滅亡回避し栄華を手に！！ 名門だけど滅び歴史に埋もれた豊嶋家,嫡男に転生したのでチートを駆使する

挑発

風魔衆の主だった者より、足利成氏軍の動向を確認した後、今後に向けて新たな指示を出した。

やる事としては、まず京に向かった父である豊嶋泰経に書状を送り、幕府の実権を実質裏で握っている管領の細川政元（ほそかわ まさもと）に接触を持ち、斯波義寛と伊勢盛時、そして小鹿範満の間に不和をもたらす命を下して貰うよう頼む事。

ただ、細川政元とは今まで誼を通じていないので、金はかかるが、日野富子に仲立ちを頼み、尾張・越前・遠江守護である斯波義寛が、駿河の今川、甲斐の武田と手を組み、三河守護である細川成之から三河を奪い、細川家の衰退を目論んでおり、幕府から龍王丸を今川家の当主とすべく派遣されている伊勢盛時もその企みに加わっている。

との事を報告して貰うだけだけど、実際に長年幕府の命に従わず、上杉家と争っていた古河公方と豊嶋家が争っている中で、斯波義寛が伊勢盛時、小鹿範満と共に伊豆まで攻め込んで来たという事実があるので、三浦時高と太田道灌に押し返されたとはいえ、その矛先を三河に向けないとも言えない。

細川家としても、管領としても、斯波義寛と伊勢盛時が手を組む事は見過ごせないはずだ。

そして、武蔵の方では、成氏の軍に合流した上杉顕定に従っている者の中で豊嶋より調略を受け、内応を約束している者への繋ぎを付ける事。

成氏に雇われている伊賀者を減らして成氏の目と耳を潰したうえで、風魔衆が動きやすくする事。

成氏軍を挑発し、この日野の陣に目を向けさせ江戸や豊嶋領の主要な城へ行かせないようにする事の4つだ。

幸い、上杉顕定の軍には伊賀者も目を光らせていない上、兵を挙げる前から調略をかけ、調略に応じた者の元には、繋ぎを取る為という口実で、風魔衆を一時的に家臣として召し抱えさせている。

まあ実際の所、繋ぎの役割もあるが、監視の役目も担っている。

なんせ現状では成氏軍の方が兵数が多く、普通に考えても成氏軍が有利である以上、調略に応じ内応を約束していても、豊嶋家が不利になれば手の平を返すはずであり、その際は必ず繋ぎ役として家臣になっている風魔衆が邪魔になり殺そうとするはずだ。

なので調略に応じた者に付けた風魔衆を監視している風魔衆を兵の中に紛れ込ませているので、異常があれば分かるようになっている。

今の所、裏切りの報告は無い為、服部孫六には、内応を約束した一人に、書状を2通程届けさせる。

そして成氏の元に居る伊賀者に関しては、望月弥一郎の案で、風魔衆の乱破組を6人で一組にし、1人が敢えて伊賀者に見つかるよう成氏軍の陣に潜り込もうとし、伊賀者が現れたら逃げる振りをしながら味方が伏せている場所まで誘導し討ち取る事になった。

実際は既に似たような状況が発生し、追って来た伊賀者を返り討ちにした事で今回、本格的に行う事になった。

後は、成氏軍を挑発する方法だが、これに関しては、俺自らが兵を率いて行う。

望月彩芽には挑発後、日野の陣に戻る豊嶋軍を追って来るであろう成氏軍に多少なりとも打撃を与えるような仕込みを命じた。

望月彩芽、服部孫六に指示を出した5日後、望月彩芽より仕込みが終わったとの報を受け、2000の兵を率いて日野の陣を出陣し川越に向かう。

俺が率いる兵2000は全員が騎馬隊ではあるが軽装な上、内100人は鉄砲隊の中から騎乗できる者を選抜している。

なぜ全員が騎馬なのか、まあそれは挑発後に追って来るであろう成氏軍から逃げ切る為だ。

夜の内に出陣し、途中休息を取りながら日が昇り出す頃に川越近くに到着すると、川越城を囲む成氏軍に向け、俺が単騎進み出る。

「我こそは武蔵の国の江戸城城主、豊嶋武蔵守宗泰である！！　この関東に乱をもたらし民を苦しめる元凶である足利成氏を成敗しに参った！！　足利成氏！　其の方も足利姓を名乗る武士（もののふ）であるなら名乗りを挙げて我と一騎打ちせよ！！！」

「「「足利成氏！！　足利姓を名乗る武士なれば、尋常に豊嶋武蔵守宗泰と一騎打ちせよ！！！」」」

俺が名乗りを挙げて、口上を叫ぶと、それに続き、率いて来た2000の兵が口を揃え叫ぶ。

「我こそは武蔵の国の江戸城城主、豊嶋武蔵守宗泰である！！　この関東に乱をもたらし民を苦しめる元凶である足利成氏を成敗しに参った！！　足利成氏！　其の方も足利姓を名乗る武士（もののふ）であるなら名乗りを挙げて我と一騎打ちせよ！！！」

「「「足利成氏！！　足利姓を名乗る武士なれば、尋常に豊嶋武蔵守宗泰と一騎打ちせよ！！！」」」

突然現れ、大声で足利成氏に一騎打ちをせよと叫ぶ豊嶋軍に、城を包囲している成氏軍の将兵は驚きつつも、いつ豊嶋軍が突撃して来てもいいように素早く迎撃態勢を取る。

「我こそは武蔵の国の江戸城城主、豊嶋武蔵守宗泰である！！　この関東に乱をもたらし民を苦しめる元凶である足利成氏を成敗しに参った！！　足利成氏！　其の方も足利姓を名乗る武士（もののふ）であるなら名乗りを挙げて我と一騎打ちせよ！！！」

「「「足利成氏！！　足利姓を名乗る武士なれば、尋常に豊嶋武蔵守宗泰と一騎打ちせよ！！！」」」

三度目の口上を叫んだ頃、成氏軍の中から騎馬武者が1人進み出て名乗りを挙げる。

「我こそは結城家一門、山川景貞（やまかわかげさだ）が家臣、立野朝康！！　豊嶋武蔵守宗泰殿の首、某が頂戴致す！！　いざ、尋常に…」

「撃て」

パパァーン！！！

結城家家臣、立野朝康が名乗りを挙げ、口上を述べている最中、1月の寒空に3丁の鉄砲が乾いた音を立てながら火を噴き、直後、立野朝康の身体がぐらりと傾き、そのまま崩れ落ちるように落馬し、動かなくなる。

「失せろ下郎！！　我こそは帝より武蔵守に任じられた豊嶋武蔵守宗泰ぞ！！　大将同士の一騎打ちに、端武者如きがでしゃばるな！！　足利成氏を連れてこい！！　それとも関東公方を自称する成氏はこの豊嶋武蔵守宗泰が怖くて陣屋の奥で震えておるのか！！！」

「「「端武者如きがでしゃばるな！！　関東公方を自称する成氏はこの豊嶋武蔵守宗泰が怖くて陣屋の奥で震えておるのか！！！」」」

川越城を囲む成氏の軍の元へ向かい、一騎打ちを申し込めば、当然手柄を立てて名を上げようと、どこかの家の家臣が出て来るのは想定の内であり、その際の口上もしっかりと俺の率いて来た2000の兵には覚えさせており、俺が声を張り上げた後、それに続き兵達が口を揃えて声を張り上げる。

まあ実際の所、本当に成氏が出て来て一騎打ちになったら俺が困るんだけど…。

なんせ成氏がどの程度強いかなんて知らないし、そもそも俺自身が太刀を持って戦った事なんて無いし!

成氏軍の方からはチラホラと卑怯なとか、叫ぶ声が聞こえて来るが、2000の兵が口を揃え「陪臣の端武者如きがでしゃばるな！！　関東公方を自称する成氏はこの豊嶋武蔵守宗泰が怖くて陣屋の奥で震えておるのか！！！」と叫ぶ声にかき消されている。

「足利成氏！！　太田道真殿を、坂東武者の鑑と褒め、川越城を落とし、道真殿の首を獲ると宣言したにも関わらず、大軍を擁して城を囲む事しか出来ぬ腑抜けは一騎打ちも怖くて出来ぬのか！！！　それとも御歳74の道真殿が怖くて、寿命でお亡くなりになるのを待っておるのか！！」

「「「足利成氏！！！　一騎打ちが怖くて出て来れぬのか！！！　太田道真殿を、坂東武者の鑑と褒め、川越城を落とし、道真殿の首を獲ると宣言したにも関わらず御歳74の道真殿が怖くて、寿命でお亡くなりになるのを待っておる臆病者！！」」」

大軍を率いる古河公方こと足利成氏が一騎打ちに応じるとは最初から思ってもいないし、有力な国人衆の中から当主自らが、俺と一騎打ちをしようと出て来るとも思っていない。

そう、これは只の挑発であり、布石でしかないのだから。

その後、何度か成氏を臆病者と罵り、挑発を繰り返していると、流石に堪忍袋の緒が切れたのか、それとも成氏が命じたのか、成氏軍の兵達が一斉に鬨の声を上げながら向かって来る。

「鉄砲隊、一斉射、撃てっ！！！」

ドドドドドッーン！！！！

「退くぞ！！　遅れたら命は無いと思え！！」

鉄砲隊が一斉射を行った直後、退却の命を出し、全軍で日野に向けて馬を走らせる。

豊嶋軍を追う成氏軍の騎馬武者は重い鎧を身に着けているが、今回俺が率いて来た2000の兵は軽装の為、余裕を持って追撃を躱せる。だが、それでは意味が無いので、所々で馬足を緩め、敵が追い付くのを待ち、敵が近づいたら兵達に成氏とそれに従う国人衆を罵る言葉を浴びせ、挑発してから再度逃げる。

川越城を包囲する一角で挑発した程度の為、追って来る敵は見る限り4～5000程度であり、騎馬武者のみが先行し、徒武者はその後を遅れて追いかけるような感じとなっている。

成氏軍の兵が追撃を諦めないよう、注意を払いながら小手先ヶ原（埼玉県所沢市北野周辺）まで敵を引き付けると、枯れ草の生い茂る道を抜け、踵を返す。

「火を放て！！！」

風魔衆による仕込み。

それはこの小手指ケ原にある枯草の生い茂る小道に前もって燃えやすい藁や枯草等を密かに集めておき、火を放つと一帯が火の海になるようにする事だ。

臭水も使い延焼が広がりやすいようにしていた事で、追って来た騎馬武者は何とか難を逃れ枯草が生い茂る道を通り抜けたが、後から追って来た徒武者や雑兵などは、慌てて引き返そうにも後続の兵が邪魔で思うように逃げられず、火と煙に捲かれていく。

そして火攻めから難を逃れた騎馬武者は、待ち構えていた豊嶋軍の鉄砲隊による一斉射を受け、混乱したところに、先程まで追いかけていたはずの豊嶋の騎馬武者が突撃した事で、逆に追い立てられ散り散りになって逃げだしていく。

これで挑発は完了した。

後は成氏がどうするかだけど、予定通り事が進むかどうか…。