えを取る……が、ソフィアは二人を手で制する。

 ほんの少しだけ笑みを浮かべ、ソフィアは本を開き、適当なページをめくって破く。


「寮内は、関係者以外立ち入り禁止です」


 ソフィアが本のページを投げると、鋭い刃と化したページは銅の兵士の頭を貫通。兵士は粒子となって消滅した。

 さらに、ソフィアは別な銅の兵士に接近。スリッパのままハイキックを繰り出す。


「シッ!!」


 スリッパが鋼鉄化、さらに鋭利なエッジが搭載され、兵士の頭を切断。

 スリッパを靴飛ばしのように飛ばすと、ガンボたちに接近していた銅の兵士に突き刺さった。

 ソフィアは、部屋の隅に置いてあった掃除用の箒を手に取り、残った銅の兵士を一刀両断した。


「さて……これで終わりですかね」

「「…………」」


 唖然とするガンボ、フィーネ。

 フィーネは、恐る恐る聞く。


「そ、ソフィア先生……めっちゃ強くない?」

「そんな、大したことありませんよ」


 ソフィアは苦笑する。

 ちなみに、ソフィアが元王国騎士筆頭、スキル『武装化ウェポンマスター』使いのソフィアと知るのは、学長のポセイドンと教頭のエルシだけである。

 触れた物を武器化するスキル。リビングなど、ソフィアにとって武器庫と変わらない。


「……うかつに動かない方がいいでしょう。まずは、戦闘準備を」

「「は、はい」」


 二人は、思わず姿勢を正して返事をした。


 ◇◇◇◇◇◇


 エルクが勢いよくドアを開けると、そこにいたのは……。


「ふごぉ~~~……、ふごぉ~~~……」

「…………」


 学園長、ポセイドンの私室だった。

 花柄の布団、ハートマークだらけのパジャマを着て、水着の女性がプリントされた抱き枕にしがみついて眠っている。

 なにこれ悪夢? と、エルクは呆然とする……だが、頬をパンと叩いた。


「校長先生!!」

「んひゅぉっ!? なな、なんじゃなんじゃぁ!? ええ、エルクくん!? なんでワシの部屋にぃ!?」

「お、落ち着いてください。校長先生、敵襲です!!」


 ポセイドンは、ベッドから飛び起き左右を見渡す。

 エルクはドアを閉め、ポセイドンに説明した。


「先生、原因はわかりませんけど、学園のドアを開けると別の入口に繋がっちゃうみたいで……」

「ふむ……あいたたた、二日酔いが」

「…………」

「と、とにかく、異常事態というのはわかった。なんとか教職員と連絡を取って、事態の対処をしよう。参ったの……上級生がダンジョン実習で留守の時に、また学園が襲われるとは」

「俺は、この原因を探ってみます。とりあえず、適当に!!」


 エルクはドアを開ける。

 すると、訓練場に繋がった。


「おお、本当に繋がっておる……どういうスキルなんじゃ?」

「わかりませんけど、行ってきます!!」


 エルクは訓練場へ飛び出すと───……いきなり空中から『銅の兵士』が降ってきた。


「なっ……うぉぉっ!?」


 エルクは横っ飛びする。

 銅兵士がエルクのいた場所に剣を突き立てながら着地した。

 意思のない、冷徹な人形。エルクは迷わず敵と判断、攻撃する。


「くらえ」


 両手に『念』の力を集め、片手で持てるほどの大きさの『玉』を作って放つ。

 連続で、向かってくる銅兵士に『念動弾』をぶつけると、銅兵士はひしゃげて吹っ飛んだ。


「大したことないな……とにかく、この『ダンジョン化』の元凶を突き止めて倒さないと。これだけの規模、間違いなく神官が動いてる。それに、この妙な人形……」


 現在、早朝。

 これから起きる者も多いだろう。ドアを開け、いきなり別室に踏み込み、この銅兵士が現れたら? ろくな装備もないまま戦うことになる。

 ガンボやフィーネのように、素手でも戦えるならともかく、早朝で寝ぼけた頭で戦闘をするなんて、考えただけでも恐ろしい。

 間違いなく、被害は出る。

 すると、エルクのフードの中にいたシルフィディが、エルクの耳元で言う。


「ね、ね。かなり強い『変な感じ』が、あっちからする」

「変な感じ?」

「うん。パパみたいな、すっごい大きな力……ううん、パパよりも大きな力」

「神官のチートスキルか……」

「でもでも、すっごい絡み合ったお団子みたいなところにいるの。すっごい大変な気がするの」

「……とにかく、行くしかない」


 すると───……今度は、『苔色の巨人』が現れた。

 デカい。銅兵士の三倍以上、横幅もかなり大きい。

 煉瓦を積み重ねて作られたような巨人は、巨大な拳を振りかぶる。


「とりあえず、雑魚を始末しながら行くぞ!!」


 エルクは両手に『念動弾』を溜め、巨人に向かって突っ込んだ。

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