優勝賞品
第一期・新入生武道大会。
チーム戦優勝・チームガンボ。
メンバー・ガンボ、エルク、フィーネ。
優勝賞品・ショッピングモール全飲食店の無料券100枚セット。
個人戦・優勝者なし(表向きはなし。優勝者はエルク)
優勝賞品・学生寮。
元教職員用の寮。新しい建物が完成し、教職員はそちらの方へ引っ越ししたため現在は空き家。学生寮にリフォーム工事し、優勝者エルクに進呈された。
生徒数名がこちらへ移動。移動の理由は『寮の自室内が雨漏りしているため、やむを得ず引っ越しした』ということになっている。
これが、エルクがもらった優勝賞品、『学生寮』についてである。
話は、少し前にさかのぼる。
エルクが、ポセイドンに呼び出し後、エマたちと合流した直後。
◇◇◇◇◇◇
「ってわけで、俺の寮に来る?」
エルクは優勝賞品として『学生寮』をもらったことを説明すると、ニッケスが食いついた。
「マジか!! はいはい!! オレ、お前の寮に引っ越すわ!!」
「うん。じゃあニッケスは引っ越しで」
「はいはいはーいっ!! ね、エルク。それって女子もいいの?」
「ああ。監督教師も住むし、寮内は男女別。元は教職員用の寮だったらしい。そこを改装して、使っていいんだってさ」
「じゃあアタシも行くっ!!」
「フィーネも決定な」
エルクは、エルシからもらった『入寮者リスト』に名前を書く。
エルクはまだ知らないが、すでに改装は始まっている。個人戦の優勝者をエルクに認めると決めてから、ポセイドンはすでに寮の改装を始めていたようだ。
ハーレム御殿。エルクならそれを選ぶ……ポセイドンはそう思っていたようだ。もちろん、エルクはそんなつもりなど欠片もないが。
すると、ガンボが挙手。
「それ、個室か?」
「ああ。そうみたいだけど。教員用の部屋だから個室も広いみたいだ」
エルクは、渡されたマニュアルを読む。
ガンボは少し考え、エルクに言う。
「オレも入る。そこなら、やかましい連中もいねぇだろ」
「やまかしい連中?」
「気にすんな。で、いいのか?」
「もちろん。ガンボも決定な」
エルクは知らない。
ガンボは、エルクに敗北して以来、少なくない嫌がらせ行為を受けていた。
部屋を荒らされたり、ドアを壊されたりと被害を受けている。
エルクに言えば、エルクは気にする。そう思い、ガンボは事情をすでに把握しているニッケスに口止めをしていた。
エルクはそんなことも知らず、ガンボの名前を書く。
すると、フィーネが言う。
「ね、ね! エマもメリーも行こうよー」
「……えっと、私は行きたいです」
「……まぁ、私もいいですけど」
「よし。エマ、メリーも決定」
そして、エルクは最後の人物……ヤトを見る。
ヤトは、何を言うでもなくお茶を啜っていた。
エルクと目が合うと、小さく頷く。
「別に、どっちでもいいけど」
「そっか……まぁ、無理に誘わないよ」
「ええ」
ヤトはお茶を啜る。
エルクは、マニュアルを見ながら「おっ」と言う。
「この寮、お風呂があるみたいだ。男女別の大浴場だって……俺たちの住んでる寮、小さい浴槽とシャワーしかないもんな。さすが教員寮だ」
「……!」
と、ヤトがエルクを見た。
「やっぱり、私も入るわ」
「え……いや、無理しなくても」
「してない。で、いいの? 駄目なの?」
「い、いいけど」
「じゃ、決定ね」
こうして、学生寮に入るメンバーが決定した。
エルクは入寮者リストを手に立ち上がる。
「じゃ、これ提出してくる。どのくらいで寮が完成するかわからんけど、完成したらみんなを呼ぶから」
そう言って、エルクは店を出て、今度はエルシのいる『教頭室』へ向かった。
◇◇◇◇◇◇
「学生寮が完成した。いつでも入れるぞ」
「はい?」
入寮者リストを渡したエルク。
エルシが何を言っているのかわからず、思わず変な声で返してしまった。
「完成って……あの、この用紙もらって何時間も経ってないですけど」
「ははは。どれ、せっかくだ、学生寮に案内しよう」
「あ、はい……」
いまいち信じられないエルク。
エルシの案内で向かったのは、ショッピングモールから歩いて五分ほどの、二階建ての建物だった。
近くには似たような建物がいくつかある。どれも教員用の建物らしいが、今は使われていないのだとか。
その建物の一つに、『生徒用学生寮』と看板がかけられていた。
「ここだ」
「え、ほんとにここですか? なんかすごい立派に改装されてる……」
「私のスキルを忘れたか? 『時間操作』……現実世界では数時間でも、私のスキルで生み出した空間では、数か月が経過している」
学生寮内の時間を停滞させ、作業員にリフォームさせた。
現実世界では数時間だが、学生寮内では数か月経過したらしい。数か月あれば、リフォームだって終わるだろう。
エルシは言う。
「きみには感謝している。きみがいなかったら、女神聖教による被害はもっと出ていただろう。ポセイドンはハーレム御殿だの言っていたが……この場を、きみが学友と過ごす最高の場所にしてほしい」
「教頭先生……」
「それと、監督教師と調理師は手配しておいた。明日にでも寮に入るだろう」
「本当に、何から何まで……」
「気にするな。では」
エルクは頭を下げた。
エルシは歩きだし、止まる。
振り返らず、エルシは言った。
「大人の仕事と言ったが……もしかしたら、きみの力を借りるかもしれん」
「……はい」
「では、よき学園生活を」
エルシは今度こそ去った。
エルクは、学生寮を見上げる。
「学生生活、か……」
学園生活を満喫したい気持ちはある。
だが、その前に……キネーシス公爵家とのケリは付ける。
恐らく、ロシュオとサリッサの行方不明に関して、何らかの行動を起こすはずだ。
「───よし!! あ、そうだ。せっかくだし今日から入っちゃおうかな」
エルクは気合を入れ直し、旧寮にあり荷物を取りに向かった。
◇◇◇◇◇◇
寮にいたガンボ、ニッケスに新寮のことを話すと、「荷物の整理がある」と、入寮は明日以降になった。女子には、ニッケスからメリーに伝えてもらい、エマたちに伝えてもらう。
エルクは、自分の荷物をまとめて窓から飛び出した。
身体と荷物を念動力で浮かし、新寮まで一気に飛ぶ。
寮の前で着地し、荷物を浮かしたまま寮のドアを開けた。
「一番乗り!! いやー、気を遣う必要ないから楽でいいわ」
一階は、談話室。
キッチンも併設され、食事スペースにもなっている。ここから大浴場と、二階にある各自の部屋へ続く階段があった。
エルクは、新品のソファにダイブする。
「ふ、ふふふ……ふはははは。まさか、寮が手に入るなんてな。くぅぅ~っ!! こんな広い学園で、俺と、友達たちの住む寮!! いやー、めちゃくちゃ気分いいな!!」
ついつい、テンションが高くなるエルク。
せっかくなので、大浴場やキッチンも見ておこう。そう思い立ち上がる。
大浴場は、男女別に分かれている。大きな看板に『男湯』と『女湯』と書かれていた。
「風呂か。キネーシス公爵家にあったっけ……『熱湯』のスキル持ちを専属で雇って、サリッサのやつが毎日入ってたな」
昔を思い出しながら、エルクは大浴場の入口を眺め───。
「あ~いい湯だった!!」
「え」
突如、女湯のドアが開いた。
出てきたのは、灰色の髪の女性。
タオルを肩にかけ、上半身裸だった。下半身は下着一枚のみ。
「…………」
「…………」
エルク、女性は互いに硬直。
女性は笑顔のまま下がり、女湯へ戻り、ドアを閉めた。
そして───。
「っきゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!? ななななな、なになになに!? だだだ、誰ぇぇぇっ!?」
「え、あの、その。俺、ここの寮生になるエルクです。その……えっと」
思い出す、初めて見る女性の肌。
エルクは顔が赤くなり、首をブンブン振る。
「すす、すみませんでした!!」
とりあえず、謝るエルクだった。
それから、どうしていいかわからず、談話室をうろうろすると……今度は控えめに女湯のドアが開き、長い髪を結び、髪留めで固定した眼鏡をかけた女性が出てきた。
「……」
「……え、えっと」
「個人戦、優勝者のエルクくん……よね」
「は、はい」
「……寮に入るの、明日からじゃないの?」
「えっと……いつでも入れるって聞いて、せっかくなので来ちゃいました」
「そう」
わたしと同じね。
女性は、ポツリと小声で言った。
「あの、あなたは?」
「こほん。私は、この寮の監督教師となりましたソフィアです。歳は十九歳。よろしくお願いします」
「監督教師? あの、監督教師と食堂のおばちゃんは明日からって……あ」
「…………」
エルクは察した。
この人、俺と同じだ……と。
ソフィアはそっぽ向き、顔を赤らめた。
エルクは慌てふためきつつ質問した。
「えっと、ソフィア先生ってお若いですね。その、十九歳で教師とか」
「ええ、まぁ。でも、専門的な教師じゃない『監督教師』なので」
「は、はぁ……」
監督教師。
学校で教鞭を振う教師と違い、寮内限定の教師のことを言う。
たとえば、宿題でわからないことを教えたり。
たとえば、寮内で何かもめ事があった場合の対処をしたり。
たとえば、学園側のお知らせを伝えたり。
寮の責任者。それが監督教師である。
「こほん。えー、エルシ教頭先生からリストを受け取りました。男子三名、女子四名が入寮ですね。それぞれ部屋を用意していますので、ご案内します」
「あの……俺、来ちゃマズかったですかね」
「そんなことはありません。では、男子寮はこちらです」
「は、はい。それと……その、見ちゃって申し訳ございませんでした」
「…………」
ソフィアの耳が、これでもかというくらい赤くなっていた。
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